#44 ミア薬師になる!#4
「えーっと、エルフの国ではお勉強を先生に習ったら弟子?」
それならお勉強も魔法も先生がいるから弟子だよね。
「大体! キミは師匠とどんな関係なんだよっ!」
噛みつきそうな勢いで先生がミアに詰めよってくる。
「えっと、師匠って誰のことデスカ?」
「はぁ!? 伝言鳥で師匠がキミの指導を頼むと言ってきたんだぞ! 大事な子だからよろしく頼むと!!」
「主席が言ってる師匠ってのは次席のウェルツティン先生のことだよ」
和菓子さんはやっぱり親切!
ちょっと小声だけど、ちゃんとミアの知りたいことを教えてくれた。
「ウェルツティン先生のことなの? ミアのママを治してくれるって! それに悪い風邪で困ってる村の人も治療してくれるとっても頼りになるお医者さんだよっ!」
なーんだ、先生はウェルツティン先生の知り合いだった。
ウェルツティン先生は先生にミアのことを頼んでくれたんだ。
村を出る前に言ってた「薬の作り方も学んでくるといい」って言ってたの、覚えていてくれてたんだ。
「そうだっ! ウェルツティン師匠は素晴らしいお方なんだっ、必要ならば身分だけでなく、とるに足らぬ普人や獣人も分け隔てなく治療をなされる。本物の医師とはウェルツティン師匠のことを言うのだ!!」
先生は目を輝かせてウェルツティン先生をたたえていたけど、急に普通に戻ってまじまじとミアを見た。
「ん? ならキミは只の患者の娘ということか?」
「んと、そうだね?」
「師匠の指導を受けたことは?」
「ないよ?」
ミアの返事を聞いた先生は、ぱあぁぁっと顔を輝かせてご機嫌になった。
「そーかっ、そーかっ、なんだそうなのか!あはははは」
親切な和菓子さんはミアの耳に顔を近づけてこっそり小声で教えてくれる。
「ウェルツティン先生は教えを乞う人には誰でも指導するから、弟子をとらない主義なんだけど、そこを強引に頼み込んで弟子にしてもらったのがこの人さ」
「あははははっ、弟子はまだ私だけなんだな!!」
先生はまだ笑い続けてる。
親切な和菓子さんはそれをしらーっと見てる。
そんなに一番弟子を譲りたくないなんて。
じゃあミアはウェルツティン先生の弟子じゃないってもっと安心させてあげた方がいいかな?
「ミアのお勉強の先生がね、えっと、ピュリンハイドっていう、ウェルツティン先生の孫なの。ウェルツティン先生はね、孫がかわいがってる生徒だから私もかわいがるって言ってくれて、こうして先生に頼んでくれるお世話をしてくれたんだと思う」
「あはははは…………っ………………え?」
高笑いしていた先生は急に笑いを止めて、ギギギと錆び付いたロボットみたいにこっちを見た。
「えーっと、ミアちゃんっていったっけ? ごめん、今言ってたこと、もう一度言ってもらっていいかな?」
今度は和菓子さんがちょっと前のめりになった。
「え? さっきのってウェルツティン先生が先生に薬のことを教えてくれるように頼んでくれたこと?」
「っじゃなくて、その前!」
「えーと、ミアがピュイトにお勉強を習ってる生徒だってこと?」
「その次!!」
「ウェルツティン先生はピュイトにお勉強を教えてもらってるミアも『孫がかわいがっているから私もかわいがることにしました』ってところ?」
「そこーーーっっ!!」
ちょっとビクッとしちゃうぐらい和菓子さんは大声を出した。
え? なにがそこ? どこ?
「主席っ! ヤバいじゃないですか!! ミアちゃんに意地悪なんかして!! バレたらきっと破門ですよ!?」
「あわわわ……わ、私は、ぃ意地悪なんて……」
先生は真っ青になってがたがた震えだした。
「いや、とぼけるのは無理ですって! 証人もたくさんいますしっ」
和菓子さんが荷物持ちの人を振り返れば、全員がうんうんと首を振った。
「ぃ、いやだあぁぁ。破門なんて、破門なんてぇぇぇっっ」
どばどばと涙を流しながら和菓子さんにすがり付こうとする先生を和菓子さんは「ちょ、こないでくださいよっ」と腕と膝で押し止めてる。
「……なんで急に破門になっちゃったの?」
「まだっ、なってないぃ!!」
和菓子さんは、よく聞いてね? とばかりにミアと視線を合わせた。
「ウェルツティン先生はね、お孫さんを溺愛していらっしゃるんだ」
「溺愛……?」
「そう! それはそれは誰彼憚りなく孫自慢をするぐらいにはね。その、エルフ国の中では純粋なエルフ以外は、その……少し、あー……」
「知ってる。意地悪されるの 」
「そう! 意地悪されちゃうことも多くてね、ウェルツティン先生は自分の目の届くそういう輩を片っ端から、えーと、その……」
「お仕置きする?」
「そうそう! お仕置きするぐらいお孫さんのことを大事になさってるんだ」
「そういえば村でピュイトに会った時も、ものすごーくうれしそうだった!」
ミアがその時のことを思い出して教えてあげたら、和菓子さんは「うん、そうだろうねぇ」と遠い目をした。
「で、なんで破門されちゃったの?」
「まだっ!! まだなってないぃぃ!!!」
「お孫さんがかわいがってる存在を軽んじたなんてバレたら…………」
「あ、お仕置きだ!」
なーんだ、そっか、そういうことかぁ!
ミアの「お仕置きだ!」を聞いた先生は床に突っ伏しておいおいと泣き続けている。
「先生、ミアがちゃんと水やりも“鑑定”もできるのわかってくれた?」
突っ伏したまま、こくりと頷くのがわかった。
「ミアはね、ママのためにも村のためにもお薬が作れるようになりたいの。こんなに小さいのに薬師になりたいなんて生意気かもしれないけど、ちゃんと教えて欲しいの。ちゃんと教えてくれたらウェルツティン先生には今日のこと内緒にしてあげるよ?」
先生はガバッと上半身を起こすと「それは本当か!? もちろん、そうとわかれば私がきちんと指導しよう!! どんなに困難だろうともキミを立派な薬師にしてみせるとも!」と鼻息荒く約束してくれた。
「うんっ! 改めて、ご指導よろしくお願いします」
「キミはいくつなんだ? あまり子供っぽくないな……」とミアをしげしげと眺めて先生は呟いた。
失礼な!
ミアはちゃんと見た目通りの年齢だもん。
「ミアは正真正銘の8才だよ! 大人げなくて子供っぽい先生に言われたくないですーっ」
「ぐっ」
肩を震わせて「子供に子供っぽいって言われてるっ」と和菓子さんは笑うけど、ミア本当のこと言っただけでおもしろいことは言ってないと思うんだけどなぁ。
ネリー・キリアンと名乗った和菓子さんは目じりの涙を拭いながら「主席は悪い人じゃないんだけど、ウェルツティン先生が絡むとちょっと頭がおかしくなっちゃうんだよね。まぁ、でも事情はわかったからこれからは意地悪されないから大丈夫。僕も見張ってあげるからね」と言ってくれた。
よーし、薬師になるお勉強がんばるぞー。
暑さが厳しいですね。
それに加えて何だか色々な病気が流行っていますね。
私もその中の一つに罹りました。
皆様もくれぐれもお気をつけくださいませ。
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感謝、感謝でございます(о´∀`о)




