#43 ミア薬師になる!#3
“かんてい”を使うと知りたいことがすぐにわかって楽しい!
うきうきと次々と色々と見ていたら、後ろからざりっと土を踏む音が聞こえた。
「やはりぼけっと突っ立っているだけか」
振り返ると小馬鹿にしたような表情で先生が立っている。
よかった、次に何したらいいかわからなかったもん。
「水やり、終わりましたっ」
「は? 嘘をつけ。こんなに広い畑なんだぞ、そんな短時間で1人でできるわけないだろ」
「ちゃんとやったもん! 確認してっ!」
まだ見てもいないのに嘘つき呼ばわりは失礼しちゃうっ。
「ふんっ、生意気だな」
手近な畑に腰を屈めて、土を触った先生は「どうせ適当に表面だけ……」と言いかけて止めた。
「……ちゃんと湿っている」
「ほらね? ミアちゃんとやったよ?」
「いや、どうせこの辺りだけのはずだ。遠くの区画にはやってないんだろ?」
先生はパンパンと手についた土を払いながら鼻で笑う。
「……見たらわかるもん」
「だから、嘘をつくなと……」
歩きながら左右の畑の土をチェックし始めた先生は「まさか……そんな……」と言いながら中腰で小走りになって、畑をぐるっと回りだした。
「ここも!」「こっちもか!?」「こんな端まで!」
赤紫の三つ編みをぴょこぴょこさせながら、あちこちを見て回った先生は、畑の真ん中から「全部一人でやったのか!?」と叫んだ。
さっきからそう言ってるのに。
「ミア嘘つきじゃないもん! ちゃんとやったの!!」
先生は納得いかないのか、こちらに歩いてきながらまだブツブツと何か言っている。
「くっ、しかし、どうやってやったのだ? 大人でも5、6人で分担する作業だぞ」
「んーと、こうやって? 雨、降れ!」
ザーーッ……と、畑に降らせた雨は、もちろんまだ畑にいた先生にもかかった。
「うわぁぁっ」
慌てて走って畑から抜け出した先生は「どういうつもりだっ」と怒りだした。
「えー? 先生が『どうやって?』って聞くから教えてあげたのに。先生は見ないと信じてくれないもん」
「ぐっ」
一瞬悔しそうな顔をした先生だけど「まぁ、いい。ついてこい」と歩き出した。
ミアも慌てて後をついていく。
あ、先生風邪ひいちゃう。
温かい風をぐるぐるさせて、助手先生みたいに乾かしてあげた。
先生は乾いた三つ編みの先っぽを摘まみあげて「チビが魔力の無駄遣いをするな。まだ昼前だぞ」とミアを睨んだ。
「ミアの魔力量は世界第2位だから全然大丈夫だよっ?」
「いくら魔臓が急成長したからといって、適当な事を言うな」
「本当なのに」
あれ? 先生はミアの魔臓のことを知ってる?
「神殿に来てくれたのって先生?」
ミアは熱でぼーっとしてたから、どんな人が来てくれたのかちっとも覚えてないや。
「あぁ、……結局なんの治療もできなかったがな」
先生はそれきり黙って、さっさと前を歩いていってしまう。
さっきの赤い屋根のお屋敷に戻ってきたら、小さな図書室に案内された。
どんっと机に本が置かれる。
「これを全部覚えろ」
「“基本の薬草”?」
ぱらぱらとめくると、1ページにひとつ、薬草のイラストと名前や何に効くお薬が作れるのかとかが書いてある。
「実物を見て、そこに書かれている事がすらすらと言えるようになるまで全部覚えろ」
先生は口の端をにやりとあげて「どれだけかかるか楽しみだな」と意地悪なことを言った。
「えっとね、ミア、“かんてい”? ができるから覚えなくても大丈夫だと思う」
「“鑑定”だと!? バカも休み休み言えっキミのような子供に“鑑定”が使える訳ないだろっ」
あ、よかった、やっぱり色々わかることは、“鑑定”であってた!
「よりによって“鑑定”を使えると嘘をつくとはな……よし、試してやろう」
先生は一度部屋から出ていくと、数人の男の人に荷物を持たせて帰ってきた。
あ、さっきミアに「後は水やりだけ」って教えてくれた親切な人もいる。
先生にはわからないように笑いかけたら、向こうも小さく笑ってくれた。
抹茶色の髪をハーフアップにしてて、瞳はよく見ると小豆色。
なんだか和菓子が食べたくなってきちゃった。
あ、でもでも抹茶パフェとかもいいな。
よし、次のジーンとのおやつは“創造”して和菓子と抹茶パフェを食べよっと。
「早速やるぞ。これは何だ?」
荷物の籠から薬草を一本取り出して机に置かれる。
みりあが見たことあるのでは、よもぎに似ているかも。
“鑑定”!
『◇止血草◇傷口の血を止める効果がある◇若葉をよく擂り潰して使う◇軟膏用だが緊急時には擂り潰した葉をそのまま傷口に当ててもよい』
「えーとね、これは“止血草”! 擂り潰して使うよ!」
ミアが特に悩まずに答えたら、先生はものすごくびっくりした顔をした。
「なっ!? いや、これぐらいなら村娘でも知っていて不思議ではない。まぐれだろう」
でもすぐにびっくり顔を引っ込めて、また怖い顔になった。
「次はこれだ」
今度はお皿に入れられた、ちっちゃな赤い実が差し出される。
“鑑定”!
『◇涙水の実◇目薬に使う◇クリーンをした水に一晩浸けた水を目薬に使う◇疲れ目や充血、涙不足の治療に使う◇他の薬草水と混ぜて使うこともある』
「これはね、“涙水の実”! これを浸けたお水が目薬になるんだって!」
「……正解だ。……いや、まだだ、さっき“基本の薬草”辞典を見たのだ。一つや二つ覚えていても不思議ではない」
首を激しく横に振ると、先生は「次!」とまた籠から薬草を引っ張りだしてくる。
「えっと、これはね……」
「またまぐれに決まっている!! えーい、次!」
「次!」「これはどうだ!?」「次はこれだ!!」
途中から乾燥させて砕いたような薬草や、ラベルを隠した薬のビンなんかが出てきたけど、“鑑定”はちゃんと正解を教えてくれる。
「……ぜ、全部当たっている」
鑑定する物がなくなってしまったら、荷物持ちをさせられていた人達から「おおーっ」と歓声があがってパチパチと拍手をしてくれた。
「いやまだだ、もっと珍しいのならわかるまいッ」ガリガリと歯ぎしりの音が聞こえそうなほど悔しそうに先生はミアを睨む。
えー、何でミアこんなに嫌われちゃったの!?
「主席……もう止めましょうよ……」
水やりを教えてくれた和菓子さんが先生をなだめてくれる。
「あのぅ、ミア、先生に何か失礼なことをしちゃったの? それが何か教えてもらえればちゃんと謝るよ?」
「あー、違う違う。主席はね、次席のことが絡むと人が変わっちゃうんだ」
和菓子さんは、手のひらを顔の前でひらひらとさせて呆れた顔をした。
「ウルサイっ! 師匠の一番弟子の座は絶対に渡さないからなっ!」
びしっと音が聞こえそうな勢いでミアを指差した先生だけど……ミアって知らないうちに誰かの弟子だった???




