わたしのゆめ
ざわめく教室の黒板の前に立つ先生があいさつを始める。
「本日はお忙しい中、授業参観に出席していただきましてありがとうございます。今日は国語の授業で子供達に『わたしのゆめ』という題で作文を書いてもらっています。順番に発表してもらいますので、お子さんの発表を楽しみにしていて下さい」
パラパラと拍手がおこる。
わたしには施設の職員さんがきてくれてる。
もうすぐわたしの読む番だ。
作文は前もって先生が一度読んでいて、原稿用紙の最後のところに先生からのコメントが書いてある。
「はい、次は安西みりあさん、読んで下さい」
同情と少しの敵対心、そして好奇心、そんなものがない交ぜになった空気の中、わたしは立って大きめの声を出して読み始める。
『わたしのゆめ 2年3組 安西みりあ』
「わたしのゆめ、わたしのゆめは2つあります。1つはお花やさんになることです。学校の花だんにはいつもきれいなお花がさいています。わたしもえんげいいいんで当ばんでお水をあげます。きれいにさいたお花を見ると、とってもうれしくなります。だからお花やさんになりたいです。
もう1つのゆめはケーキやさんになることです。わたしはアップルパイが大すきです。おいしいアップルパイが自分でも作れたらとてもうれしいです。おきゃくさんが、わたしの作ったアップルパイをおいしいと言ってくれたら、もっとうれしくなると思います。だからわたしはケーキ屋さんにもなりたいです。」
全部読み終わると、教室の中はほっとしたような空気へと変わった。
思ってたより普通の子だったでしょ?
「とても上手に読めましたね。みりあさんはがんばり屋さんなので、きっとどっちの夢でも叶うと思いますよ」
「ありがとうございます」
わたしはすました顔で椅子に座った。
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『わたしのゆめ 2年3組 安西みりあ』
「わたしのゆめ、わたしのゆめは2つあります。1つはパパとママに会ってみたいということです。会ってどうしてわたしをデパートにおいていってしまったのかきいてみたいです。あと、わたしのかおがどちらににているのかもみてみたいと思っています。だから、パパとママに会ってみたいです。
もう1つのゆめは、もう大きくならないようにしたいです。大きくなったらもしかしてわたしをさがしてくれているパパとママがわたしだと、わからなくなるかもしれないからです。あとようしになるのは赤ちゃんが多いです。大きい子より小さい子の方があたらしいパパとママにすぐになれるからだそうです。ペットショップでかわいい子犬からうれていくのと同じです。わたしがようしになれたらきっとすごくうれしいと思うので、もう大きくならずにいたいです。」
だれにも言えない、わたしのゆめ。