エルフの国のわたし#12
よーーしっ、やっるぞーーー!
腕をぐるぐる、首を右に左に傾ける。
映画ならここでコキッ、コキッて音が鳴るけど、ミアの首はまだ柔らかいからそんな音はしない。
でも雰囲気は大事!
さっきジーンに教えてもらった方法は、昨日言ってた通りすごく簡単だった。
林檎の樹さんを世界樹にするにはミアの魔力をあげるだけ。
「本当にそんなのでいいの?」って聞いたら「ミアの魔力だからこそ意味があるのだ」って。
「ジーンの魔力じゃダメなの?」
「私のではこの林檎の樹には合わぬ。これはミアに託された故に。それに私にはもうこの小さな樹をこれほど大きくすることはできぬよ」
遥かにそびえる創世樹を見上げたジーンは少し悲しそうに見えた。
「ん、わかった。ミアがんばる」
「あぁ、新しい世界樹の誕生を楽しみにしている」
タワーマンションぐらい大きくなるのを見越して、創世樹からかなり離したところに林檎の樹さんを置く。
地面に置かれた林檎の樹さんはかたかたと少し鉢を鳴らしてから、山のおうちの時と同じような大きさになった。
「いっつも不思議だったんだよね、なんで大きくなったり小さくなったりできるのか」
「ネオ・オリジンの能力と魔力を勝手に使われていたようだな。いつでもミアと共にあるようにセラスティア様がそうしたようだが」
「そうなの?ミア全然気がつかなかった!」
わかった!だからミアのお腹、よく鳴っちゃうんだ!
きっと魔力を作るのにいっぱいカロリーを使ってたんだよね!
心の中でうんうんと納得していたのに、林檎の樹さんは首を横に振るようにざわざわと葉っぱを揺らした。
……そうだもん、多分、絶対、そうだもん……。
「この程度なら微々たる量しか使わぬから気がつかなかったのであろうよ」
ジーンがミアの両手を幹に触れさせる。
「さて、始めよう。このまま魔力を流し込めばよい」
よーし、やるぞー。
今のミアは和定食パワーで元気もりもりなんだからっ。
お腹に力を入れて、手のひらに魔力を集めて、流し込むっと…………
手のひらに魔力が集まった途端、ズズッと体から一気に魔力が吸いだされるのがわかった。
初めての感覚に息を飲む。
急にこんなにたくさん……!
思わず手を引っ込めようとしたけれど、ミアの手は磁石でくっついているみたいに幹から離れない。
そして魔力はどんどんと吸い出されていく。
どうしよう、止められない……!
「ジーンっ、これ、いつま、で?」
「初めてなのでわからぬ」
聞いている間にも、魔力はすごい勢いで流れ出してゆく。
「……うぅ」
こんなに魔力を流しているのに林檎の樹さんには特に変わったところはないみたい。
ミアの魔力が流れ出してから、5分くらいすぎた?
ううん10分すぎたかな、もしかしてもう30分くらいたったかな……
なんだか頭がクラクラしてきてどれだけたったかわからなくなってきた。
それになんだか気持ち悪い、こんな気持ち悪さ、今まで感じたことない……
自然と息がハァハァと荒くなってくる。
おでこに冷たい汗が浮かんで、足がガクガク震え始めた。
「じ、ジーン、ミア……」
もうダメ……
そう限界を訴えようとした瞬間、ミアの手は林檎の樹さんから離れた。
立っていられなくて、そのままべしゃりと座り込む。
「ジ、ン、ミア、休み、たい」
「しばらく横になっておけ」
苦しくて目を開けていられなくて、ぎゅっと瞑ったままいたらふわりと体が宙に浮いた。
ジーンが抱き抱えてくれたみたい、ふわりと柔らかい場所に下ろされて「じきに良くなる」と声をかけられた。
まぶたの裏のチカチカを気持ち悪さと一緒に耐えていたら、いつの間にか眠っていた。
「ミア、そろそろ起きなければ」
ユラユラと体を揺らされて、薄く目を開けるとジーンがいた。
「日没までにはそなたを神殿へ帰すと言ってある故、そろそろ行かねばならぬ」
「えっ!もうそんな時間!?」
ガバリと跳ね起きると、辺りはもう薄暗かった。
「魔力は回復したようだな」
あんなに気持ちが悪かったのに、今はもう何ともない。
「そうみたい?」
「明日も同じ時間に呼ぶ」
「わかった」
昨日と同じ場所に転移させられたら、ピュイトもティティさんもリデルも隊員さん達が待っててくれた。
昨日とは違う大きなお部屋で神殿の美味しいごはんをお腹いっぱい食べる。
デザートはオレンジのシャーベット。
半分に切ってある皮の中に入ってて、シャリっと甘酸っぱくて、いつもの3倍ぐらいごはんを食べたのにおかわりしたくなっちゃうくらいだった。
でも冷たい物はお腹が痛くなっちゃうかもしれないからガマンガマン。
もう今日は痛いのはヤダし。
あ、そうだ、ちゃんと言っておかないと。
「あのね、オリジン・クローロンはジーンの分身なんだって!ジーンがエルフや色んな種族を創造った時にエルフのみんなに『王になって欲しい』って言われたんだって!でもジーンには女神様からもらったお仕事があるから分身の“クローロン”を創造って王様になってもらったみたい。あ、ジーンのことは別にヒミツにしなくていいって言ってたよ?」
“ほうれんそう”は大事だって所長さんも言ってた!
なんで毎日あったことをお話することをお野菜の名前で言うのか、みりあはよくわからなかったけど、所長さんの言うことに間違いはないと思うし!
でもミアがお話したら、みんな「え!?」って、また固まっちゃった。
「ミア疲れちゃったから、今日は早く寝たい」
ピュイトが慌てて席を立ってお部屋までついてきてくれる。
「ありがと」
「無理はしていませんか?」
「うん、大丈夫だよ?」
そうやって答えたのに、ミアの顔を覗き込んだピュイトのお顔はまだ心配そう。
「ピュイト大好き」
ぎゅっと抱きついて、ついでにクリーン。
へへって笑ったら、ようやくピュイトも笑ってくれた。
「おやすみ」
「おやすみなさい」
無理、なんかじゃない。
また明日もあんな風になるのは怖いけど、ママだって病気を治すのに頑張ってるんだもん。
ミアだって頑張る。
前話のサブタイトル間違っていましたね……
さっき気がつきました……




