エルフの国のわたし#31
そんなこんなでお城での生活にもすっかり慣れてきて、冬がすぎて春になった。
世界樹になる予定のミアの林檎の樹さんは、ある日いきなり大きくなった。
それまではちっとも大きくならなくて不安になってしまっていたのに、その日魔力を込めたら、ピカッと光ってあっという間にマンションぐらいになった。
小学校よりも高そうだから、5階か6階くらいかなぁ?
タワーマンションまではまだまだだけど、ぐっと目標に近づいてミアはすごくうれしくなった。
ジーンも「さすがは私の娘だ」って一緒に喜んでくれた。
「これからは世界樹自身が漂っている魔素を少しずつ取り込み始める。ミアが魔力を注ぐのは3日に一回でよい。魔臓も成長したようだし、もう熱も出なくなるであろう」なんてうれしいことも教えてもらえた。
「ほんと!? もうお熱出ないの?」
2日魔力を注いで1日お休みにしてからは最初みたいな高熱は出なかったけれど、普通の風邪のようなお熱はちょくちょく出てた。
その度にピュイトやティティさんやお世話係のお姉さん達が看病してくれて申し訳なかったもん。
ジーンは少しさみしそうにしていたけど、3日に一回は会えるしね!
お休みの日が増えたから1日はお勉強の日になった。
ピュイトにこっちの世界の常識とか文字は習っていたけど、やっぱりちょっと不安だった。
ちゃんとお勉強すれば大人になって困らないって所長さんも卒業生のお兄さんもお姉さんも言ってたし!
創造が使えるからミアが他の人に魔法で負けることはないってジーンは言うけど、何事も基本が大事ってことで、エルフの国のエライ魔法の先生に魔法のことを教わることになった。
勉強熱心なピュイトも一緒に授業を受けることになった。神殿でもお勉強する時間はあったみたいだけど、他の子に魔力が無いことをからかわれるのが嫌で一人で違うお勉強をしてたんだって。
お勉強はミアのお部屋じゃなくて、別のお部屋を用意された。
小学校でもやってたように先生がくる前にノートの代わりのコピー用紙と、便箋と一緒に買ってもらったフラミンゴピンクの羽ペンをセットしてピュイトと二人で待っているとリデルが先生を連れてきてくれた。
白髪が混じった焦げ茶の髪と瞳をした優しそうな人だった。
エルフだから若く見えるけれど、もうすっかりお爺ちゃんなんだって、にこにこしながら教えてくれた。
助手みたいな人も一人連れてきてるけど、こっちの人は
ミアのことをじろっと見ただけだった。
リデルも「私も見学する」と椅子に座った。
初めましてのご挨拶の後、すぐに授業は始まった。
教科書はなくて全部先生がお話で教えてくれるみたい。
「えー……エルフは植物魔法が一番得意というのは知っておりますかな?」
「はい! それはみんなにおしえてもらいました!」
「よろしい、エルフはその力を使ってたくさんの作物を育てております。小麦や野菜、果実などですな」
村でもミアがお手伝いすると、お野菜が美味しくなったって言われたの本当だったんだよね。
ミア知らずにエルフっぽいことしてたみたい。
村に帰ったら今度は意識して美味しくなぁーれ!ってしてみよう。
トマトも人参もじゃがいももきっと美味しいのがたくさんできるよね、うふふ、楽しみーっ。
あれ、そしたら、あれはどうなるのかな?
「はいっ先生、しつもんです!」
「何ですかな?」
「きのこは? エルフはきのこも上手に育てられますか?」
「なに、茸じゃと?……えーとちと待っておれ」
先生は後ろに立っていた助手さんとひそひそお話していたけど、おもむろに助手さんは部屋を出ていった。
どうしたのかな?
お料理のお手伝いしてる時、須藤さん言ってたもん「みりあちゃん、キノコはお野菜売り場で売ってるけど本当はお野菜じゃないのよ」って。
きのこも上手に育てられるなら、ミア村で育ててみたいなぁ。
「こほん、茸はの、今調べさせておるのでしばし待つのですな」
「はいっ」
「その他にの、エルフは風、水、土などの自然に関わりある魔法が得意じゃの。大体のエルフは植物魔法が一番得意じゃが、二番目、三番目はそれぞれでありますな」
横でピュイトが「幼子が知らぬ間に自分で出した水でびしょ濡れになることなどがあるそうですよ」と教えてくれる。
ミア、山のおうちでお水出したし、熊をどーんってしたのも風だったって言ってたし、エルフの子供あるあるを知らないうちにやっちゃってたみたい。
「ドワーフなる種族も魔法が使え土魔法が得意ですな、それにエルフと違い、金属、そして鍛冶をするための火魔法を得意としておりますな」
「あれ? グリフェルダさんは? 盗賊をやっつけた時に火の玉をぶつけてたよ?」
確かそうだったよね?とリデルを見れば頷いている。
「あれはエルフの中でも特殊なのだ、普通はあれほどの火力を出せぬがグリフェルダは易々とやってのける。防御のシェファフルト、攻撃のグリフェルダで近衛隊の双璧だ」
シェファフルトさんは隊長さんだからすごいんだろうと思っていたけど、グリフェルダさんもすごい人だったんだ。
そんな事を話していたら助手の人が早足で帰ってきた。
ちょっと息切れしてるっぽい。
また先生のお耳に顔を近づけてこしょこしょ話。
「こほんっ、わかりましたぞ。エルフは茸も上手に育てられますな。600年前の植物図譜にそのような記載がある箇所がありますな」
やったー。
ならイオさんやカイ兄ちゃんに採ってきてもらってお庭で育ててみよっと。
お野菜じゃなくてもいいのかぁ、ミア、エルフでよかったー♪
「さて、どこまで話しましたかの? 次は……」
「はいっ、先生! しつもんです!」
「今度は何かの?」
「じゃあ、海藻は? 海藻って海の草なんでしょ? それも上手に育てられますか?」
ワカメもこんぶも緑色できのこよりはお野菜に近い気がするけど、どうなんだろう?
「……海藻とな?」
先生はぐりんっとまた後ろへ立っている助手の人を振り返るけど、助手の人は首をふるふるっと高速で振った。
先生が手を口元に当てると、助手の人が耳を寄せた。
助手の人はこくんと一つ頷くと、また部屋から出て行った。扉が閉まると同時にバタバタと走り出す音が聞こえて遠ざかっていく。
ミアが扉を見つめていたら「疑問を持つのはよいことですな」と先生は誉めてくれたけど、リデルは何だか呆れた目でこっちを見てた。
「こほんっ、エルフは海藻も育てられますな。800年前に海辺に移住したエルフの一族の手記にございましたな」
しばらくたって戻ってきた助手の人はゼェハァと肩で息をしている。
海藻もOKなら、ジーンが海苔を創造しても広めるのを手伝ってあげられるかも!
「では、先に進みましょうかの……」
「はいっ」
うふふ、いっぱいお勉強してパパとママのお手伝いがたくさん出来るようになるといいな。




