#39 リデルと街歩き8
ぴたりとつけた手のひらから、世界樹は今日もミアの魔力をどんどん吸い込む。
でもミアも負けないよ。
体の中の魔力が尽きそうになると、空気中の魔素を取り込んで魔臓が魔力をフル回転で作り出す。
何となくだけどわかるようになった。
これができるのはミアとジーンだけ。
他のエルフや魔法を使える種族とは魔臓の強さが違うんだって。
みんなはもっとゆっくりとしか魔力を作り出せないみたい。
「世界中の魔素を無尽蔵に使えるからな。ミアの魔力は世界で二番目に多いことになる」
もちろん一番はジーン。
「濃すぎる魔素は魔臓を持つ種族には耐えられん。ゆえに聖域には誰も来られぬ」
「じゃあ普人の人なら来られるんじゃない?」
「ただの普人では聖域を突き止められぬよ」
「そっかぁ」
聖域にいっぱい生えてる聖石は、創世樹が1度吸い込んだけれど、吸収しきれなかった魔素が魔力になって、吐き出されて石の形になった物だってジーンに教えてもらった。
一度創世樹の中を通った物だからエルフが持っていても害はないんだって。
害はないけど、とんでもなくたくさんの魔力が詰まっているらしい。
ふーん、だからリデルやアトラスさんは聖石でお支払いしちゃダメって言ったのかな?
でも魔力が詰まっているからって何になるのかな?
「よし、今日はこれぐらいかな」
そして、世界樹へどれぐらい魔力を流せばいいのかもわかるようになった。
「いい調子だな、さすが私の娘」
ジーンはいつもにこにことミアのことを見守ってくれる。
「お待たせジーン、お昼にしよう」
今日のミアの気分はハンバーガー!
チーズバーガーとポテトとコーラ!
「パリパリしないポテトもあるのか、これも美味だ」
二人でもぐもぐ美味しいお昼ご飯を食べる。
ゆかりお姉さんなんかは「ファストフードは食べ飽きた」なんて言ってたけど、みりあは施設のご飯と給食がほとんどだったから、子供会のイベントに参加した時に食べさせてもらえるハンバーガーが楽しみだったんだ。
喉につまりそうになったらコーラをごくん。
「おいしーっ」
「このコーラという飲み物はクセになるな」
うふふ、ジーンもコーラはお気に入りだもんね。
「ハンバーガーもポテトも美味しいねっ」
「ミアと一緒なら平焼きパンでも美味しいぞ?」
「もー、そんなこと言って! また創造でご飯たくさん出しておくから、ミアがいなくてもちゃんと食べててね?」
ジーンはもっとちゃんと栄養を摂った方がいいよ。
パパとママもちゃんとご飯を食べてるかなぁ。
「またね」
ジーンと別れて祈りの間へ送ってもらう。
そこには馬車とお世話係のお姉さんが待っていてくれる。
「お疲れでございましょう? 馬車で寝てしまっても抱いてお部屋までお連れしますので大丈夫ですからね」
リデルと街歩きして、ボートから見た夕日がとっても綺麗だったと教えてあげたら、お姉さん達は揃って「まあぁぁぁ♡」と 歓声を上げていた。
穴場スポットを教えてあげたからかな、その時からお姉さん達のミアのお世話がより熱心になった気がする。
あ、もしかしてアトラスさんちのお店で買ったいい香りのハンドクリームをお土産にあげたからかも!
お世話になってるお礼を伝えるのは大事だよね!
「おかえりなさいませミア様。今日はお客様がいらしていますわ」
「お客様?」
誰だろう?
案内してもらうと、応接室のソファーにピュイトとアトラスさんのお父さんがいた。
昨日会ったばっかりだからちゃんと顔覚えているよ!
「アトラスさんのお父さんだ。こんにちは!」
「こんにちは、ミア様。ふふ、“アトラスさんのお父さん”も悪くないのですが、改めて自己紹介を致しますね。バイエル商会の会頭をしておりますメルチスと申します」
アトラスさんのお父さん、えっとメルチスさんは立ち上がると腰を屈めてミアと視線を合わせて挨拶してくれた。
「ロドクルーンの村から来たミアです。昨日はありがとうございました!」
「こちらこそ、お買い上げありがとうございました。本日はですね、“くるり”の事で伺ったのですよ」
「“くるり”のこと?」
そういえばアトラスさんが「バイエル商会にお任せください」って言ってたっけ。
「“くるり”がどうかしたの?」
「そろそろ販売ができそうなので、正式な契約をと思いまして」
あー、忘れてた!
エルフの国へ来てからはジーンに会ったり、熱が出ちゃったり、おしおきしたりしてそれどころじゃなかったもんね。
確かピュイトと一緒に考えたことにしたんだよね。
だからピュイトもいるのかぁ。
ピュイトはミアを見て「わかっていますね?」と目で圧をかけてきてる。
そんなビームを出しそうな目をしなくても、ちゃんと覚えているから大丈夫だもん。
「まぁ、ほとんどの話は先ほどピュイト神父と済ませてしまったのですが、ピュイト神父がエルフの国にいる間はミア様の保護者であり“くるり”の件を一任されているのは本当でございますか?」
「うん、あってるよ! ピュイトはね、ミアの心配をしてわざわざ村から付いてきてくれたんだよ!」
「そうですか、ならば問題はありませんね」
メルチスさんは安心したように微笑んだ。
「それで、どうしたらいいの? けーやくしょにサインしたらいい?」
バイエル商会はちゃんとしたお店だったから、口約束だけじゃなくて、きちんとけーやくしょがいるよね。
指環から愛用のピンクの羽ペンを取り出して、書くマネをして見せると、メルチスさんは「それはもう少し後で」と慌てて言った。
ぽふぽふとピュイトがソファーの隣を叩くから、ちゃんと座って話を聞く。
メルチスさんはミアの正面に座った。
「では、ピュイト神父にも説明をしましたが、先にこれだけは……」
メルチスさんはもったいつけて、一度言葉を区切って息を吸いこんだ。
「誰でも簡単に遊ぶことのできる“くるり”は、必ず! 絶対! 間違いなく! 爆発的に売れます! 売ります! うちの看板商品になることは確実です!! 」
と、鼻息も荒く一息で言い切った。




