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転生エルフとパパとママと林檎の樹  作者: まうまう


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エルフの国のわたし#23

「何てことするの!」


ブローチを拾おうとかがみこんで手を伸ばす。

勢いよく投げつけられたけど、ここはよく手入れのされたふかふかの芝生だからブローチは大丈夫なはず!


指先がブローチに触れようとしたその時、何か白い物が上から降ってきた。

その白いのはブローチをぐりぐりと踵で容赦なく踏みつける。

驚いて顔を上げるといつの間にかデゥリックとかいう兄がここに立っていた。

白い物は磨きあげられたピカピカの靴だった。

目が合ったデゥリックはその濁った沼色の瞳を細めてニヤリと笑った。

そしていっそう強くブローチを踏みつけた。


「やめて!壊れちゃう!!」


その時、パキリと靴の下から小さな音が聞こえた。


「あ……」



「このような安物が何だと言うのだ。リデルヴィオンもこんな平民ではなく、我が妹にしかるべき贈り物をした方がいいぞ?」


「足をどけてよっ!!」

いつまでもそのままにしている足に掴みかかろうとした途端、今までブローチを踏みつけていた靴底がミアの目の前にあった。



「ミアッッ!!」「ミア様ッ」と2人の叫び声が聞こえた瞬間、蹴りあげられた体が後ろへ倒れこんだ。背中への衝撃が先でそれに驚いていると顎の辺りがじんじんと痛みだした。


「幼い子供を足蹴にするとはどういうことだ!!」


リデルがミアの前に出てこれ以上蹴られないようにかばってくれている。

「ミア様っ動いてはいけません!おケガの様子をお見せくださいっ」

起き上がろうとしたミアをアトラスさんは寝かせたままで顎の辺りをそろそろと触って確かめる。

そして、「デセンテーティス様、緊急事態でございますっ。至急ローズガーデンへお越しくださいませ!!」と

白い鳩の伝言鳥を飛ばした。


「デセンテーティスですって?」

「城にいるのか?滅多に神殿から出ぬのにタイミングの悪い……」

「なんでこの生意気な子供のためにデセンテーティスを呼ぶのよ!?」

「そんなことより面倒になる前に行くぞっ」


焦った二人の声が聞こえて、足音が遠ざかっていく。



「痛……ッ」

起き上がったら顎のずきずきがひどくなった。

メイドさんが水で濡らした布をアトラスさんに渡してくれたから受け取って冷やしてみる。

ちょっとだけマシになったかも。


「ミア、すまぬ、私がついていたのに!」

「リデルは何にも悪くない」



そろそろとアイツが立っていた場所へ這っていく。

そこには予想通りに割れてしまったブローチがあった。


「ミアこそごめんなさい。せっかくプレゼントしてくれたのに……こ、壊れちゃった……」


マーガレットは花びらの半分ぐらいが割れているし、針のところもぐにゃりと曲がっている。


壊れてしまったブローチを手のひらに乗せると、悔しさと悲しさが溢れてきた。


「壊れちゃった……」

ぽたりと涙がブローチを濡らす。


一度流れ始めた涙は後から後から湧いてきて止まらない。

「うぐっ、うぅ……ごめんね、リデルごめんねっ」

自分がプレゼントした物が目の前で壊されたら誰だって嫌な気持ちになるもん。

「ごめんね」を何回繰り返しても壊れた気持ちは元には戻らない。

わんわん泣くミアをリデルはそっと抱きしめた。

「よいのだ、ブローチなどよいのだ。それよりいきなり蹴られたミアの方が心配だ。痛かったし、怖かったであろう?」


「……うん、怖かった」


迫ってきた靴底を思い出したら、また怖くなってリデルにぎゅっと抱きついた。





「これはどういう状況です?」

ミアの気持ちが少し落ち着いたころ、お庭の入口でティティさんの声がした。

「ミア立てるか?」

「うん」


走りよったアトラスさんがティティさんに一言、二言告げている。


「なんてこと!」


小走りでこちらへ来たティティさんはざっと上から下まで全身を眺めるとミアの顎を撫でた。

「赤くなっていますわ」

「でも、もうだいぶ痛くなくなったよ」

侍女さんがハンカチで涙を拭いてくれる。

「さぁ、温かいお茶を淹れさせますわ。座って待っていて」


ティティさんは控えていたメイドさんにテキパキと指示を出して、残った人達に話を聞いている。

すぐに椅子とミルクティが用意されてミア達は席に着いた。

温かい液体が喉を通ってお腹まで届くと、知らずにほっとした息が出た。


「大体のことはメイドとアトラスから聞きましたがリデルヴィオンからも話を」

ティティさんに言われてリデルはあの二人が勝手にローズガーデンへ来ていたこと、ミアにしたひどいことを話した。

「申し訳ありません、私が悪いのです。ここへ来る前ヴィヴィアンヌに付きまとわれていたのです、撒いたと思っていたのですが……まさか王族専用の庭にまで突撃してくるとは……」


虫を撒いていて遅れたって言ってたけど、本物の虫じゃなくてヴィヴィアンヌのことだったの?


「あの人達、すごく失礼だった……」

「あの2人は昔からあぁなのだ……」

「どうして?従兄妹だからってリデルは王子様なのに」


するとティティさんは苦い顔をして言った。

「それは王家にも責任がありますわ。リデルヴィオンが王位継承権2位なのが問題なのですわ」


言われたことがよくわからなくて、こてりと首を傾げる。


「つまり現王陛下の父上の次に王位につくのはあやつらの父である、伯父上となる」

「ほほほ、ですがそれはリデルヴィオンが成人するまでの話」

「あやつらはそれが気に入らず、ヴィヴィアンヌは私と婚姻すれば王妃になれるとすり寄ってくるのだ」

キレイな顔を心底嫌そうに歪めるリデル。


「ウォルデゥン自体は体が弱く弟に王位を譲った身、リデルヴィオンが成人するまでの中継ぎだとよく理解してくれているのに、あれはやはり母親がよくないのね」

ため息を吐きながらティティさんは首を横に振る。


ウォルデゥンさんがリデルの伯父さんかな。


「伯父上は公爵家に婿へ行ったのだが、公爵家の跡取り娘だった伯母上が伯父上の即位をあきらめきれず、様々な嫌がらせをしてくるのだ。息子や娘も同様にな」


「本来ならばあのような無礼は許されません、が、現段階では王位継承権第一位の方の息子と娘であるため、あのような振る舞いをなされているのです」


おかわりのミルクティをカップに注ぎながらアトラスさんも教えてくれる。


「なんでリデルが一位じゃないの?」


「エルフは長命だからな、婚姻しても長く子供を授からぬ場合もあるのだ。母上も私を身籠るまで長くかかった」

「次の王座につく者を明確にしておかねばならなかったのですよ」

「ですが、王妃様がリデル様をお産みなされたのでウォルデゥン様はリデル様が成人するまでの中継ぎの皇太兄となられたのです」

「伯母上はそれがくやしくてならぬのだ」



「それに(わたくし)より早く息子を産んだこともあの方が増長する要因となったのでしょう」


「母上!」






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