お願いは探し物
「その、な、ミアに頼みがある」
ディノのおうちでお世話になって約3ヶ月。
夕飯を終えたら2階にお茶を運んでまったりするのが習慣になっていて、今日もソファーに座ってお茶を注いでいたら、いつになく真剣な顔でディノが切り出した。
「…………お金貸してとか?」
「ちげーわっ!!」
真剣すぎる顔が少し怖かったから、茶化したらいつものディノになってくれた。
「子供から金を借りるほど落ちぶれちゃいねぇんだよ、俺もな」
「ミアに手伝えること?」
「ミアに、というよりはお前の実家のバイエル商会の力を借りてぇ」
ギルドのお仕事なのかな?
バイエル商会はエルフの王室御用達で各国に支店があるって聞いてる。
そういえばアイナブルゴヤにも支店があるって言ってたけど、お買い物は市場で間に合ってるからまだ行ってなかったっけ。
「バイエルのおじさまが良いよって言ってくれるかはわかんないよ?」
「もちろんだ、頼みごとは商会長本人じゃなくてもかまわねぇんだ。ミアには商会に話を通すまでのセッティングをして欲しいんだ」
「うん、じゃあ、聞いてみるね」
伝言鳥のおかめちゃんに「おじさま、お久しぶりです。えっとね、ミアのパパの弟がバイエル商会に頼みたいことがあるの。お手紙でも伝言鳥でもいいんだけど、お話を聞いてもらえる?」と吹き込んだ。
飛ばす前にディノを見たら、こくんと頷いてくれたからそのままおじさまへ飛んでもらう。
ディノは緊張してたみたいで、いつもは使わない蜂蜜をお茶へ混ぜてごくごくと飲み干した。
ミアはいつも通りたっぷりめに入れて、火傷しないように気をつけて少しずつ飲む。
ミアのマグカップが空になる頃、ココア色に喉元が白の小さな伝言鳥が壁をすり抜けてミアの前に舞い降りた。
おじさまの伝言鳥だ。
商人の伝言鳥は目立たないのが一番だって前に言ってた。
ディノはその小鳥をじっと見つめている。
「伝言を」
「お久しぶりですね、ミアちゃん。ちょうど様子を知りたいと思っていたところです。お土産をたくさん持って行きますからね、一週間後にそちらのアイナブルゴヤの支店で一緒にお会いしましょう」
よかった!
「お話聞いてもらえるみたい! よかったね、ディノ!」
「……もう一回?」
もう、ディノちゃんと聞いてなかったの?
「もう一度」と伝言鳥にお願いすれば、さっきと同じ伝言が繰り返される。
「おじさまありがとう! 一週間後に支店にディノと一緒にお邪魔するね」とおかめちゃんにお返事を届けてもらう。
おかめちゃんは元気いっぱいに飛んで行った。
「嘘だろ……え、商会長直々って……え、ギルド長でも会ったことねぇのに……?」
ディノは部屋をうろうろしながらぶつぶつ呟いてる。
おじさまが会ってくれるのにうれしくないのかな?
「ねーねー、ディノ、こっちからも手土産を持っていった方がいいよね? 何がいいと思う?」
「エルフ王室御用達の商会長に渡すもんなんて俺には思い浮かばねぇ……っ」
「よーし、準備万端! じゃ、ディノ行こうっ」
「お、おう」
御者さんの差し出してくれた手を借りて、艶々の黒い馬車へ乗り込む。
中は臙脂色のふかふかなソファーと天井には光石をたくさん繋げた小さなシャンデリア。
忘れ物チェックは三回もしたから完璧!
手土産にミア手作りのジャムサンドクッキーに、魔法収納袋を3つ。
魔法収納袋は時間経過有りの荷馬車1台分ぐらいのにしておいた。
これが一番みんなに知られているタイプなんだつて。
おめかしもちょっとしたよ。
上着を着るほどではないけれど、少し涼しくなってきたから、長袖のマスタードイエローのタフタのワンピース、襟と袖口の茶色のコーデュロイ生地がアクセントだよ。
モカ色のタイツに黒の編み上げブーツ!
「創造」を連発しても、もうディノも何にも言わない。
ディノも特別な日に着る真っ白なシャツにとウールのズボン、首には刺繍のある細長い布を巻き付けている。
「よしっビビるな俺!!」
頬を両手でぱちんと叩いてディノは馬車に乗り込んだ。
おじさまは優しいから大丈夫だよ。って何度言ってもディノは信じられないみたい。
今日だってバイエル商会からお迎えの馬車を出してくれたしね。
馬車が走り出して30分ぐらいかな?
ゆっくりと動きを止めた馬車が停まったのはバイエル商会の真ん前だった。
「いらっしゃいませっ! お嬢様っ!」
乗った時と同じように御者さんの手を借りて先に降りれば、お店の入り口に店員さん達がずらりと左右に並んで頭を下げている。
その真ん中にはおじさまがにこにこと立っている。
「おじさま!!」
懐かしい!!
えっと、えっと、四年ぶり?
温もりを感じさせるココア色の髪も瞳も、ちっとも変わってない!
エルフの国から村へ帰る時に一緒に馬車で楽しくお話した。
遠方の親戚ができたと思って困った時はいつでも頼って欲しいと繰り返し言ってくれた、優しいおじさま!
「お久しぶりですっ」と側まで行けば「やっとかわいい妹に会えました」と軽くハグをされる。
「おじさま、後ろにいるのがミアのパパの弟でサンディノ。ディノ、おじさまって呼んでるけど、この人がミアのお兄さんでバイエル商会の会長さんだよ」
「は、初めまして……っ」
振り向いて紹介したディノはかちこちに緊張感している。
「ふむ、君が……」
おじさまは上から下までディノを一通り見て「バイエル商会へようこそ」と言った。
そしてミアの肩に手を置いて「さぁ、奥へ行きましょう、美味しいお茶とお菓子を用意させてますよ」と誘った。
あれれ、おじさま、ディノに素っ気ない……?
ちらりと振り向くと、ディノもお店の人に案内されて後ろをついてきてる。
目が合うと苦笑いして小さく頷いてくれたから、ミアも小さく頷いておいた。
立派な応接室に通されて、アップルティーとナッツを砕いてキャラメルで固めたヌガーみたいなお菓子に、ミアが持ってきたジャムサンドクッキーも出してお互いに近況をおしゃべりする。
「こちらに来たなら、もっと早くにうちに寄ってくれると思ってましたよ? 支店長にもミアちゃんが来たらよくもてなすように言ってあったのですよ」
おじさまは壁際に立っている50代ぐらいの男の人に目をやる。
ディノが小声で「アイナブルゴヤの支店長のスタットさんだ」と教えてくれた。
「そういえば、君の事は調べさせてもらったよ、アイナブルゴヤの商業ギルドの職員らしいね」
「は、はいっ」
ディノを見るおじさまの目は冷たい。
「ミアちゃんから頼みがあると聞いていますがどのような?」
隣のディノの喉がごくりと上下するのがわかった。
「さ、探し物をしていただきたいんですっ」
「探し物……?」
「五枚組の銀の皿です、20年ぐらい前にヴィゼンブルグ村から一番近い街の古道具屋に売りに出されたってとこまではわかってるんです」
ディノはズボンのポケットから折り立たんだ紙を出して広げて見せる。
「大体これと同じ大きさの、こう、右と左に葉っぱと実の意匠が浮き彫りになってて……っ」
紙にはステーキをのっけるような楕円のお皿の絵が描いてある。
絵の側には誰かのイニシャルみたいなのも描いてある。
「裏にはこのイニシャルが彫ってあるんですっ、もしかしたらイニシャルは消されちまってるかもしれねぇんですけど……っ! でも、何とか……っ」
「ちょっと待ってください……? その、頼みというのは」
おじさまはどうしていいかわからないような顔をしている。
「20年探し続けて俺の力じゃ見つけられねぇんですっ! どうか力を貸してくださいっっ!!」
ディノは両手をテーブルについて、頭を下げた。
おじさまは黙っている。
「このお皿は元々誰の物だったの?」
「……親父だ」
「じぃじがその銀のお皿を売ったの?」
「違う。親父も兄貴もミアに事情を話してねぇから言えねぇが、うちの家宝だったモンだ」
「それをずっと探してたの?」
「兄貴一人に全部背負わせて村から逃げた俺にできんのはこれしかねぇ」
……逃げたって何から逃げたの?
ディノは苦い苦い顔をした。
「ミアのことで手紙を何度もやり取りしただろ? 親父の具合が良くねぇって……本当なら俺が探して買い戻したかったんだがよ、時間がねぇんだ」
ディノはさっき紙を出したのとは反対のポケットから小さな巾着を取り出した。
ひっくり返して中身をテーブルへあけると、ゴトっと金貨が現れた。
違う、金貨じゃなくて大金貨だ!
一つで金貨10枚分の価値がある大金貨は厚みも10枚分。
それが5枚もある。
「俺の全財産です、足りなければギルドから借金してでも間に合わせますっ、これでうちの家宝を取り戻して欲しいんですっ!!」
「ふっ、フフ……はははははっ!」
ディノの様子を黙ってみているだけたったおじさまが急に笑いだした。




