#34 リデルと街歩き3
アトラスさんちのお店には商品がたくさん。
色んな種類がたくさん。
そのどれもがきちんときれいに並べられている。
お魚の飾りがついた素焼きの壺に入れられたお塩。
大きな塊の宝石みたいなピンクのお塩に胡椒やハーブ、色とりどりのドライフルーツに木の実の量り売りコーナーもある。
カラフルなジャムにとろりと光る蜂蜜のビンもずらっと棚に並んでる。
ミアが買ってもらったみたいなキャンディも。
黄色や緑だけじゃなくて赤や紫のもある。
赤いのは木苺って書いてある!
お土産を買ってお金が余ったら1つ買ってみようかな。
「ステキ!アトラスさんちのお店、とってもステキ!」
外から見たお店も高級感があって落ち着いた雰囲気だった。
ミアわかった、ここは普通のスーパーじゃなくて高級スーパーみたいなお店!
きっとそう!
「そう言っていただけてうれしいです」
ちょっぴり恥ずかしそうで、でも誇らしげなアトラスさん。
アトラスさんに気が付いた他の店員さんが寄ってきて、挨拶しようとするのを軽く手を振って 遠ざけると「さて、ミア様はお土産をお探しでしたね」と店内をぐるりと見回した。
「そうですね、定番は軽くて日持ちのする紅茶や砂糖菓子なのですが……その指輪があれば関係ないですね」
後半はミアの耳に顔を近づけてこっそりと囁く。
「ううん、お茶と砂糖菓子いいと思う!」
お茶とお菓子ならパパもママもじぃじもゲーテおばさんも、みんなで楽しめるもん。
大きなガラス瓶に入れられて、ずらっと並んだお茶の葉っぱ。
パッと見で30種類ぐらいはありそう。
産地が違うのかな?
それとも葉っぱの種類が違うのかな?
「オススメの葉っぱを大きい缶でください」
アトラスさんが店員さんにアイコンタクトすると、ささっと動いて支度をしてくれる。
村の雑貨屋さんには赤いラベルと青のラベルのと二種類しかおいてなかった。
ミアがおつかいに行った時、おじさんにお茶の缶を渡して「いつものください」って言ったのに、いつもママが買ってる赤い方じゃなくて青いラベルの葉っぱを入れて渡された。
あれ?ミア言い間違えちゃった???
困った顔でおじさんを見たら「お金は赤のと同じでいいからね、村長のとこもまだ大変なんだろう?」って言われたっけ。
すぐに隣の奥さんに「余計な事を言うんじゃないよっ」って、つるつる頭をぺちんってされて怒られてたけど。
なんとなく、なんとなくだけど、村の人がじぃじやパパを見る目に違和感があって、それは余所者のミアが一緒にいるからなのかと思っていたけど、そうじゃない。
みりあが養護施設の子供だってわかった時の、お友達のお母さんから感じたことのある、ほんのちょっと疑いを含んだ視線と同じ気がする。
なんで、村の人はじぃじやパパをそんな目でみるんだろう……
じぃじは村長さんのお仕事をいつも一生懸命やっているのに。
そういえば、卒業したお姉さんが言ってた。「旅行とか行ったら職場にもお土産渡すと人間関係が上手くいくよ」って。
ミアも村の人にお土産買っていこう!
こういうのがご近所付き合いで大切だよね!
お姉さんあと何て言ってたっけ……
えーと、「職場にはね、ベタなやつでいいから。数がたくさんでそこの名産です、ってのがわかりやすくていいわよ」だっけ。
ベタなやつ……
「ねぇねぇ、エルフの国で一番有名な物はなぁに?」
「色々有名だが……一番となると小麦か? 小麦は各国に輸出していて有名だ」
そうリデルが言うと、アトラスさんも頷きながら「そうですね、小麦は良質なので大変評判がいいですね」と教えてくれる。
「なら、ミア小麦粉もお土産に買っていく!」
「お土産には少し地味ですけどよろしいのですか?」
アトラスさんは心配そうに聞いてくれるけど、きっと大丈夫。
パンは毎日食べるんだから小麦粉もらって邪魔になることなんてないよ。
「うん! だってきっとミアの国で買ったらきっと高級品だもん」
「それはそうですね、エルフ国の小麦粉となればこちらで買うより10倍以上はいたします」
それなら絶対喜ばれる!
「村の人に配りたいから、たっくさん買っていく!」
やった、村の人にいいお土産ができそう!
これで、じぃじやパパの評判も上がるよね。
「ならば私が専門店にご案内致しましょう」
いい思いつきに、うんうんと一人で頷いていたら、後ろから聞いたことのない声がした。
振り返るとパパと同じぐらいの年齢に見える男の人が立っている。
カフェオレ色の髪にチョコの瞳。
もしかして……
「父さん!」
アトラスさんがびっくりしてる。
やっぱり!
似てるもん!
いつの間にかミア達の後ろに、にこにこと立ってたのはアトラスさんのお父さんだ!
白いシャツに黒のパンツ、黒のベスト姿のアトラスさんのお父さんはリデルに軽く頭を下げた後「お久しぶりでございます、殿下。本日は失礼をして店主とお客様として接してもよろしいですか?」とお伺いを立てた。
「うむ、それでよい。ここで畏まられても窮屈なだけだ」
リデルもいいよって。
アトラスさんのお父さんはミアにも「色々と話したい事はございますが、本日はお買い物のお手伝いを優先いたしますね」とにっこりした。
アトラスさんのお父さんがミアと話をしたいの?
何かあったっけ?
「小麦粉をたくさん買われるのでしたら、専門店がよろしいでしょう。馬車の手配をしますので、用意ができるまで二階をご覧ください」
その言葉に後ろにいたお店の人や近衛隊の人がささっと動き出す。
でも、他所のお店を紹介してくれるのなんていいのかな?
だってそれだと自分のお店が儲からないってことだよね?
「ミアはアトラスさんのお店で小麦粉買うのでもいいよ?」
だって、きっとここの小麦粉もいいやつに決まってる。
そう言ったらアトラスさんのお父さんは、おや?という顔をしたけど、またすぐにっこりした。
「お気遣いありがとうございます。ですが、そこは朝一番に自前の水車で粉を挽くので、香りが違うのですよ。うちの小麦粉もそこから仕入れておりますが、挽き立てに比べるとやはり香りが若干飛んでしまっていますので……」
わ、それってすっごく美味しそう。
お米も精米したての方が美味しいんだよって須藤さんも言ってた!
ミアの指輪に入れておけば、そのまんまで持って帰れるんだもん!
「えと、じゃあ、できればでいいので、お願いします……」
「はい、承りました。ふふ、遠慮しなくてもいいのですよ?」
アトラスさんのお父さんは優しい。
「だって、他所のお店で買ってもアトラスさんの家のお店は儲からないでしょ? ミアのせいでお店が苦しくなっちゃうのはヤダもん」
「はははっ、そこまで考えてくれてたのですね。大丈夫ですよ、私は目先の少しの利益しか見えないような商売はしておりませんから」
アトラスさんちのお店にとってはミアの買う小麦粉ぐらいなんてことないって言ってる?
よくわかんない。
首を傾げるミアを見てわかってないな、と思ったのかアトラスさんのお父さんはまた笑った。
「心配はいりませんよ? だってこれからミア様にはもっとたくさんのお買い物をしていただくのですから」
「二階へご案内しますね」
アトラスさんの視線をたどっていくと、お店の端に階段が見えた。
「二階には何があるの?」
「きっとお気に召す物がございます」
「喜んでもらえると思いますよ?」
アトラスさんのお父さんとアトラスさんは2人でにっこり笑った。
すみません、大変、大変、遅くなりました……。
言い訳はたくさんありますが、何となく書いた物がしっくりこなくて書き直しばかりをしておりました……
本当にすみません。
そして待っててくださった読者様、ありがとうございます。m(_ _)m




