#35 リデルと街歩き4
リデルに手を繋いでもらって上った二階は、とってもステキな場所だった。
一階のジャムやキャンディもカラフルだったけど、ここはもっと輝いて見える。
あっちにもこっちにも女の子の好きな物がおいてある。
飴色のテーブルに置かれているのは、花柄や金線の入ったティーセットに、刺繍入りのナフキン。それにピカピカに磨きあげられた銀のカトラリー。
壁際の小さな衣裳箪笥風の棚にはレースのハンカチに、スカーフに、造花のついた帽子も!
部屋いっぱいに華やかで柔らかい色合いが溢れてて、女の子の好きな物がとにかくたくさん!
こういうの!
ミアこういうのが見たかった!
村の小間物屋さんはとにかく実用的な物ばっかりだったもん。
ここはみりあが行ったことあるような雑貨屋さんみたいにカワイイ物がいっぱいだ。
「あ、リボン!」
リデルの手をぱっと離して、たたっと駆け寄る。
刺繍のクロスをかけられた台の上にリボンがたくさん並べてある。
うっかり爪でひっかけたらすぐ破れちゃいそうな繊細なレースのリボン、手触りが滑らかなベルベットのリボン、幾何学的模様が織られたリボン、細いのも太いのも色んな種類がたくさんある!
その中でつやつやのサテンのリボンが目に留まった。
少し幅広で若葉みたいな緑色。
「これ、アナお姉さんの赤い髪に似合いそう……」
おしゃれが大好きなアナお姉さんのお土産にこれを買っていったら、きっとすごく喜んでくれる!
そしたら、そしたら、仲良しなお姉さん3人組はお揃いにしよう!
えっと、アナお姉さんはこの若葉色で決まりでしょ。
ベスお姉さんの髪は茶色だから、このラピスラズリみたいな濃い青色なんて似合うんじゃないかな?
エミーナお姉さんの髪も茶色いけど、ベスお姉さんより金髪混じりだからもう少し薄い色がいいかな。
うん、この薄紫のラベンダー色ならピッタリだと思う!
3色のリボンを手に取ってアトラスさんへ渡す。
「このリボン買っていくね」
「はい、お預かりしますね」
ここのお店にはなんでか買い物カゴがおいてないの。
下の食品のところもそうだったけれど、欲しいものが決まったら店員さんに声をかけて取ってもらう。
店員さんはそれをカウンターまで持っていく。
買い物が終わるまでそれの繰り返しなの。
買い物カゴにポイポイと放り込めないのはちょっと不便だけど、高級なところってこういうモノなのかな。
リボンの隣には銀でできた櫛。
結った髪に差し込んでつかうんだって。
すごく細かい細工でとってもキレイだけど、村でこれをしてたらきっと悪目立ちしちゃう。
その隣には小さな蓋つきのころんとした陶器がいくつも並んでいる。
蓋にはバラや菫や小花のブーケがそれぞれ絵付けされていてとってもかわいい。
「わぁ、かわいいっ、けど、コレなんだろう?」
「こちらは口紅なんですよ」
アトラスさんのお父さんが蓋を取って中身を見せてくれる。
ママが持ってたのと違ってクリームみたいな口紅が艶やかに入っていた。
「これはバラから作られたもの、あちらは菫、これは色んな材料をブレンドした物ですね」
バラだけでも、真っ赤なのや薄いピンクのや、煉瓦みたいな少し茶色っぽいのまで色んな色がある。
ママの口紅はママのママからもらった物で大事に使っていたけれど、お祭りの日や村の人の結婚式なんかで少しずつ減っていった。
瓶の底へあと少しになっていた。
ママは口紅をつける時「本当はこの色は若い娘さん向けなのだけど……」と、少し照れて、そして困ったように笑ってた。
たくさん並んだ中でママに似合いそうなのは……
「これ……」
少しくすみのある落ち着いてみえるローズピンクの口紅。
病気が治って元気になったママにこの色はよく似合うと思う。
これをつけてもらってまた一緒に手を繋いでお祭りに行こう。
パパと二人でたくさんたくさんキレイだよ、って誉めて困らせちゃうんだから。
「アトラスさんっ、この口紅も!」
「はい、かしこまりました」
よーし、どんどん選ぶぞー。
気になる物をあれもこれもとアトラスさんに持っていってもらう。
ゲーテおばさんには口紅の隣に並んでいたバラの香りのするクリーム。
顔に塗ってもいいし、ハンドクリームにしてもいいんだって。
パパとじぃじの分は三階にあった。
三階は男性向けの物と布地コーナーだった。
パパには真っ白なシャツとしっかりと織られたモスグリーンの厚地の布地を選んだ。
ジャケットとパンツを作っても余るぐらい欲しいと言ったら「では、これぐらいですね」と店員さんは迷いなく布地を測って切ってくれる。
ミアがどれだけいるかわかってなくても全然大丈夫!
さすがプロって感じ!
じぃじには何にするか悩んだけど、アトラスさんのお父さんがドワーフ作のお髭のお手入れセットを勧めてくれた。
お髭専用の小さな櫛にハサミ、剃刀が革のケースにセットされてる。
「ドワーフは誰でも髭にこだわりがありますから、使い勝手はいいと思いますよ」
「うん、すっごくいいと思う! 」
さすが偉い店員さんだよ!
ミアの話を聞きながら、ぴったりな物を選んでくれた!
剃刀は恐いからできないけど、ハサミでチョキチョキするのはミアがやってあげてもいいかも!
じぃじのお膝にミアまだ乗れるかな?
「では、馬車の用意もできたようですので粉屋へと行きましょうか」
下から上がってきた店員さんに耳打ちされてアトラスさんのお父さんがミア達を階段へと向かわせる。
アトラスさんのお父さんのお勧めなら間違いなしなはず!
楽しみ!




