エルフの国のわたし#21
「あれはな、大叔母様の仰る通り“呪い”であった」
リデルはバラに囲まれた小道をゆっくりと歩きながら、あの後どうしたのかとわかったことを教えてくれる。
アトラスさんだけが少し離れて付いてきている。
「えぇっ……呪い!?」
「尤も“呪い”というよりは“呪い”に近いものであるらしいがな」
「“お呪い”?」
痛いの痛いの飛んでいけーっとかのアレ?
「そうだ。母上が無表情になったのは、あの呪いのせいだとわかった。医師が調べてもわからぬはずだ」
「病気じゃなくてよかったのかもしれないけど、あのもやもやなんでお口の中にいたんだろうね?」
お呪いが、風邪のバイ菌みたいにお口の中に飛び込んだのかな?
振り返ったリデルは不思議そうな顔。
「もやもや?」
「うん、そうだよ。ミアが最初に見つけた時は黒いもやもやだったの。でもそれだと掴めなかったから“何か”掴みやすいのにって魔法で変えたの。ミアも虫になるとは思わなかった」
「そうか……」
「それがどうかしたの?」
「あぁ、何と言うか、納得した」
リデルは小さくハッとあきれたように息を吐いた。
「何が?」
「母上にかけられた呪いは、ただ表情を失わせるだけのものだった」
「うん」
「やろうと思えば命に関わるような呪詛を仕込むこともできたはず。だが、相手はそこまでの覚悟がないのだ。ミアがかけた魔法はすごいな?あの小さいが嫌悪感を抱く虫の姿にそのさもしさが表れている」
リデルのママは王妃様だから命を狙われるようなことがあるのかな。
犯人はリデルのママが笑えなくなって困ってるのを見て影で笑うような嫌な人!
「ミアあの後気持ち悪くてすぐ手をクリーンしたよ。リデルのママもきっとものすごく嫌だったよね……ちゃんとごめんなさいしたいんだけど、リデルのママはいつなら会える?」
「ミアが謝ることは何もない。むしろ母上は感謝している。感謝の印に何か贈りたいと仰っていたから近々また会うことになろう」
「わかった!」
ごめんなさいはその時言えばいいね。
お呪いが見つかったのはよかったんだろうけど、やっぱりすごくびっくりさせちゃったんだもん。
「それにしても誰がそんなひどいことするんだろうね!?」
やっていいイタズラと悪いイタズラがあるんだってミアでもわかるよ!?
「呪いは歯の治療の時に仕込まれたらしい。そしてその治療のために外から呼んだ医師を紹介した人物もわかっている」
「そうなの!?」
じゃあ捕まえてお仕置きしなくちゃだよ!
「お仕置きするならミアが犯人のお口に創造で虫をいっぱいに詰め込んであげようか? それか寝てるときに毎日鼻から虫が入るようにする? あ、お菓子がみんな虫に見えるようにした方がいいかな?」
目には目を。
虫には虫を。
嫌がらせには嫌がらせだよ。
ちょっとだけ上乗せして返してあげるよ。
「……ミアのお仕置きは恐ろしいな」
リデルは頬をひきつらせてのけぞったけど、すぐに「そのお仕置きは案外悪くないかもな」と吹き出した。
「遠慮しないでいつでも言ってね!」
「あぁ、その時はよろしく頼む」
あははって笑って大きく息を吸い込めば、バラの香りで胸がいっぱいになる。
日本ではバラは育てるのが難しいって園芸委員会の先生は一株のバラを大事に大事にお世話していたけど、ここは本当にあっちにもこっちにもバラ!
小道に沿って植えられているシャーベットオレンジのバラは小さな花がたくさんでリボン細工みたい。
ピンクのバラは透けるほど薄い花びらが幾重にも重なりあっていてとても繊細。
深い紅の花びらをくるりと反らせて堂々と大輪の花を咲かせているこれぞバラ!ってカンジのもある。
エルフは植物魔法が得意だって言ってたけど、こんなにたくさん一度に咲かせるのはきっと大変だよ。
「これすっごくかわいい」
ミルクホワイトの花びらはフリルみたいに波打っていて、それにお花の中心がほんの一滴、紅を落としたみたいに淡いピンク色。
こんなにキレイなお花、ママにも見せてあげたいなぁ。
「あの、……あのね、このお花、ママへのお土産にもらったらダメ?」
「あぁ、ここにあるバラなら好きなだけ持っていくといい」
「せっかくキレイに咲いてるから一輪だけでいいよ」
リデルが合図をしたらアトラスさんが鋏で固そうな茎を切って刺を払って渡してくれた。
「ありがとうっ」
きっと「まぁ、すごく綺麗なバラね」って喜んでくれる。
早速指輪にしまって一安心。
しまってある物の時間が止まっているなんて、すごく便利!
ママが喜ぶ顔を思い浮かべてにまにましていたら、スッとリデルがミアの前で片膝をついた。
「ミアにはいくら感謝しても足りないぐらいだ。世界樹の事だけでなく、母上までも助けてもらった。王妃である母上が笑えないということはミアが思っているよりも影響が大きいことだったのだ」
「お呪いを見つけたのは偶然だし、ミアもママの病気治してもらって助けてもらうんだからお互い様だよ?」
リデルは小さく首を振る。
「だがミアの負担の方が大きい」
「大事なモノは“人それぞれ”だよ?」
リデルが国と家族が大事なように、ミアもパパとママが大事なだけ。
リデルはいつの間にか手に持っていた純白のバラをミアに手渡した。
「誓おう。これからいついかなる時も私はミアの味方であると。それがミアに対する私の感謝の印だ」
「ずっと味方?」
「そうだ」
「じゃあ、ミアとリデルはずっとお友達ってことだね!」
困った事が起きたらお互いに助け合い、支え合えるステキなお友達だね!
「ああ、そう……だな、友達なのは確かだな」
「じゃあね、指切りしよっ」
お呪いは怖いのだけじゃないもんね。
リデルは不思議そうだったけど、約束を守る誓いのポーズだよって教えてあげた。
小指と小指を絡めて、約束。
パパとママと離れているのは寂しいけれど、エルフの友達ができたのは嬉しいな。
リデルも優しく笑ってくれている。
「さ、お散歩はこれくらいにして、もう一杯お茶をいかがですか?」
アトラスさんがティーポットを傾ける仕草をする。
「うんっ、お茶するっ!お菓子も食べるー!」




