エルフの国のわたし#18
「はじめまして。ウィゼンベルク村から来ました、ミアです。お世話になってます!」
よし、ちゃんと挨拶できた!
リデルのパパとママも軽く頷いてくれてるし、ティティさんもニコニコしてるし。
「さぁ、お掛けください」
ここはすごく広いお部屋じゃないけど、大きなガラス窓のおかげでとっても明るい。
お部屋にはミアとリデルとリデルのパパとママ、ティティさんの5人だけ。
ぞろぞろとミア達に付いてきた人達はお部屋の中までは入ってこなかった。
5人は座れそうな大きなソファーが長方形のテーブルを挟んで2つ。
ミアはリデルの隣。
大人組と子供組に分かれるみたい。
ソファーはふかふかで前に体重をかけてないと背もたれに寄りかかったまま戻れなくなっちゃいそう。
お呼ばれしたら、背もたれは使わず背筋はピンッってしてないとお行儀悪いんだよ。
「国を窮地から救ってくれること誠に感謝致します」
リデルのパパがソファーには座らずに床に跪く。
「ここでは遠慮せず何でも言いつけて下さいね。できうる限りのことはさせて頂きます」
リデルママも跪いて顔を伏せた。
よく見たら隣のリデルもだし、ティティさんも床に跪いて頭を下げている。
「え、えっとお礼はいらないですっ、ご飯も美味しいし、お洋服もたくさん準備してもらったし、それにママの病気を治してくれるお約束だからっ」
別にミアはタダ働きしてる訳じゃない。
大好きなママが治るなら、ミアは何だってする。
ミアが焦って手をぶんぶん振って立って立ってとジェスチャーするけど、リデルのパパはふっと笑うだけでまだ立ってはくれなかった。
「愛し子様もとい、ネオ・オリジン様にとってはそうなのでありましょうが、あなた様がいらしてくれなければエルフの未来は絶望的でありました。今いる子供達、それにこれからのエルフの未来をお救いくださるのです。……本来ならばあなた様を始祖様と同様にエルフの国の最高位として戴きたいところでありますが……」
リデルのパパはティティさんをチラリと見た。
「デセンテーティスによればネオ・オリジン様は身分や地位にはあまり興味がないご様子とお伺いしておりますので、表面上は今のままでお過ごしいただくことになりましょう」
エルフの国の最高位!!
え、ミアいつの間にそんなにエラくなっちゃったの!
“ネオ・オリジン”だから!?
スゴイのはジーンであって、ミアじゃないよね!?
「え、え、えっと?」
なんてお返事していいかわからなくてしどろもどろになっていたらティティさんが助けてくれた。
「ほほほ、最高位といえど何かが変わる訳ではありませんわ。ミアちゃんはそのままでいてくれればいいのですわ。好きに振る舞えばよろしいのです」
そのままってことは、今までと同じにしてていいってことで、好きに振る舞っていいならミアのお願い聞いてくれるよね?
「えっと、それじゃあみんなちゃんとソファーに座って欲しい……な」
そしたらやっとみんな目配せしあって跪くのを止めてくれた。
ティティさんがテーブルに置いてあった金のベルを鳴らすと、音が鳴り終わらないうちに扉が開いて、侍女さんがワゴンに乗せたティーセットを運んできた。
侍女さん達は流れるようにお茶とお菓子の準備をすると、また静かに出ていった。
淹れたての紅茶からはとってもいい香りがするけど、ミアにはまだ熱すぎて飲めないから、冷めるまでもう少しお話しよっと。
「ねぇ、好きに振る舞っていいって言ってたけど、ミアがものすごいワガママなことを言い出したらどうするの?」
ちょっと意地悪な質問しちゃお。
だって、いきなり“エルフの国の最高位”だなんて、ビックリしちゃったんだから。
そしたらミアの横で静かに紅茶を冷ましていたリデルが「我儘?例えばどんなのだ?」と聞く。
あ、口元が片方だけちょこっと上がってる。
これは大したことは言えないだろうって顔だよね。
よし、絶対困らせちゃうんだから!
「ミア、お仕事もしない、家事もしないで、一生遊んで暮らす!」
んふふ、堂々のニート宣言だよ!
施設の職員さんのもう大きい息子さんが“配信”でお金を稼ぐんだって毎日お家にいるんだって。
「家にいるくせに何にもしやしない、あんなもんはニートと変わらないよ」「それは困ったねぇ」って職員さん達言ってたもん。
ミアがニート宣言したら、みんなポカンとした。
ほら、困っちゃうよね!
でも、リデルのパパは困らなかったみたい。
「それは……当然では?」
「え?」
「ほほほ、世界樹に魔力を注ぎ終わったらミアちゃんは何もしなくてよろしいのですわ」
「ええ、もちろんそうですわ、国を救っていただけるのですもの。これからの生活の心配などしなくてよいのですわ。ご両親もこちらに呼び寄せてのんびり暮らしてくださいませ」
ティティさんもリデルのママも、ミアがニートになっても困らないみたい。
「違うのっ、それはウソ!ミア大きくなったらちゃんとお仕事するから!」
ミア、ちゃんと自立した大人になるんだもん。
「そうなのですか?それは残念です」
「えぇ、我が国でゆっくりなさればよろしいのに」
ニート宣言は失敗!
次は違うやつ!
えっと、すごく高い物をおねだりされたら困っちゃうよね?
んと、ゲームはこっちにはないし、銀のお皿?
それか、宝石?
だめだ、ミア、聖石取り放題だった!
あ、そうだ!
施設の職員さんが言ってたの、あった!
「おうち!ミアのためにおうちを買って!」
一生に一度の買い物だって言ってたから、これなら絶対困っちゃうよ!
「おうち……は、買わないです……」
ほらね!
さすがにおうちは高すぎるよね!!
「……が、ネオ・オリジン様が住まわれるのでしたら、すぐに離宮の建設に取り掛かりましょう」
リデルのパパが目をキラキラさせて言う。
「“りきゅう”って?」
隣のリデルに聞いたら「城より小さいが同じぐらい豪華な建物だ」だって!
買うんじゃなくて、建てちゃうの!?
「ほほほ、それもよろしいですけれど国内の景色の良いところのいくつかに別荘を建てさせましょうか」
「王都の中に屋敷があると便利でしょうから、そちらも手配致しましょう」
あわわわ……みんな全然困ってないし、おうち1つじゃなくてたくさんになってるし!
「それもウソ!ミア村にちゃんとおうちあるからいらないです!!」
すきま風が入ったって、ガラスの窓がなくったってパパとママと過ごすあそこがミアのおうちだもん。
うぅー困らせる作戦失敗。
「ほほほ、ミアちゃんの我儘ぐらいならすぐ叶えられますから遠慮はしなくてよろしいのよ?」
「えぇ本当に。さすが愛し子様でもあられますわ」
「そもそも善良な魂ゆえに選ばれたのであろうからな」
「ミアのことだ、そんなことだろうと思った」
みんなは口々に納得した感じで紅茶を飲み始めた。
「ねぇ、リデルが困っちゃうお願いごとってどんなのがあるの?」
今度はミアが紅茶をふーふーしながら聞いてみた。
「ん?」
リデルは紅茶をお皿に置いて少し考えるそぶりをした。
「そうだな……私なら婚約者にしてくれとしつこかったり、茶会の約束を一方的にした気になられたりが困るな」
「ふぅーん?」
よくわかんないけど、リデル嫌な顔してるから嫌なんだろうな。
「リデルのパパは?どんなのが困るの?」
なんだろ、ミアが話しかけるとリデルのパパ、すごくにこにこしてくれる。
「そうですな……隣国の土地をねだられたりや、ドラゴンを生け捕りにしてこいと言われたら、ちと困りますね」
「ドラゴンがいるの!?」
「ほほほ、もっとずっと魔素山に近いところにですけれどいますのよ」
「ご所望ですの?」
リデルのママに真顔で聞かれてブンブン首を振って否定する。
「ミア、ドラゴンの飼い方なんて知らないからいらないっ」
ドラゴンなんて大きすぎてエサ代がすごいことになりそうだし。
「エサをあげるだけで1日が終わっちゃいそう」
それを聞いたみんなはまたミアを見て笑った。




