エルフの国のわたし#2
この人は……ミアの父親?
血が繋がってるとか、DNA鑑定をしたら“親子関係が証明されました”って出る、あの、父親なの!?
ミアは気がついたらパパとママのおうちで寝てたけど、本当のパパはこの人……?
「女神様はそんなこと言ってなかった!」
本当の子供にはなれないけど、とってもかわいがってくれるってパパとママのところへいかせてくれたんだもん!
「あぁ、そなたは女神様から何も聞いてはいなかったのだな」
男の人はすいっと立つと「長くなる、中へ行こう」と、林檎の樹さんを片手に持って、ミアにもう片方の手を差し出した。
差し出された手をとるのを躊躇していたら「怖いことはしないから」と悲しい顔をするから、指先だけをそっと触れさせた。
「行こう」
促されて進む先は大樹の方、中へ行こうって言ってたけど、どこにもおうちらしきものは見当たらないよ?
この裏にあるのかな?
樹の前まで来ると、目の前の幹がぐりゃりと歪み、ぽっかりと人が二人通れるぐらいの穴が空いた。
「!」
触れてただけの指先を軽く引かれて一歩中へ踏み出せば、一瞬だけ真っ暗になってそれから満月の夜のような仄かな明かるさの中にいた。
「ふむ、これでは寛げぬか……」
自称父親は人差し指と中指をミアのおでこにつんっと当てた。
「待っておれ」
すると、何もなかった空間にぱちぱちと薪が燃える暖炉が現れた。そしてその前には暖炉の炎に照らされて黒い毛が茶色にも見える熊の毛皮……。
「これって……」
ミアが驚いている間にまわりがどんどんと変化していく。低いタンスにきれいな花模様の絵皿、みんなで座ったぬくもりのある木の椅子。
「じぃじのおうち……」
「そなたが安心できる場所を探したらここであったぞ」
じぃじのおうちのリビングがそっくりそのまま現れた。
「長くなる、座りなさい」
林檎の樹さんを暖炉の前に置いて、ミアにも座るようにぽふぽふと毛皮を叩かれる。
長い脚を持て余し気味にしながら、ミアが座るのを待ってその人は語り始めた。
ーー昔々のことだ、そなた達が創世神話と呼ぶ時代のこと……
導きの星をお造りになり、大地を造りだした女神様は次はその大地へ放つ動物達をお造りになり始めた。
一つ一つの生き物を慈しみながらゆっくりと創造する為に、女神様はただ広いだけであった大地を整える役目を持つ存在を創りだした。
それが私とそなた達が創世樹と呼ぶこの木だ。
大地へと遣わされた私は女神様の造りだす生き物に合わせ、山を隆起させ、森を繁らせ、海を整え、様々な植物を生き物が飢えぬように造り出した。
創世樹はこの世界のエネルギーである魔素を取り込み、生き物が活動するのに適した濃度へと変化させた。
ゆっくりとそして少しずつ生命が動き出し、数を増やしてゆくのを見るのは楽しかった。
ゆるりとした変化を望まれた女神様はそこで一旦生き物をお造りになるのをお止めになったのだ。
安らぐ場所で揺らめく炎を見つめながら聞き入っていたら、それまで流れるように進んでいた話が一度止まった。
見上げると困ったように微笑んでいる。
「いつの時代も……世界が変わったとて、我が子を心配するのは変わりがないことのようだ……」
あまりにもゆっくりとした変化に焦れったくなったのであろう……ある時、女神様の父神様が地球の動物を持ち込み大地へとお放ちになられた。
それらはあっという間に大地の隅々にまで広がっていった。
「そなたは不思議に思ったことはないか?ここには地球と同じ生物と、似てはいるがそうではない生物がいることを」
そう聞かれてこくんと頷く。
それはずっと思ってた、例えばラビーとうさぎ。
どっちもいるの。
違うのは大きさだけ。
最初は鶏の雛が「ひよこ」って呼ばれるのと同じでラビーの小さいのをうさぎって呼ぶのかと思っていたんだけど、みんなは違う生き物だって言うの。
どうやって見分けるのか聞いても、みんな上手く説明できなかった。
なんとなくわかるんだって。
でも、そっくりだからラビーのことをうさぎって呼んでも笑われない程度の間違いなんだって言われたよ。
生き物じゃないけどCDとDVDみたい。
パッと見は同じなんだもん。
「父神様としては手助けをしたつもりだったのであろうが、女神様は大層お怒りになられたのだ……自分の世界に他者の手が入ってしまったと……」
何となくわかるかも。
冬休みの自由課題にカワイイ編みぐるみを作ってきたお友達がいた。
とっても上手に出来てたから「スゴイ!」って誉めたのに、なんだか浮かない顔をしてて……「これ、ママが半分以上やっちゃったの……」って泣きそうだった。一生懸命作ってたんだけど始業式までに間に合わないって慌てていたら、その子が寝ている間にママが勝手に進めちゃってたんだって!
しかも編んでるうちに楽しくなっちゃったみたいで、帽子やボタンなんかが付け足されてたらしい。
「ママのばかっ」ってすごく怒ってたな。
「くそババァ」とか「あの人」とか呼ばれちゃうひどい母親がいるのを施設にいるみりあは知ってたけど、普通のおうちの子でもママがいて困っちゃうこともあるんだな、なんてその時は思ったんだ。
……多分それと同じことだよね?
一生懸命作ってたのに、女神様のお父さんちょっと考え無しだよ。
「天界ではそれはそれは激しく父神様と女神様が言い争ったと聞いた……あの時は大気も大地も女神様の怒りを伝えてひどく震えた。まだ若いこの世界がもう終わってしまうのかと危惧したよ」
親子ゲンカ?
女神様が怒ったら世界は終わっちゃうの?
「そしてセラスティア中に女神様の声が響き渡ったのだ」
『今後は一切の神々の手出しを拒否します!!!』
更新遅くなってしまいました……
すみません……
今月は仕事が厳しい……




