エルフとわたし#42
野営地から出てしばらくして、馬車がゴトゴト揺れ出した。
「外周を外れましたよ」
アトラスさんが景色を見てミアに教えてくれる。
「大きな河が国境となっていて、橋を渡った先はエルフの国だ」
リデルもミアに教えてくれる。
「そうなれば護衛もずいぶん楽になりますな」
エルフの国に入ったら、王家の紋章の入った旗を馬車の上に立てるんだって。
それを見たらみんな道を開けてくれるらしいよ。
水戸黄門の印籠みたいだよね。
夕方の再放送のテレビ、なんだかもう懐かしい。
「王家は慕われているからな当然だ」
ふふふんっといった感じのリデル。
やっぱりテレビで見たみたいに歩いてた人とかは土下座して馬車が通りすぎるのを待つのかな?
そんな話をしていたら、馬車の進む速度がだんだんゆっくりになってきた。
アトラスさんが外を確認して首を傾げている。
「確か河はまだもう少し先のはずですが……」
前の方から馬の蹄の音が近付いてきて「隊長、ご報告が!」とグリフェルダさんの声がした。
馬車を止めてみんな外へ出た。
「報告せよ」
「はっ、先行させていた隊員によりますとこの先、国境の河にかかっていた橋がなくなっているとのこと!」
「何?橋がないとはどういうことだ!?」
「この間の大雨で橋が丸ごと流されたと思われます」
その場にいる全員が目を見開いた。
「ここは諦めて別のルートで行くしかございませんね」
アトラスさんが難しい顔のリデルに話しかける。
「予定が狂うがしかたあるまい」
「とはいえ、直に見なければ国に詳しい報告もできませぬゆえ、一度は河まで進みたいと思います」
「うむ、それもそうだな」
リデルはシェファフルトさんの提案に頷いた。
それからしばらくして問題の橋のたもとに着いた。
ドドウッゴウッと茶色く濁った水が上流から激しく流れている。
いつもは穏やかに流れていると想像できる大きな河は今は荒れ狂っている。
「ここまでひどいとは……。上流ではかなり激しく雨が降ったのですね……」ピュイトがミアと手を繋ぎながら険しい顔になった。
橋が渡れないから、ここまで来た大勢の旅の人が河を見つめて呆然としている。あちこちで「どうする?」とか「誰か回り道を知ってるかい?」「水が引くまでどれくらいかかるじゃろう?」とか、旅人同士で情報交換をしている。
橋はこちらとあちらの岸にかかる僅かな部分を残してなくなっていた。
ちょうど橋の真ん中辺りに大きな岩が転がっていてそこへ小さな岩や流木か引っ掛かっている。
岩にぶつかる水流が大きなしぶきをあげている。
きっとあれがぶつかったせいで橋が壊れちゃって流されちゃったんだ。下流を向くと同じような岩や岸辺に橋の残骸みたいなのが見える。
ニュースでも見たことある。
鉄で出来てた橋だって台風の時は危なかったり壊れちゃってたんだから、木で出来てた橋なら岩がぶつかってきたら壊れても不思議じゃないよね。
「ここはどこの管轄になるのでしょうね?橋の修理は大仕事ですし、それに迂回路の整備、外周を通る旅人への周知もありますし、やることが山積みですね」
荒れ狂う河を見つめたままアトラスさんは呟く。
伝言鳥を飛ばすシェファフルトさんを横目にリデルも「次の橋はもっと丈夫でないとならぬな」と心配そうだ。
ここが通れないと遠回りになっちゃうんだよね?
早くエルフの国に着かないと、ミアが帰るのが遅くなっちゃうかもしれない。
やだな。
ピュイトの手をぎゅっと握りしめた時だ、突然背後から「命が惜しけりゃぁ、動くなあぁっ!」と野太いガラガラ声がした。
ビクッとしてさらに強くピュイトの手を握りしめた。
ほとんどの人がみんな河を向いていたから急に森から出てきた男達に驚いている。
一斉に振り向いたその先には大勢の男の人が剣や弓をもっている。
「盗賊っ!」
誰かがひきつった叫び声を上げた。
ぐいっと腕を引かれミアはシェファフルトさんの後ろへと隠された。
リデルも同じように連れて来られている。
「めんどうな」シェファフルトさんは恐い声だけど落ち着いている。
それを見て少し安心した。
旅人の何人かは外周の方へ走って逃げようとするけれど、盗賊はそちらからも来ていてみんな脅されて戻ってくる。
前には盗賊、後ろには河。
逃げ場がない。
盗賊達は旅人を一ヶ所に集めて地面に座らせていく。
剣を突きつけてお金や身に付けている物を集めている。
「今日はツイてるぜ。お前らみてぇな上客がいてよぉ」
盗賊のボスっぽい人がミア達の方を見て、ニィッと笑う。
驚きが少し落ち着いて改めて盗賊達を見る。
全部で30人ぐらい?
全員が、何か汚い!
顔や肌が日焼けじゃない黒さをしてるし、頭なんかボサボサっていうか髪の毛が脂ぎってる。
ニィッと笑った口元も歯が真っ黄色だし!
とても歯磨きしてるようには見えない。
バッチィ!汚い!不潔!バイ菌!!
人に言ったらダメだよって言われた言葉だけど、これはそうとしか見えない!!
風邪で3日お風呂に入らなかったとか、そんなレベルには見えないもんっ!!!
見るからに汚ないし、すごく臭そう。
近寄るだけで病気とか感染っちゃいそう!
うえぇ……。
ミアがシェファフルトさんの後ろで顔をしかめていたら
「殺されたくなきゃあ、さっさと金目のモンをだせや!」とボスがこちらに向かって吠えた。
と同時にミア達へ盗賊が次々と矢を放った。
それはミア達の前で何かに当たってボキッと折れて地面に落ちた。
「きゃっ!」
当たりはしていないけどビックリしてピュイトにしがみついた。
一話投稿から一年たちました。
時間も量もこんなに長くなるとは作者も思っていませんでした。
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