エルフの国のわたし#19
ふわりと湯気と一緒に紅茶のいい香りを吸い込む。
これ、ミアもエルフのみんなも大好きなあの香り。
もう飲めるぐらいには冷めたよね。
小ぶりなティーカップに口をつけると、やっぱりこれアップルティーだ!
よく見たら白い陶器に描かれているのは、緑鮮やかな葉っぱに真っ赤な林檎と林檎の白いお花。
かわいいーーーっ。
美味しいのとかわいいのでお耳がすこぉしだけピコピコした。みんながミアのお耳を見た気がするけど気にしない気にしない。
お茶の隣に置かれたお揃いの林檎の絵のついたお皿にはキャラメルみたいな一口サイズのお菓子が並んでる。
一つずつ金のピックが刺してある。
あれ?お皿って持ち上げてよかったんだっけ?
持って食べるのはダメだったような?
でも、お口に入れるまでにピックからポロリと落としたら大変だよ……
むむ……?と考えていたら、
「ほら、口を開けろ」
リデルがミアにお菓子を食べさせてくれた。
餌付けされちゃった!
お口の中に入ったお菓子は、甘ぁいキャラメルの味がして、噛むとパリパリってそれが砕けて、中からは林檎の果肉から果汁がじゅわわぁって染みだしてくる。
「美味しいーーーっ」
お耳のピコピコが止められないけどしょうがないよね!
日本のとはちょっと違うけど、これ、りんご飴だ!
日本の大きい丸ごとのより一口サイズで食べやすい。
お口の中が空っぽになったら、またリデルに「ほら、“あーん”だ」って餌付けされた。
「リデルヴィオンおやめなさい」
リデルのママが急に立ち上がった。
わわ、やっぱり王子様にこんなことさせちゃいけなかったのかな!?
「ごめんなさいっ、自分で食べますっ」
「いいえ、私が食べさせます」
え?
ミアの横に座ったリデルのママは、リデルにお菓子のお皿を持たせるとミアをお膝の上に乗せた。
「ミア、もう小さくないから重いよ?お着替えだって一人でできるし、少しならお料理もできるんだから」
「ふふふ、愛し子様は色んなことがお出来になるのですね。けれどまだまだ抱っこされてもよいと思いますわ」
言いながら頭をなでなでしてくれる。
ミアもう7才なのにな。
大人にとってはまだ赤ちゃん扱いなのかなぁ?
「はい、あーん」
リデルに持たせたお皿から1つ口に運ばれる。
うん、パリパリのじゅわわぁで美味しい!
にこにこなミアを見つめるリデルのママはやっぱり真顔で笑ってはいないけど、琥珀色の瞳は優しい色だ。
「リデルのママ、今、うれしいなって思ってる?」
「ええ、愛し子様がこんなに可愛らしいので胸が幸せでいっぱいです。それにリデルヴィオンが年少の者に優しくできるようになったこともうれしく思います」
「えへへ、そっか」
リデルったら誉められたのに「私は前から優しくできますっ」と耳まで真っ赤にしてる。
そういえば、こんな風に抱っこされたのはミアも久しぶり。
村へ帰ったらミアは今より大きくなってるはずだから、ママに抱っこされるのはもう無理かな?
リデル、もう少しだけミアにママを貸してね。
「はい、もう1つどうぞ」
ぱりぱりじゅわわで美味しいけど、ミアだけ食べてるのは気が引けるよ。
「リデルのママも食べてね?あーん」
お皿から1つ摘まんでリデルのママのお口に近づける。
お口を開けてくれるまでに少し間があったけど、ちゃんと食べてくれたよ。
んん?
りんご飴が入る前に見えたリデルのママのお口の中になんか変なのいなかった!?
黒いもやっとしたのが動いた気がする!
お耳がぞわぞわっとして、背筋がぷるるっとする。
ジーンが言ってたよ、ミアやジーンは女神様の神聖な力を持っているから悪意や呪いが近付くとわかるんだって!
これってそれじゃない!?
リデルのママ大変!
もう一回見なくちゃ!
「はい、もうひとつどうぞ?」
今度はリデルのママもすぐにお口を開けてくれた。
そしたら、やっぱり何かいる!!!
黒いもやもやっとしたやつ!!!
「ごめんなさいっ……!」
りんご飴じゃなく、いきなりお口に指を突っ込まれたリデルのママは表情は変わらないけど、忙しなく瞬きをしてびっくりしてる。
そりゃそうだよね!
でも、この黒い変なの取らないといけない気がするんだもん!!
「ミ、ミア何をして!?」「ミアちゃん!?」「ネオ・オリジン様とはいえ無体は……!」
黒いもやもやは口の中であっちこっちいって逃げ回るけど、逃がさないからっ!
えーい、「創造!」
「黒いもやもや、掴みやすい形になるのっっ!!」
そしたらお口の中のもやもやは何かグネグネしたモノになって親指と人差し指と中指で掴めた!
そのままずるるっと指を引き抜くと、そこにいたのはゲジゲジみたいなムカデみたいな足がいっぱいある真っ黒な虫!!
「ぎゃーーーっ何コレ!!」
思わず手を振って掴んだ虫を離したくなったけど、離したら逃げちゃう!!
でも、こんなの掴んでたくないよっ!!
「創造!蓋つきのビン!!」
テーブルの上に現れたビンに素早く虫を入れてぎゅっと蓋を閉める。
閉じ込めた虫は中で出口を探してうろうろしてる。
うぇぇ、気持ち悪ーい。
「な、何なのだこれは……!」
「は、母上!」
「何やらこの虫からは禍々しい気配がしますわ」
夢中で指を突っ込んじゃったけど、ちゃんと謝らなきゃ!
リデルのママはあまりの出来事に目を見開いて口がわなわなと震えている。
「わ、私の中にあのようなものが!?」
と真っ青だ。
「は、母上……お顔が……?」
「え……?」
「創造!」
ミアとティティさんのと色違いのバラの手鏡を渡してあげる。
リデルのママのは薄い緑色。杏色の髪の毛がよく映えると思うんだ。
ここのみんなは創造のことを知ってるから平気だよね。
ミアが渡した鏡を覗き込んだリデルのママはポロポロ涙を流してる。
そして、ぎこちなく唇を上に上げて微笑みの形をつくる。
「あ……ぁ……陛下!私笑えています、笑えていますわ!」
「あぁ、笑えている……!」
「母上!よかった!」
「あぁ、これであなたにも笑いかけてあげられます、リデルヴィオン!」
リデルのパパとママとリデルは親子3人、抱き締めあって喜んでいる。
ティティさんとミアはそーっとお部屋の外へ出たよ。
こういうの空気を読むっていうんだよ、ミア知ってる。
リデル、ママはちゃんと返したからね!
創造は物体を造り出すだけでなく、願ったことを叶えるための魔法も造り出せるという設定でございます。
説明ガバガバ……(´Д`)
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