エルフの国とわたし#30
「何をしているっ、早く礼をとらぬかっ」
父親から言われて2人も慌てて跪いた。
「度重なる無礼、いかなる処分も甘んじてお受けいたします」
リデルの伯父さんがさらに頭を低くしてミアに言うけど「え? お仕置きはもうしてるよ?」と返事をしたら、リデルの伯父さんはぽかんとした。
「は? え、その、もっと重い罰などは……」
「え……?」
世の中にはたまに変わった人がいるって所長さんも言ってたけど……
「……ねぇ、リデル、あの人達ってお仕置きが好きなの?」
リデルにこそっと聞いたら「“オリジン”への無礼だぞ?奴隷落ちでもおかしくはない」なんて怖いことを言った。
奴隷って足に鎖と鉄の玉をつけられて重い荷物を運ばされたりする人のことだよね!?
そんなのになったらあの人達死んじゃうよ!!
ミアはゆかりお姉さんに教えてもらった“目には目を”がポリシーだから、本当はデゥリックを蹴ってやれればよかったんだけど、ミア暴力はやっぱり好きじゃないもん。
ちらりとリデルのママの様子を見れば「ミリアンジェ様のお好きなように」とにっこりされた。
よかった!
リデルのママも優しいー!
おてもやんを見て、ちょっとはスッキリしてくれたかな?
「ちゃんと反省してくれれば、お仕置きはそれだけだよ? もうひどいことしないでね?」
そう言えば、今度は親子4人で揃って頭を下げた。
「寛大なお心に感謝いたします」
ふーっ、よかった!
これで「いっけんらくちゃく~」ってやつだよね!!
リデルのパパが「しばらくは大人しく邸で過ごすがよい」と声をかけている。
みんなはそろそろと立ち上がりこの場はお開きになるみたい。
そこへおずおずとおてもやんが声をかけてきた。
「あの……罰は甘んじてお受けいたしますが、これはその……一生このままなのでしょうか?」
あんなに涙を流しても白塗りはちっとも剥げてない。
ミアの魔法すごい。
「じゃあ聞くけど、あなたはリデルのママをいつまであんな風にしておくつもりだったの?」
おてもやんは、きゅっと唇を噛みしめた後「私が王妃になったら解呪する予定でした」と小さな声で言った。
“目には目を”なら、この人はもう王妃にはなれないんだから……
「お仕置きはリデルのママが苦しんだのと同じ、3年だよ」
指を3本立ててわかりやすくしてあげる。
「3年……」
「それが長いか短いかは、自分がなってみればわかるよ」
おてもやんはそれには何も答えずにお辞儀をして一歩下がった。
「お母様もお兄様も3年もそんな姿なんておかわいそう……」
「ヴィヴィアンヌも頑張ってね!」
「へ?」
へ? じゃないよ、ミアのブローチを無理に引きちぎってお洋服をダメにしちゃったし、地面に叩きつけたじゃない。
踏んで壊したのはデゥリックだけど。
「ヴィヴィアンヌには作ってくれた人に感謝する気持ちを持って欲しいから、今日から3年、毎食自炊をしてもらうからね!」
「はぁ!? なんで公爵令嬢のワタクシがそんなことっ」
「物を作るのは大変なんだよ?」
こっちには大きな工場なんてもちろんない。
全部の物が“手作り”で当たり前。
手間も時間もたっぷりかかってる。
ヴィヴィアンヌへのお仕置きをどうしようか悩んだ時、ミアもヴィヴィアンヌの大切な物を壊しちゃおうかと思ったけれど、それじゃ、ヴィヴィアンヌと同じになっちゃう。
「知らないわよっ! そんなこと!!」
「だから、知ってもらうの。ヴィヴィアンヌへのお仕置きは自分で作った料理しか食べられないってこと」
「冗談じゃないわっ! 料理なんて絶対やらないんだからっっ!!」
「別にそれでもいいけど、自分以外が作った物は全部味がしないし、砂みたいにじゃりじゃりするからね?」
「!?」
野菜も肉も焼いたり煮たりしてお塩かければたいがいは食べられるし、公爵家なんだからお料理を教えてくれる人ぐらいいるよね?
毎食自炊しなくちゃなら、リデルにつきまとう暇もなくなるよね。
一石二鳥だよ!
ヴィヴィアンヌは地団駄を踏んで「お母様どうにかしてよっ」と叫んでる。
「できないの? ミアは魔法使わなくてもお料理できるよ? っていうかあなたが馬鹿にしてる貴族じゃない人達はほとんどできると思うよ? 自分でなぁーんにもできないのに威張ってたの? おっかしーーーっ」
クスクスとわかりやすく馬鹿にしてあげれば、真っ赤な顔で「で、できるわよっ! できるに決まってるでしょっ!!!」と啖呵をきった。
「それにしてもその虹色の聖石は神々しいな」
リデルがミアの杖にみとれてる。
「えへへ、カッコいいでしょー?」
杖を持ってる手をふりふりすると聖石がキラキラと光を振り撒いていつまでも見ていられそう。
本当はずっしり重いけど、ジーンが“重量軽減”っていう魔法をかけてくれたから片手で軽々と扱えちゃうもんね。
ミアの杖は虹色の聖石も大きくて立派できれいだけど、全体も細かな装飾の金で小さな聖石が散りばめられている。
一番大きな虹色の聖石の下には小さなピンクのハート型の聖石もつけてもらった。
「魔法少女のステッキみたい!」ってミアがはしゃいだら「これはミアの成長に合わせて伸びるようにしてあるからな、ステッキというよりは杖だな。ステッキはこちらだ」とジーンは子供用の傘ぐらいの長さのステッキを作った。
ミアのよりはずいぶんと小さいけれど薄い水色の聖石がついていて全体が銀。聖石の上にちょこんと金色の王冠が載っている。
「わーっ! このステッキもかわいい!」
「これは王笏だ」
「おーしゃく?」
ステッキじゃないの?
ミアが聞き返したらジーンはくすりと笑って「ミアはわからずともよい。ほら、あのミアの親しくしている末の小エルフがおったであろう? あの者に渡すとよい」と指輪にしまってくれた。
「リデルにあげればいいの?」
「そうだ、渡せばわかるだろう」
……そうそう!
忘れるところだった!
ミアはうっかりさんじゃないから、ちゃんと覚えてたもんね!
「あのね、リデルに渡す物があったんだ」
「ん? 何だ?」
「これね、“おーしゃく”だって」
指輪からステッキを取り出してリデルの右手に握らせてあげる。
「は? え? オーシャク? ……王笏!?」
「うん!」
王冠を被った聖石を見て、ミアを見て、また聖石を見て、リデルは白目を剥いて後ろへ倒れた。
「きゃあぁーーーーーっっ!! リデルーーーっ!?」
リデルのパパとママが倒れたリデルを抱えて起こしたり、アトラスさんが駆けつけてお医者さんを呼ぶように外へ叫んだりしている中で、ティティさんだけが「ほほほ、次代の王の誕生ですわね、ほほほ」と落ち着き払っていた。




