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転生エルフとパパとママと林檎の樹  作者: まうまう


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幸せの黄色い小鳥

「この近付いてくる魔力は……」


いつものように寝泊まりをしている教会から山小屋へ赴き、薬草畑の手入れをしていた私は真っ直ぐ自分に向かってくる魔力を感知した。

いつもの報告係の魔力とは違う知らない魔力。

魔力が近づいてくる方向にじっと目を凝らしていると、黄色い伝言鳥が姿を現した。


「おやおや、これは何ともかわいらしい」


私が差し出した指先に止まったのは鮮やかな黄色の小鳥。頬が朱色に丸く色付いていて何ともユーモラスでありながら愛らしい伝言鳥だった。


「さてさて、これは誰からでしょうね?」

指先に止まった伝言鳥に「伝言を」と命じれば『ウェルツティン先生、お久しぶりです。ミアだよ! あのね、ミアね伝言鳥が創れるようになったから、ミアの声をパパとママに聞かせてあげて欲しいの!……』と元気いっぱいなミア様の声が聞こえてきた。

両親に己の声を届けられるという喜びに溢れたその声に、こちらまで思わず笑顔になってしまいます。

それにしても、ここまでノンストップで伝言鳥を飛ばせられるとはさすがミア様ですね。

高熱が出たとの知らせがきた時は、私が直接治療してさしあげたいと何度も思いましたが、この様子ならばもうすっかりよいようですね。


今日は畑の世話は早めに切り上げて、すぐに治療にかかるとしましょう。




質素な山小屋に養父(カッツェ)養母(マリッサ)は住んでいる。

女神様ももう少し裕福な家庭に愛し子様を預けることはできなかったのかと最初の頃は思ったものですが、それも女神様の采配なのでしょう。

薄暗い小屋の中の素朴な手作りのテーブルには私の指導通りに煎じた薬と昼食が並んでいる。


「具合はいかがですか?」

私の問いに養母(マリッサ)は目を伏せた。

代わって養父(カッツェ)が「やはり食欲があまり出ないようです」と答えた。

「……すみません、薬湯でお腹が膨れてしまって……」

遠慮がちに私にいつもと同じ理由を告げる養母(マリッサ)

「そうですね、各種類をそれぞれ飲めば無理もありませんね」

私もいつもと同じように返事をする。

養母(マリッサ)には、血を増やしやすくする為の薬、目眩を抑える薬、、月のモノと子宮にできた腫れ物の痛み止め、それに魔力を流した時に起こる吐き気を抑える為の薬、それぞれの効能を持つ薬草を煎じた物を飲ませています。

食事の前に渋みも苦味もあるたくさんの水分を摂ってしまえば食事の量が減ってしまうのもわかります。

それに治療を開始する前からすでに食欲は落ちていたようでしたので、胃が小さくなってしまっているのでしょう。

けれども、食事を必要量摂れなければ完治が遠のいてしまいます。


「今日はとてもよい物をお持ちしましたよ。昼食を完食できたらお見せしましょう」


その言葉に二人とも目を輝かせる。


「手紙ですね!?ミアの手紙が届いたのでしょう!?」

養父(カッツェ)が弾んだ声で問う。


「はてさて?どうでしょうか?」


はぐらかして笑う私に養母(マリッサ)は「まぁ、違うのかしら?」と不思議そうだ。


「ウェルツティン先生のよい物と言ったら手紙に決まっているよ」

「ふふ、そうね、きっとそうよね」


テーブルの上にはパンやチーズの他に赤身の肉を焼いた物が乗っている。

養父(カッツェ)の友人が協力してくれて数日おきに届けてくれるらしい。

血を増やすために必要だ。


「頑張って食べるわ」


カトラリーを手にした養母(マリッサ)はゆっくりと時間はかかったが完食をした。


「お腹がはち切れそうだわ」

ふぅと苦しそうな息をついて、養母(マリッサ)は微笑む。

「すごいね、全部食べられたじゃないか!」

養父(カッツェ)は流しへ食器を運びつつ本当にうれしそうに笑う。

夫婦仲が良く、人を慈しむということをこの二人は知っている。

女神様はこのような二人だからこそ愛し子様をお預けになったのでしょう。


「ではでは、お楽しみのよい物をご披露しましょうか」


二人がテーブルについたのを見計らい、スッと人差し指を差し出すとどこからともなく黄色い小鳥が現れた。

「まぁ、小鳥!」

「よい物とはこれですか?」

目を丸くする養母(マリッサ)と少しガッカリした様子の養父(カッツェ)

あえてこの小鳥が何かとは言わずに「伝言を」と呟けば……


『ウェルツティン先生、お久しぶりです。ミアだよ! あのね、ミアね伝言鳥が創れるようになったから、ミアの声をパパとママに聞かせてあげて欲しいの!……』


「あなた!ミアよ!」

「あぁ!ミアの声がする!」


二人は手を取り合い、瞳を輝かせた。


『……でね、お熱が出ちゃったんだけど、もうすっかり良くなったよ!ティティさんが神殿特製の体力回復のお薬をくれたの。ミアの看病で疲れてたピュイトにも飲ませてもらってピュイトも元気になったからウェルツティン先生も安心してねっ……』


…………それにしても、あの大の男でも裸足で逃げ出すという神殿の薬湯を飲ませるとは……デセンテーティス様はさすがというか何というか……

ピュリンハイドは巻き添えといったところでしょうか?

でもアレは効き目は確かですから、まぁ、よかったのでしょう。


『……今はエルフのお城でお泊まりしてて、みんな優しくしてくれるから安心してねっ、パパとママもまたお手紙書いてね!また伝言鳥を飛ばすからウェルツティン先生に聞かせてもらってね!大好きなパパとママへ、ミアより』


「よかった……とても元気そうだ」

「それに優しくしてもらってるって」


手紙では伝わりきらない元気な様子がわかって安心したのでしょう。

二人とも安心した顔をしています。



「先生、ミアの声を聞いたら元気が出てきました。今日の治療をお願いします」

「えぇ、薬が効いているうちにいたしましょう」


養母(マリッサ)の手を取り、少量の魔力を時間をかけて流します。

魔力のない養母(マリッサ)にはとても不快で苦しいことでしょう。

患者を苦しめるのは医者の本意ではありませんが仕方ありません。

腫れ物を取り除く本番ではもっと強い魔力を一気に使うことになります。

その前に体を少しずつ慣らしておかなければ。

目を瞑って不快感に耐えている養母(マリッサ)はとても辛抱強いといえるでしょう。


母のために。

娘のために。

血は繋がっていなくとも心が通いあっている親子というのは似てしまうものなのでしょうか。



……その事を微笑ましく感じると共に、あきらめてしまったペリドットの瞳をあの記憶と共に思い出します。

私の娘と孫はもうこのような関係には戻れないのでしょうね。



ゆっくりと魔力を流し終えると養母(マリッサ)の額の脂汗を養父(カッツェ)は優しく拭き取っている。


「よく我慢できましたね。ではもう一度先程の伝言を流しましょうか」

「いいんですか?」

「ぜひ!」


「もちろん、かまいません。『伝言を』」


そっと寄り添いながら先ほどよりじっくりと娘の声に聞き入る二人のために、黄色の小鳥をテーブルに下ろしそっと外へ出る。



ミア様はずいぶんとたくさん魔力を込められたのでしょう、あの小鳥は消える気配がありません。

これはかなり長持ちする伝言鳥になりそうですね。




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