エルフとわたし#46
ポケットの中の豆は全部使っちゃったからグリフェルダさんに野営に使う分から持ってきてもらった。
大きくて空豆みたいでこれからやろうとすることにはピッタリ!乾燥させてあるけれどきっと大丈夫。
壊れちゃった橋のすぐ側まで行って、地面に豆を置く。
えっと、10粒ぐらいでいいかな?
すぅっと深呼吸してイメージする。
まずは2粒。
盗賊をぐるぐる巻きにしたのよりも、もっと強く丈夫にしないとね。
そのためには根っこが大事だよね。
なら、まず根っこから!
魔力を流してしっかりと根を張らせる。同時に上の芽もどんどん生長させて太く長くする。
「よーし、行っけーー!」
蔓がどんどん伸びて、残ってる橋の上を通ってまずは左右に分かれる。壊れて橋がないところまで来ても、構わずどんどん伸ばしていく。蔓は途中でだらんとすることなく真っ直ぐ向こうの橋を目指している。
すごい勢いで体から魔力が流れ出すのがわかる。
芽を出す訓練の時はそんなこと全然わからなかった。
でも不思議、使うのと同時にミアの体の奥深くで使った分の魔力がどんどん作られていくのがわかる。
向こう側に届いた蔓は一度地面に下ろして根を張らせる。よし、これであっちとこっちで支えができた。
後は一気に作っちゃお!
残りの豆も生長させてっと。
イメージは編み物。
蔓はお互いに複雑に絡み合って伸びていく。先に作った左右の蔓にも巻き付ける。
マフラーみたいにどんどん長く!
しっかりと目の詰まった編み物の橋が5分もしないうちに出来た。
球根から芽だけを出すより、よっぽど簡単だった。
ミアばーんと魔法使う方が向いてるのかも。
「完成!これで回り道しなくてすむよね?」
振り返ったらみんな目も口も開きっぱなし。
「ミ、ミア様魔力は平気なのですか?」
「うん、全然ヘーキ!ミアやっと魔力が動くって感覚がわかったかも」
グリフェルダさんが青い顔をして心配してくれているけど、どっこも痛くないし、ダルくなったりしてない。
むしろたくさん魔力を使ってスッキリした気がする。
「これは渡れるのは人だけですかな?馬車は通れますかな?」
「ミアすっごく丈夫なのをイメージしたから馬車でも大丈夫だよ!」
「よし、では異動の準備をせよ!」
シェファフルトさんの号令で隊員さん達は慌ただしく動き出す。
「ねぇ、シェファフルトさん」
呼び掛けると隊員さん達の動きを見るのをやめてこちらを向いてくれる。
「なんですかな?」
「あのね、ミア、シェファフルトさんにお願いがあるの。ピュイトはね、家族じゃないけど家族と同じぐらい大切なの。だから今度こんな事があったらミアと同じようにピュイトのことも守ってほしいの」
そう言うとシェファフルトさんは少し困った顔をした。
“きけるお願い”と“きけないお願い”があるってことはミアも知ってる。
「ミアのお願いが困っちゃうお願いならミアがまたピュイトを守るから、シェファフルトさんは自分のお仕事をしてね!」
慌てて付け加える。
すると困った笑い顔になったシェファフルトさんはこう言った。
「こんなのは一度きりだと思いますが、ミア様が危ない事をされるのは困りますな。よろしいでしょう、ピュイト殿もご一緒にお守りいたしましょう」
「本当!?」
「ええ、他ならぬミア様からの“お願い”ですからな。その代わりもう走って防御壁から出るのは無しですからな」
「はいっ、わかりました!」
えへへ、と笑ってごまかそうとしたら「あなた様がエルフの運命を握っているのですぞ」と、シェファフルトさんは大きなため息をついた。
「ミア、私達も行くぞ」
いつの間にか試しに先に渡った隊員さんがあちら側で手を振っている。
念のため馬車は一番最後にして歩いて渡ることにしたみたい。
「ほら、手を寄こせ」
リデルと手を繋いで橋を渡る。
リデル何だか顔が強ばってる?
「ミアすっごく丈夫な橋を作ったから馬車に乗って渡っても平気だよ?」
歩きながらぴょんぴょんジャンプして、ほらね?とリデルの顔を覗き込む。
「バカモノっわざわざ揺らすなどっ」
「ですが、初めてお作りになったのでしょう?念のためですよ」
前を歩くアトラスさんが時々爪先や踵で橋の強度を確かめながらミア達を振り返る。
人が全員渡った後で、みんなの乗っていたお馬さん、最後に馬車が通ったけど蔓が擦れるギシギシという音が少ししただけでしっかり編み込んだ橋は穴も開かなかったし、重さにも耐えられたよ。
なのに渡り終えたみんなはどことなくほっとした顔をしている。
ミアの作った橋、そんなに怖かったかな?
「さぁ、出発しますぞ」
ガラガラと馬車の車輪が回る音がする。
泥水の匂いがどんどん薄れて、開けた窓から森の少し湿った空気が流れ込む。
「さすがに今日中に国に入るのは無理か?」
「いえ、国境の砦までは行けるかと、本日はそこで泊まれるよう先ほど伝言鳥を飛ばしてあります」
あんな盗賊のせいで時間くっちゃったもんね。
あいつらは隊員さんがしっかり見張って歩かせてるんだって。
悪いことしたら、ちゃんと牢屋でごめんなさいしなくちゃダメなんだよ。
「明日には国内へ入れるのか」
リデルは嬉しそうな顔になった。
「楽しみにしてろよ?エルフの国は美しいぞ」
……それは前にも聞いたよ。
「……城についたら、ケーキを振る舞ってやろう」
「ケーキ!?それってどんなの!?」
ふわふわで生クリームでイチゴのやつ?
それとも黄色いマロンクリームがぐるぐるしてるモンブランみたいなの?
もしかして、みりあが大好きだったアップルパイ!?
お耳のぴこぴこが止められないよ!
「うんうん、ミアはケーキを知らないのだな。王家お抱えの料理人が作るケーキはドライフルーツや木の実がたっぷり入って砂糖がけされていて特別美味いぞ」
腕を組んでリデルは満足気。
ミアの想像したケーキとは違うけど、それはそれで美味しそう!
「では、バイエル商会からとっておきの茶葉も届けさせましょう」
「リデル、ケーキ約束ね!ミア楽しみにしてるからね!」




