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転生エルフとパパとママと林檎の樹  作者: まうまう


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保護者交代

「では、私は行きますね」

「うん、ここまで送ってくれてありがとう」


今日はピュイトとお別れする日。

夜明け間近の噴水広場には出発前のたくさんの乗り合い馬車やその乗客、見送りに来ている人が集まっている。


「これね、小さいけど色々入ってるから」


少し小声で昨日作ったサコッシュみたいな革袋を渡せば「おや、気を使わせてしまいましたね」と笑顔で受け取ってくれた。


中には毛布にパンや干し肉や果物や瓶詰めにしたお水、それに作りおきをしておいたお薬なんかが入れてある。

時間停止をつけたけど、容量は小さめの荷馬車半分程度にしたから軽く作れちゃった。


「これ、パパとママとじぃじに渡してくれる?」

無事にアイナブルゴヤに着いたこと、ディノと仲良くやれそうなこと、ディノの瞳はパパにそっくりで安心したこと、をそれぞれにお手紙を書いた。

「俺のも頼みます」

ディノも昨日の夜「くそっ手紙はもどかしいな、言いたいことは山みたいにあんのにっ」と遅くまでかかってパパとじぃじ宛の手紙を書いていた。


「確かに預かりました」


「パパ達のことお願いね」


「心配せずとも大丈夫です。それよりミアはせっかくなのですから、自分の世界を広げることです。女神様の創られたこの世界は美しく、そして広いのです……自分の目で見て、感じて大いに学んでくださいね」


「……うん、わかった」


でもね、どんなに世界が広くてきれいでも、そこにパパとママがいないなら意味はないよ?


「では」


朝日が広場に射し込んだのを合図に馬車が一斉に動き出した。


暗い馬車の中でもピュイトの銀髪は輝いていて、それがなんだかお別れをもっとさみしくさせた。


「よし、そんじゃ朝メシ食って帰るか」


ディノがミアの頭をくしゃっと撫でる。


「うん、帰ろ」




いつもより早い時間の市場には、革鎧を着ている人や金属の膝当てを身につけて、剣や弓を持ってる人がたくさん。

大体が何人かのグループで固まっておしゃべりしながら屋台の朝食をとっている。


「ディノ、なんであんな人達がいっぱいいるの?」

肉団子と麦を煮込んだスープをふぅふぅと冷ましながら尋ねると、朝から肉串にかぶりついたディノは「あー、あいつらは冒険者だ」と教えてくれる。


「冒険者なの?」

「アイナブルゴヤの冒険者ギルドは有名なんだが、ミアは知らねぇのか? こっから……そうだな歩きで半日ぐらいのところにでかい森あるんだ。あいつらはそこで魔石を採取したり、魔物の狩りをしたりするんだ」

「魔物!? 魔物は魔素山の樹海にしかいないんじゃないの!?」


肉串から最後の一切れを口に入れたディノは「基本はそうなんだがよ、河はずーっと続いてるもんだろ? 魔素山から流れてきた魔石を体内に取り込んだ動物が魔物化したりするんだよ」


「魔石?」


ミアが持ってる聖石とは違う物?


「これも“学び”だな、よしっ、商業ギルドで見せてやる」

ディノは食べ終わった串を屋台の串入れに投げ込んだから、ミアも急いで最後のスープを流し込んだ。



早朝の商業ギルドはまだ誰もお客様は来ていない。

「はよっす」

「あら、ディノ早いのね」

「ちょっと社会見学ってヤツ」

ちらりと後ろのミアを見て、この間も会ったお団子のお姉さんは「あぁ」と納得した。



「魔石ってのは魔道具にかかせないもんなんだ」

カウンターの内側へ入れてもらうと、ディノはいつもお姉さん達が座ってる場所に置いてある金属の箱を指差した。

それは椅子と同じ数だけ置いてある。

大きさは幼稚園児のお弁当箱ぐらい?

表面にはびっしりと魔方陣と古代語が刻まれている。

その中央にはころんとした黒い石。



聖石とは違う石だ。

魔素は含まれてるけどたくさんは入っていない。



「詳しいこと聞かれても答えられねぇからな。これはいつ、誰が、考えて作ったのかわかってねぇんだ」


…………なんか、魔方陣はわからないけど、その周りの古代語は“魔素の消費拡大に普人も協力すべし、その代わりに記録媒体を授ける”って書いてあるね…………


うん、これって多分ジーンが創造(クリエイト)したんだ。


魔素の調整はジーンの仕事だもん。


「ほら、カードをここにかざしてみろ」


魔石の上にミアのカードを翳すと、魔方陣が淡く光った。

光りが収まると表面に刻まれてた魔方陣や文字が消えて、その代わりに『ミア/白金(プラチナ)/口座残高:白金貨60枚、大金貨43枚、金貨7枚、大銀貨2枚』と光る文字が浮き出てきた。


「わ、なんか出てきた!」


ん? 白金貨? 白金貨って見たことないけど、そんなお金あったっけ?


「そこの“口座残高”のとこ押してみろ」


「ここ?」


素直に言われたところを押してみれば『入金履歴/出金履歴』と出てくる。


スマホみたいな?

続けて出金履歴を押すと3日前の日付で『アイナブルゴヤ:大銀貨5枚』と出た。

じゃあ、入金の方はどうかな?

軽い気持ちで押してみたら

『バイエル商会:大銀貨8枚、バイエル商会:金貨2枚、バイエル商会:大銀貨5枚、バイエル商会:金貨7枚…………………』と延々とバイエル商会からの入金が続いている。


「わわわ、もういいよ!!」


ディノが魔石にタッチすると浮き出てた文字は消えた。


「……ミアってすごくお金持ちなの?」

「……お前の周りはお前をどうしたいんだろうな?」


ディノはすごーく呆れた目でミアを見てくるけど、ミアには創造(クリエイト)があるし、村ではそんなにお金使わなかったし、知らなくてもしょうがないよね?


えへへ、と誤魔化し笑いをしたミアにディノは大きなため息をついた。



「話を戻すぞ? 魔石は魔素山からしか採れないが長い時をかけて河を流れてくるのもあるんだ。アイナブルゴヤの森は大昔は川があったって言われてる。この魔道具は原理なんかはわかっちゃいねぇが、真似して作ることはできるんだ。魔石は魔素が少なくなると黒色が抜けて段々と透明になってくる」


ディノは隣の魔道具を引き寄せてミアに見せてくれる。


「本当だ、こっちの方が色が薄い」


「消耗品なんだ、だから冒険者なんかが森の深くまで入って探してくるんだ。滅多に見つからないから高値がつく」


エルフの国でおじいちゃん先生に習ったよ。


魔素の感知はエルフやドワーフの魔臓のある種族が得意なんだけど、魔素山や樹海は魔素が濃すぎて近づけない。

普人や獣人さん達は魔素の影響を受けないから樹海に入ることができるけど、魔物と戦うには魔法が使えないとかなり不利。

だから魔素山と樹海は不可侵、どこの国の物でもない。だっけ。



「ちなみにギルドの最高ランクの名前にもなってる“魔鋼鉄(アダマンタイト)”も同じで基本は魔素山からしか採れねぇんだが、ごくたまに見つかってる。そっちはもっと高額だから冒険者達も必死だ」


ミアは最強の魔臓を持ってるから、多分魔素山でも平気だけど……今は言わなくていいよね?


「うん、よくわかった。ディノありがとう」




ディノは今日はお休みの日だから、魔石の説明をしたら長居は無用とばかりにそそくさとギルドを後にした。


大通りをブラブラしていても、ディノと一緒だと自分からビリビリに当たりにくる人が少なくていい感じ。

時々鳴るバチッという音にディノはビクッとしてるけど。


「ついでに買い物もして行こうかな。お昼ごはんは何がいーい?」

「さっき朝メシ食べたばっかだろ」

「そんな意地悪言うとパンしか出してあげないから」

「あー、肉! 肉がいいな!! ミアの焼き肉は絶品! 世界一だ!!」


ディノはみりあの時に聞いていた、親戚のおじさんやいとこそのままみたい。

パパやママより友達っぽくて時々ふざけてくれたり、でも必要なことはちゃんと教えてくれたり。

パパとママだけじゃなくて、じぃじもディノもミアの家族。


一人じゃないって、家族がいるよって思うだけで胸がきゅうっとうれしさで溢れちゃう。


「んー、そこまで言うなら、お肉にしてあげようかな」

「よっしゃっ!」


手を繋いで大通りを歩けば、自然と足が軽くなる。


よし、今日のお昼はジャイアントコッケーの唐揚げにしてあげよう!




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