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転生エルフとパパとママと林檎の樹  作者: まうまう


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旅立ちの決意

村を出る……


それって……


「ミアが邪魔だから出ていけって言ってるんじゃないわよ!?」


じわっと瞳が潤み始めたミアを見てママは焦った声を上げた。



「私らが何とかしなきゃいけないのは重々承知の上で厚かましいお願いなんだってのはわかってるっ、でも、もう考えつくのはこれぐらいなのよ」

ハンナさんは半泣きで胸の前で手を組んで小さく叫んだ。


「ミア、ミアはパパに弟がいるって知ってるよね?」

パパはいつも通りの落ち着いた優しい声で話しかける。


「うん、知ってる」


確かパパより3つ下で街へ出ていったっていう……


「サンディノはね、ロドクルーンで三番目に大きな街にいるんだ。ミアにはしばらく……そうだな二、三年ぐらい、そこへ行って欲しいんだ」


「 ミアには本当に申し訳なくてすまねぇんだがよ、そんぐらいあればカイのやつも頭が冷えると思うんだ」


「あのぐらいの年齢の二、三年は長いわ、その間にカイもきっと考えを変える」


ママはミアの手をとって言う。


「目の前にミアがいたら、彼は諦められないと思うの」


うん、そうかも……


ミアがいたらカイ(にぃ)ちゃんはきっといつまでもミアにプロポーズをし続ける……


そういう真っ直ぐな強さのある人だもの。


「ぱ、パパとママは? 一緒に来てくれないの?」


ミアがそう言えば二人とも困った顔になった。


「ごめんね」


ママのその一言で一緒には来てくれないんだとわかった。


「なんで?」


「父さんだよ。ミアには知られなくないって思ってるから平気なふりをしているけど最近体の調子が良くないんだよ」


「えっ、じぃじ大丈夫なの!?」

ミアそんなの全然知らなかった。


「時々ね、胸の辺りが痛むらしいんだ」

「もういつ何があってもおかしくないお年だもの……」


そっか、最近はゲーテおばさんも「膝が痛くてここに来るにも時間がかかるようになっちまったよ」ってじぃじに言ってたし、誰かが側にいてあげなきゃいけない。


「わかった。パパとママはじぃじについててあげて」


じぃじも大好きで大切な家族だもん。


立ち上がったママはミアをぎゅっと抱き締めてくれた。


「離れてしまってもミアを大好きなのは変わらないわ。もう前でわかったでしょう?」

「うん、そうだね」

抱き締め返す腕にぎゅっと力を込めた。


エルフの国から帰った時も、前と何も変わらなかった。

パパとママはいつだってミアのパパとママだ。



「……で、だ、ミアが村を出るのをカイに気がつかれないようにしねぇといけねぇんだが」

「あたしの姉さんが隣村で暮らしててね、もうすぐ孫が産まれるのよ」

「カイのやつに祝いをもっていかせる」

「あっちには教会がないからね、ピュイト神父に祝福してもらった産着を持たせるつもり」

「その日は隣村でそのまま泊まらせる手筈にしておく。その日にミアにはこっそり村を出てもらいてぇ」


「産まれるのはどれぐらいなの?」

「あと一ト月ってところね」


祝福の産着は産まれた赤ちゃんに最初に着せる服。

健やかに育つように女神様に守ってもらう意味がある。


ってことは、産まれる前に届けなくちゃいけない。


「そっちの都合に合わせるが、できるだけ早くしてもらいてぇのが本音だ」


腕を組んで目を閉じて眉間の皺を濃く深くしながらイオさんはそれっきり黙った。


村の娘さん達がカイ(にぃ)ちゃんを見て頬を染めている横で、お年寄りが眉を潜めているのをミアは知ってる。


そりゃそうだよね、こんな子供にしか見えないミアにあんなに堂々とプロポーズしてるんだもん。

小さな村では自分達と違うモノはいずれ排除されてしまう。



強くて真っ直ぐで優しくて、そして、まだまだ子供なカイ(にぃ)ちゃん。

ミアがそんなことにはさせないよ。



10日(とおか)10日(とおか)で準備する。だからイオさん達もそのつもりでいて」


それを聞くとイオさんはガタッと立ち上がった。

「わかった、こっちもそのつもりでいる」


ハンナさんも慌てて立ち上がってぽろぽろ涙を溢しながら「ありがとう」と何度も繰り返す。


「泣くな。本当に泣きてぇのはミアだろうが」

イオさんはそんなハンナさんにきつい調子で声をかけた。


「ミア」

声をかけられて高いところにある目を見つめれば「でけぇ借りができちまった。これから先、俺らはずっとミアの味方だ。村で困ったことがあれば遠慮なく頼ってくれ」と黒い瞳が真剣にミアを見つめ返してくる。


この真っ直ぐさが、カイ(にぃ)ちゃんにも受け継がれたんだよね。



「ううん、ママの治療のためにずっとお肉を届けてくれてたでしょう? それで充分だよ」


家族を守りたいのは誰だって同じ。

カイ(にぃ)ちゃんだって、ミアのお兄ちゃんで家族だ。


「それじゃあ、前金にもならねぇな」


にかっと笑ってイオさんはハンナさんを促して帰っていった。


残ったミア達はしばらく三人で抱きしめあっていた。


「やることも話すこともたくさんある、パパもママも手伝って」


「もちろん」

「今度は手伝ってあげられるわ」


「うん、でも……もう少し、もう少しだけこうしていたい」


そう呟けばパパもママも無言でもう一度強く抱き締めてくれる。


ほっとする温もりを手放すのには勇気がいる。

でも、その勇気をくれるのもこの温もり……




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