#38 リデルと街歩き7
お腹がいっぱいになったから、また街を歩いた。
教会の高い塔にも特別に登らせてもらって王都のキレイな景色も見たし、広場でやってる大道芸も見た。
芸人さん達はみんな獣人さんでミアより少し大きいぐらいの男の子がナイフ投げの的になってたり、しっぽが長い猿獣人さんが玉乗りしながらボールを5個いっぺんにお手玉したり、高く澄んだ声で鳥獣人のお姉さんが歌を披露したりしてた。
ミアが一番びっくりしたのは猫獣人のお姉さん。
絶対に入らないと思ったのに、小さな箱の中に全身を入れちゃったの!!
あの箱、ミアでもギリギリ入れるかどうかの大きさだよ!?
箱に何か仕掛けがあるのかと思って思わず背伸びして覗いてみた。
背が足りなくて、見れなかったけど。
「ミアこんなの初めて見た! スゴいね!!」
感動を伝えたくて一生懸命拍手してたら、さっきナイフ投げの的になってた男の子がにこにこと帽子を持って近付いてきた。
横にいたアトラスさんがこっそりミアの手にお金を握らせてくれる。
「帽子の中に入れてあげてくださいね」
帽子の中には大銅貨や小銀貨がじゃらじゃらと入っていた。
握った手を帽子の上で開けば、チャリンと音を立てて大銀貨が一枚落ちた。
「可愛いお嬢さんありがとうございます」
男の子は胸に挿していた小さなピンクの薔薇をミアに差しだして「また見に来てね」とウインクした。
でも、ミアが受け取ろうと手を動かすより先にリデルがぱっとそれを掴んで、隣に立っていたおばさんに渡してしまった。
「行くぞミア」
急に手を繋がれてリデルはずんずんと歩き出した。後ろからは「あらあら」と薔薇を押し付けられたおばさんの声が聞こえてくる。
「あれ、ミアにくれたのに」
「ミアには私がやったのがあるではないか」
「そうだけど」
あの男の子はミアが大銀貨を入れたから、おまけでお花をくれようとしただけなのに。
募金すると小さい羽をくれるのと同じでしょ?
受け取ってあげてもいいのに。
ずんずん歩くリデルはどんどん広場から離れていく。
「どこに行くの?」
「最後に行くところは決めてある」
途中で待っていた馬車に乗って移動する。
少し街中から離れるみたい。
着いたところは大きな池だった。
池といってもみりあが知ってるような緑に濁って亀がたくさんいるようなのじゃなくて、澄んだ水がきらきらしているとてもきれいな場所だった。
「ボートに乗るぞ」
リデルが指差す方を見ると、いくつかのボートが岸に寄せてあるのが見えた。
「ミアね、ボートも初めて!」
「そうであろう」
リデルはふふんっと得意げ。
最初はついてきていた隊員さんが押して池の中へと進めてくれるみたい。
「あれ?」
「どうした?」
あれがない。
ボートを漕ぐときに使う、杓文字の大きいやつみたいなの。
あれがないと進まないよね?
「リデル、漕ぐやつ。漕ぐやつがないよ?」
大きい杓文字の名前がわからないから、腕を曲げたり伸ばしたりしてジェスチャーをする。
「あぁ、櫂か」
「それそれ!」
「エルフは水を操ってボートを進めるから無くてもよいのだ」
「そうなの!?」
隊員さんに押してもらったボートは最初はちゃぷちゃぷと岸のすぐ近くで揺れていただけだけど「水よ流れよ」とリデルが呟くと、ゆっくりと進みだした。
「本当に進んだ!」
ボートは一周するつもりなのか、時計回りに動き始めた。
漕ぐ音がしないからとっても静かに進む。
遠くで何かが水面をぱしゃんと叩く音がする。
「お魚? リデル見た? お魚がいるみたい!」
「ボートに驚いて跳ねたのだろう」
リデルには珍しくないのかもしれないけど、でもボートに乗ってからずっとふんわりと微笑んでいるからきっと楽しんでいるんだよね。
大体一周したところでボートを動かすのをリデルに代わってもらう。
漕ぐのはできないかもしれないけど、魔法でやるならミアにもできるよ!
「……勢いよくやりすぎるなよ? 」
顔には出さなかったけど、リデルはボートのへりを掴んだ。
信用されてない!
「大丈夫! ミア魔力の操作だいぶ上手くなったから!」
えっと、水の流れを起こせばいいんだよね。
ボートの下? 周り? を小川みたいにすればいいんだ。
「水よ流れて」
池の真ん中へ進ませるように水流をコントロールすればボートはちゃぷんと音を立てて、するすると進みだした。
「できた!」
「だいぶ上手くなったようだな」
「練習したもん!」
「最初はあんなに花を咲かせていたのにな」
「リデルの意地悪!」
ハハハと笑われてむくれていたら、ボートは池の真ん中まで来ていた。
水を動かすのをやめると、水面は静けさを取り戻した。
夕方の空はオレンジで、ところどころ金色に光るグレーの雲が見える。
池には夕日が射し込んで金箔を浮かべたようにキラキラと輝いた。
「とっても綺麗……」
スマホがあったらカメラで撮影できたのに。
写真に撮れないから、せめて記憶に留めようと少しずつ落ちていく夕日を眺め続けた。
「リデル、こんな綺麗なところに連れてきてくれてありがとう」
「……一緒なら美しさも分けられるからな」
微笑んでくれたリデルも夕日に照らされて金色で、景色よりもリデルが一番綺麗。
パパとママと離れているのは寂しいけれど、こんなにステキな友達ができたから、エルフの国に来たのもそんなに悪いことじゃないと思えた。
作中ではこれから秋が深まるところですが、現実世界のこちらでは暑くなりましたね。
皆様、熱中症などにくれぐれもお気をつけてくださいませ。
いいね、ブクマ、評価、感想をありがとうございます。いつも勇気をいただいております(о´∀`о)




