思いがけない再会
「ふっ、フフ……はははははっ!」
ディノの様子を黙ってみているだけだったおじさまが急に笑いだした。
「おじさま、お願いっ、このお金で足りなかったらミアのお金いくらでも使っていいから銀のお皿を探してっ」
「ミアはまだ子供じゃねぇか、金なら俺がなんとかするって」
「家族の事だもん、ミアだって力になりたい! 使わないお金なんて持ってたってしょうがないもんっ! だってこれってじぃじの大切にしてた物だったんでしょう?」
「あぁ、親父のじぃさんが作らせたモンで税取立の役人が来た時には必ずその皿でもてなしたんだとよ」
「役人は面子を重んじますからね」
いつの間にか笑い終わってたおじさまが納得といった顔で頷いた。
「そうです、この皿でもてなせば間違いない。自分の祖父はそう教えてくれたと、この皿と祖父の事を話す時だけ親父は饒舌になって……」
ディノはその時の事を思い出してるのか、懐かしそうに目を細めた。
そっか、そのお皿はじぃじの大切な思い出なんだ。
想像つかないけど、当たり前にじぃじにも子供の頃があって、お父さんやお母さんやおじいさんやおばあさんがいたんだよね。
そんな大事なお皿なら見つけてじぃじに渡してあげたい。
「お願いっ、おじさまっ!!」
ミアが必死に頼んだのに、笑い終わったと思ったおじさまはまた笑いだした。
さっきよりはおとなしい笑い方だけど。
「ふふ……いいでしょう、その銀の皿の行方を追ってみましょう」
「本当!?」
「あ、ありがとうございますっ」
うれしくてミアはつい立ち上がっちゃったし、ディノも一瞬腰が浮いちゃってた。
「いやぁ、つまらぬ勘繰りをしてしまいました。あなたが商業ギルドの職員だったので、てっきりミアちゃんを介してバイエル商会へ食い込もうとしてくるのではなどと……」
おじさまは自分でティーカップにアップルティーのおかわりを注ぐと「他でもない、かわいい妹の家族のための頼み事ですからね、バイエル商会の全力で探し出してみせますよ」とウインクした。
それからはおじさまもディノに普通に接してくれて、ミアにお土産をどっさりくれた。
たくさんの本に珍しいお茶の葉っぱや、もう少ししたら寒くなるからと裏側がふわふわの毛皮のコートやブーツ、それに丸々とした栗をじっくりことこと炊き込んだマロングラッセも!
「少しお酒が使ってありますので、寒い冬の紅茶に合いますよ」とおじさまが言ったら「そりゃいいな!」と何故かディノがにこにこしてた。
「ミアからもお土産あるんだよ」と、創造してきた魔法収納袋を渡したら「3枚もですか!? これではこちらがもらいすぎです」と、慌ててディノが出した大金貨を返された。
「いやっそれじゃあ……!」とディノが慌てて、また大金貨をおじさまの方へ押しやると「いやいや……」とまた押し返される。
何度かそれを繰り返した後に「それだけ貯めるのは大変だったはず。ここは年上の顔を立てて納めておきなさい」とおじさまに言われて、ディノは泣きそうな顔で拝むようにお金を受け取った。
エルフに年上だからって言われたら、大体の普人は敵わないよね!
帰りの馬車でディノはぐったりとしている。
「お皿、早く見つかるといいね」と言えば「売られちまったのはもう随分前だからな、溶かされちまって見つからねぇかもしれねぇ」と外を眺めながら呟いた。
「そんな……」
「でも、やれることはやった。バイエル商会の伝手でダメなら諦められる」
銀のお皿はどうして売られちゃったのかとか、ミアにそれを教えてくれないのは子供だからなのかな? とか色々聞きたいことはあったけど、それきりディノは唇を引き結んで黙ってしまった。
「ね、ディノ、もしもお皿が見つからなかったらおじさまが返してくれたお金で新しいお皿をじぃじにプレゼントしようよ」
そう言うとディノは一瞬ほうけたような顔をした。
「新しい皿……?」
「うん、二人でデザインを考えて職人さんに作ってもらうの」
「……俺は取り戻す事ばっかり考えて、そんなこと考えつかなかった……」
「元のじゃないとじぃじは喜ばない?」
「いや、そうだな、もし、見つからなかった時はミアの言った通りにしよう」
「うんっ」
よかった。
お皿が見つからなくても他にできることがあるとわかったディノの顔は少し明るくなった。
「そうだ、ミア、たまには外でメシ食わないか? この近くで馴染みの食堂があるんだ」
ディノは窓から外を確認すると、馬車の壁をコンコンっと叩いた。
しばらくするとゆっくり馬車が止まる。
御者さんが「こちらでよろしいですか?」と扉を開けてくれる。
この辺りはミアはまだ来たことのないところ。
「あぁ、急にとめてもらって悪かったな」
「いえいえ、では私はこれで。お嬢様、失礼致します」
丁寧な礼をして御者さんは来た道を引き返していった。
大通りから脇道に入ってしばらく歩くと、その食堂はあった。
ドアを開けると上につけられたベルがガランゴロンと鳴った。
「いらっしゃいませ」
「なんだ、サンディノさんか」
「なんだはねぇだろ」
いらっしゃいませと挨拶したのは焦げ茶の髪の女の人で、ディノの名前を呼んだのは男の人。
男の人は赤茶のゆるふわな髪に海老茶の瞳……
あれ、どこかで…………
向こうもこっちをじっと見ている。
「ら、ライ!?」
間違いない、カイ兄ちゃんのすぐ上のお兄さんのライだ!
猟師は向いてないから街へ出たってイオさんが言ってたけど、それってアイナブルゴヤだったの!?
「びっくりしたか?」
ディノは驚いてるミアを見てにやにやしてる。
びっくりしたに決まってる!
こんなところでディノ以外の同じ村の人と会うなんて……!
あ、でもどうしよう、ミアはカイ兄ちゃんから逃げてここにいるのに!
ライが知らせたらカイ兄ちゃんにミアの居場所がバレちゃう!!
心臓が急にばくばくとするのを感じながら、じりっと後退りしたミアを見てライは焦った声を出した。
「待てっ、事情は聞いてっからっ、悪いようにはしねぇって!!」
ちらりとディノを見上げれば軽く頷き返されて本当だとわかった。
「とりあえず座って落ち着け」
カウンターに近いテーブルを選んでディノはどっかりと座った。
先に話してくれてたらミアだってこんなに慌てなかったんだから、焦ったのはディノのせいなのにっ!
少し前からついたリアクション機能楽しんでいます。
きっとこう思ったから、これを選んでくださったのだな、と想像しながら眺めています。
なので、どんどんじゃんじゃん押して欲しいです。
よろしくお願いします( ^ω^ )




