#42 ミア薬師になる!#2
お薬作りを習うために、早速ティティさんとミアのお部屋のある建物とは別の建物に移動した。
ここはお城にいるお医者さんと薬師の人達の専用の建物なんだって。
日陰に建つ建物には壁一面に蔦がびっしりと這っている。
屋根は赤くて絵本にでてくるお屋敷みたい。
「まずは基本の薬草の栽培から」
ミアにお薬の事を教えてくれる人だって紹介された、宮廷医師団の主席医師だっていう女の人は開口一番そう言った。
朝顔みたいな赤紫の瞳は少し釣り目で、同じ色の髪はきつく三つ編みにされている。
年齢は……よくわからない。
エルフはみんな若く見えるもん。
でも雰囲気から考えると、そんなに若くはなさそう。
「ミアですっ! よろしくお願いします!」
元気に挨拶をしたのに、その人はにこりともせずに眉間に皺を寄せて、はぁーーーーっとでっかいため息をついた後、ジロリと睨まれた。
ブツブツと何か言ってるけど小さな声だから、よく聞こえない。
「なぜ師匠はこんな子供に教えろなどと……しかも女……」
「え、えっと、ミアは先生のこと先生って呼んだらいいですか? 先生のお名前は?」
なんだろ、ミア何か気にさわるようなことしちゃったのかな……
「……先生のお名前はレカルゥストフォーネ・ラヴィムだ」
「れ、れかす?れかする?」
「レカルゥストフォーネ・ラヴィム」
「れかるぅす……」
「先生と呼べ」
「……はい」
「ま、覚えようと覚えまいと私はキミに名前を呼ぶ許可は与えないので同じことだがな」
女の人なのに、男の人みたいにしゃべるから、余計にきつく感じる……
……よくわかんないけど、嫌われてる?
ティティさんに「頼みますよ」って言われてた時も無愛想だったけど、二人っきりになった途端はっきりと「不本意です」って顔に出てる。
ミアはちゃんとお薬を作れるようになりたいのに。
そしたら村に帰ってウェルツティン先生がいなくなっても、ママに血を増やすお薬をずっと飲んでもらえるし、他の薬の作り方を覚えたら、パパだってじぃじだってゲーテおばさんだって、村の人にだって作ってあげられる。
村の役に立てればみんなよろこんでくれるはずだもん。
だから先生がミアを嫌っていても、ちゃんとお勉強をして色んなお薬を作れるようにになるんだから!
「ついてこい」と言われてたどり着いたのは畑だった。
濃い緑、黄色っぽい緑、紫の背の低い草に、きれいな白い花が咲いているのもある。
色んな種類がきちんと区分けされて植えられている。
畑には手入れのためにあちこちに人がいる。
「ここが薬草畑だ」
小学校の運動場より広い!
ううん、小学校の敷地全部より広いかも。
「すごーいっ、これみんなお薬になるの?」
「そうだ。だが、ここだけでは足りぬ、城の外にも契約している畑はあるし、温室でしか育たぬ物はそちらにある。まずは畑の手入れが新人のやることだ」
ふむふむ、まずはお手入れをしながら薬草を覚えるってことだよね。
「というわけで、後は任せたぞ」
先生は畑にいる人達に「引き上げだ、あとはコイツにやらせろ」と言って歩いて行ってしまう。
畑にいた人もミアのことをちらちら気にしながら先生の後に続いて行く。
「え? ちょ、ちょっと待ってっ! 手入れって何をすればいいの!?」
みりあがお世話していた小学校の花壇だって、雑草を抜いたり肥料をあげたり虫がついてないか調べたり、手入れだって色々あったよ!?
慌てて後ろ姿に声をかければ、一番後ろにいた少し若く見える男の人が「今日はもう水やりだけだから!」と先生を気にしながらも教えてくれた。
「ありがとう!」
水やりなら詳しいことを教えてもらってなくてもなんとかなりそう!
えっと、蛇口……じゃなかった井戸はどこかな?
ホースはこっちにあるんだっけ?
きょろきょろして、うろうろと畑の周りを歩いてみるけどそれらしき物は見当たらない。
「もーーっ! どうしたらいいの!?」
ミアがちゃんと水をあげないと、薬草が枯れちゃうかもしれないし、お水はどこにあるの?
山のおうちみたいにすぐ側に水が湧いていればいいのに!
あ…………そっか、わざわざ汲まなくてもミアには魔法があった!
「畑の上にだけ、雨よ降れっ」
両手を天に向けて伸ばせば、一呼吸の間に、サァァァ……と細かい雨粒が畑を潤し始めた。
「いっぱいお水を飲んで大きくなぁれ♪ うん、いい感じ」
しばらく優しく雨を降らせれば、水を含んだ土はしっとり黒っぽくなって、水滴のついた葉っぱは瑞々しく光っている。
「よしっ、こんなものかな」
水をあげすぎてもダメなのも知ってるもん。
他のエルフの人達もきっと魔法で水やりしてるんだよね、だから側に井戸がないんだ。
ミアだんだんエルフっぽくなってる!
さて、水やりは終わったから今度は薬草を覚えなきゃ。
区分けされた畑の中の道を進んでいく。
「すごい、本当にたくさんある……」
どの草も生き生きとして立派。
エルフは薬草も上手に育てられる、おじいちゃん先生に習った。
けど、薬草の種類までは習わなかった。
「ただ見てるだけじゃ名前も何に効くかもわかんない……」
図書室に薬草図鑑ってあったっけ?
あーもー、みりあが小学校で使ってたタブレットが欲しい!
あれなら写真をパチリってして、それを検索すれば名前もどんな草なのかもすぐにわかったのに!!
理科や社会のニュースを調べるのにすごく便利だったなぁ……。
「……魔法で何とかならないかな?」
えっと、えっと“タブレット”じゃ、ダメなんだよ。
前に“創造”でスマホやゲームを出そうとしたけど出てこなかったもん。
ジーンが言ってた「女神様がこの世界にあってもよいと認めた物」だけしか創造れない。
んーと、色んな事がわかるもの、ってタブレット以外は何がある?
ミアが見てわからない物を、これはなになにですね、って教えてくれるといいよね。
それってあれだ、お宝の値段を教えてくれるテレビのタイトル……えっと、えっと、「かんていだ!」
思い付いて小さく叫んだミアの頭に、薬草の情報が思い浮かぶ。
『◇熱取草◇一般的な熱冷まし 全ての葉に薬効がある◇状態◇とても良い』
「わわわ、何コレ!?」
ぱちぱちと瞬きをして、視線を目の前の薬草から隣の大きな葉っぱにずらせば今度は『◇湿布草◇打ち身や腰痛に用いる 温冷どちらでも使用可能◇状態◇とても良い』と浮かんでくる。
頭の中に直接とは思わなかったけど、やったね、これでちゃんと覚えられるーっ
…………あれ? 頭に浮かぶなら覚えなくてもよくなったの???




