旅立ちの朝
たったったった……
誰もいない道でミアの足音だけが聞こえている。
行商に来やすいようにバイエル商会が整地してくれた道は前より格段に歩きやすい。
「ズルして履きやすいブーツを創造してきたけど、こんなに歩きやすい道、カイ兄ちゃんが気づいて追ってきたらすぐ捕まっちゃう」
ミアの歩幅とカイ兄ちゃんの歩幅じゃ全然違うんだもん。
カイ兄ちゃんは予定通り、朝早く隣村へお使いに行った。
隣村から帰ってくるのは明日だから大丈夫だよね。
ミア達が向かうのは逆方向だし。
「村でやり残したことないよね……?」
イオさん達と話し合いの次の日に3人で村へ行った。
じぃじに村を離れる説明をしたら「儂のッ、儂の眼力でアヤツを黙らせてやるわいッッ」とぶるぶる震えながら立ち上がったけれど、すぐ胸を押さえて蹲った。
慌ててベッドへ運んで休んでもらったら痛みは引いたみたいでほっとした。
ウェルツティン先生に伝言鳥を送ってどうしたらいいか聞いたら「急に立ったり怒ったりしたらいけません。起きる時もベッドからゆっくりと下りてください。激しい運動やお酒もいけません。冷えないように温かくして」とアドバイスをもらった。
パパもママもミアについてくる場合じゃない。
じぃじのことしっかり見ててもらわなきゃ!
「ミアね、サンディノおじさんに会うの初めてだよ。じぃじに似てる? 会うの楽しみだよ」と言ったら「また苦労させるな」と目を閉じたまま微かに笑った。
パパとママにはそのままじぃじを見ててもらって、ミアは教会へ行った。
ピュイトにも事情を説明しとかないとね!
教会の奥の部屋で一通りミアの話を聞いたピュイトは「ミアの旅立ちは何でいつもこう急なのでしょうか?」と、眉間を人差し指でぐりぐりしながら口元をひきつらせた。
「いつもって、まだ2回目だし、それに前も今回もミアが決めたんじゃないし……」
「で、10日後に村を出る……と」
「うん、早い方がいいってイオさんが。……ミアもそう思うし」
「……いいでしょう、では、私がサンディノのいるアイナブルゴヤまで送ります」
えっ!と目を見開いたミアに「忘れたのですか? 私の使命はあなたを守ることですよ。でも何でいつも急なのでしょうね」とほっぺをむにっと摘ままれた。
「ミアはすごくうれしいけど教会のお仕事は大丈夫なの?」
今回は代わりをしてくれるサーシェルさんはいないんだよ?
「1ヶ月もあれば往復できるとして、結婚式もお産も予定にはありませんから大丈夫でしょう」
「お葬式はいつあるかわかんないよ?」
「あぁ、その時はなるようになるものです。 罪を犯していなければ女神様の元へ自然と向かえますので」
えー、本当にそれでいいの?
じとっとピュイトを見上げれば「死者より生者ですよ?」と今度は反対のほっぺを摘ままれた。
出発までの時間でやることがたくさんあった。
パパとママはじぃじについて村へ残ったから、ミアだけ山のうちへ帰ってきた。
創造を使うならあんまり人目がない方がいいから山のうちの方が楽だし。
まずは、時間経過のない魔法収納袋を作ること。
ママのお薬とウェルツティン先生に指示してもらったじぃじのお薬をそれに入れておきたいもん。
「時の止まる魔法収納袋、創造!」
どこのうちにもあるような地味で大きめの革袋をイメージして魔法を使う。
入る量は……このおうちぐらいでいいかな?
魔力がごそっと減った感覚がして、目の前に茶色の革袋が現れた。
「うわ、この感覚久しぶりかも」
聖域で世界樹に魔力をあげてる時はこんな感じだった。
これぐらいの量でこんなになるなら、ジーンがくれたこの時間停止で容量無限の魔法倉庫はどれだけ魔力がいったんだろう……。
ピンクのバラの指輪はミアの指でいつも優しく寄り添ってくれている。
ジーンに伝言鳥を何度も送ったのに、全部すぐに引き返してきてしまう。
なんでかな。
指輪から淹れたてのお茶を出して1つは革袋へ、もう1つはそのままテーブルへ。
時間停止付きを創造したのは初めてだから実験してみたいとね。
しばらくたってもお茶が冷めてなかったら成功だよ。
ついでにクルミのキャラメルがけも出してっと。
「うーん、美味しい♪」
甘ぁいキャラメルとクルミの薄皮のほろ苦さがつい止められなくなる美味しさだよ。
カップに残った一口分のお茶はもうすっかり冷めてしまった。
「どうかな?」
革袋からだしたお茶はまだ熱々で湯気を立てている。
うん、成功!
「じゃあ、後は薬を大量に作らなくっちゃ」
創造でつくることもできるけど、元気になれって気持ちを込めたいもん。
庭に出て空いてるスペースを土魔法で柔らかくする。
固かった土がもこもこっと動きだして小石や雑草の根っこなんかを表面へ押し出してくる。
それも土を動かして端っこに集めてっと。
「創造、肥料!」
これも土魔法でもこもこ混ぜ混ぜしてっと。
次は畝を作ってっと。
指輪からエルフの国でもらってきた種を取り出す。
「もらった時はこんなにいるのかなーって思ったけど役に立った。ルゥ先生ありがとーっ」
これとこれとこれ、それにこれも。
発作が起きた時の痛み止め。
軽いリラックス効果のあるやつ、血液をさらさらにして流れやすくするやつ、体の塩分を出しやすくするやつ。
じぃじ、しょっぱいの好きだもんね。
こっちには血圧計はないけど、きっとすんごい高いんだよ。
種を蒔いたら雨を降らせてっと、それから「成長促進!」
蒔いたばかりの種から小さなかわいい双葉がぴょこぴょこでてきて、あっという間ににょきにょき伸びる。
よーし、この調子でどんどんいくよー。
伸ばして刈って、蒔いて伸ばしてまた刈って。
鑑定して選別して刻んで煮込んで、混ぜて練って……
「も、もうしばらく薬は作りたくないよぉ……」
半泣きになりながらじぃじとママの薬を三年分作り終わった時には、もう5日もたっていた。
後は畑の野菜を収穫して、これも魔法収納袋にいれておく。
「次に帰ってくるのは2年後か3年後かぁ」
創造で海鮮丼を出して一人のテーブルで食べる。
テレビで見たウニとイクラとマグロとエビにイカも乗っかってる豪華な丼。
さみしいけど美味しい物は美味しい。
ウニは甘いし、イクラも濃厚だし、マグロもエビもイカも熱々ごはんと一緒にもぐもぐすればお口が幸せでいっぱいになる。
お耳がぴこぴこしちゃうけど一人だから気にしない!
生のお魚を食べるなんてママが見たらひっくり返っちゃうから一人の時しか食べられないんだよね。
「疲れちゃったけど和食のごはんがあったから乗り切れたかな」
サンディノおじさんのいるアイナブルゴヤには何か美味しい物があるかな。
後は村へ行って、残りの数日はパパにもママにもじぃじにもめいっぱい甘えておかなくちゃ。




