気にかかる妹
初めて会ったのはまだほんの小さな頃。
さらさらの淡い金髪。
青と緑が混じった仄かに光っているような不思議な瞳。
それにアタシ達とは違う細く尖った耳。
──村長の孫だっていうその子はとびきりかわいいエルフだった。
「お茶ご馳走様でした!」
「じゃあ、またね」
「うんっ、さよなら!」
来たときはしょんぼりしてたのが嘘のように元気になってミアは帰っていった。
ミアって本当に不思議な子。
ミアが来るまで村で一番かわいいのはアタシだと思ってた。
ふわりとした赤毛は鮮やかだし、目だって大きくてパッチリしてる。
ちょっと吊り目なのは愛嬌ってものよ。
姉さん達を見てるから、おしゃれのセンスだっていけてるし。
でも、ミアはそんな村一番とは次元が違う。
仕事で街まで行く機会の多い父さんも「あそこまで整った顔立ちは見たことがない。街で暮らしていたら貴族が放っておかないだろうな」って言ってたし。
それなのにミアは全く自分を自慢とかしないの。
あ、さらさらの髪は本人も気に入ってるみたいで髪を結いあっこする時に誉めるとうれしそうにしてるわね。
普通、あんなにかわいかったら性格が意地悪くなったり、これみよがしに村中の男の子にちやほやされるのを見せつけてきてもおかしくないと思うのよね。
アタシは姉さん達に「あんたがそんなことしたらひっぱたくから」って小さい頃からさんざん言われてきたからしなかったけど。
ミアのする自慢話ときたら「パパが優しい」「ママが優しい」とその次は「じぃじが優しい」ってそればっかり。
やっぱり本当の両親じゃないから不安なのかしらって思ってた。
小さな頃のミアは、いっつも両親の周りをぐるぐるしてちょっとも離れない子犬よ。
お手伝いをして誉められたくてうずうずしてる様子が子犬そっくりだったわね。
エルフの国の実家に急に旅に出たって聞いた時はもう帰ってこないんじゃないかと思ってたけど、2年ぐらいでひょっこり帰ってきたのよね。
聞けばエルフの国の実家はかなり大きな商会でミアはそこのうちの子らしいわ。
父さんが街に行った時、それとなくミアの実家の店を調べてきたみたいなんだけど「エルフ王室御用達」のすごい商会だっていうじゃないの!
父さんが村に来た行商の品物を見て「値段をかなり安くしてくれてるはずだ」って言ってたわ。
つまりミアは実家でも蔑ろにされずに大切な扱いをされてるってことよね。
贅沢し放題なはずなのに帰ってきたの!?って驚いたら「ミアは贅沢よりパパとママのがいいもん」って。
ミアって本当に不思議な子!
おとぎ話みたいなお嬢様だったくせに、ミアは相変わらず自分のかわいさや実家のことを鼻にかけないし「アナお姉さん」って慕ってくれる。
姉さんは二人もいるけど、妹がいないアタシにはちょっと変わってるけどかわいい存在よ。
小さな鏡の前に持ってるリボンをありったけ広げる。
その中で一際目を引くのはミアからもらったお土産。
艶やかな幅広の若葉色のリボン。
もらった時に一目で上質な物だってわかった。
丁寧に梳けずった髪を編み込んで形よくリボンを結ぶ。大人っぽく見えるように耳の横の毛を少し残した。
鮮やかな赤毛に若葉の緑が映える。
「うん、やっぱりコレが一番よね」
同時にお土産をもらったベスもエミーナも「すっごく似合う」って言ってくれたし。
二人がもらったリボンもそれぞれによく似合う色が選んであって、ミアが一生懸命選んでくれたのがわかったわ。
「そろそろよね」
去年の冬、村の外れで雪に足をとられて転んで動けなくなってしまったアタシをおぶって家まで送り届けてくれたのはカイ。
イタズラばっかりしてた猟師の末っ子は少し会わないうちに肩幅も首もしっかりした大人になっていた。
「気をつけなきゃダメだろ?」と頭に積もった雪を払ってくれた時の笑顔にアタシは恋をした。
捻挫が治ってから一目散にカイのうちへお礼の品を届けに行ったわ。
からっと明るい母親に、頼もしい猟師の父親。
「困った時はお互い様だろ」って両親の前でお礼を言ったら照れていた。
そんなところも好きだと思った。
知ってるわ。
カイが誰を好きかなんて。
あれだけ堂々とプロポーズなんて、逆にからかってると思われてもしかたないぐらいよ。
かわいい妹のミア、ミアも彼を好きなら正々堂々とライバルに名乗りをあげるつもりだった。
こそこそしたりするの好きじゃないもの。
でも、違った。
なら、遠慮なんてしないわ。
カイがアタシを意識するまでかんばるだけよ。
アタシの成人まであと3年もあるわ。
チャンスはいくらでもあるもの。
そのチャンスを掴むためにも、いつもかわいくしてなくちゃ。
今年新しく作ってもらった淡い黄色のワンピースに袖を通す。
去年まで着ていたのは胸も腰まわりもきつくなってどれも着られなくなっちゃったのよね。
今までのどの服よりもぐっと大人っぽいデザインにしてもらったお気に入りの一着よ。
ワンピースのリボンを念入りにかわいく結んで、これでよし。
獲物を持ったカイがお肉屋さんに着くのはそろそろよ。
「母さーん、お肉屋さんにお使い行ってくるわねーっ」
「そんなに毎日肉はいらないでしょう!?」
母さんの声が後ろから聞こえるけど、アタシには聞こえないのと同じよ。
「お使いか?」って笑いかけてくれるのが、今のアタシの一番の楽しみなんだもの!
待っててね、カイ!
私の未来のダンナ様!
誤字報告してくださった読者様ありがとうございました!




