パパとママとわたし#4
ここに来たばかりの頃を思い出して、寝っ転がったまま、お耳をきゅっきゅと握ってみる。たしかに長い。先っぽをなでてみるとしゅっとなってて、地球で想像されてた通りのエルフのお耳っぽい。セラスティア様にお任せしちゃったけど、ミアなんでエルフになったのかな?
パパとママはミアだけがエルフだってこと隠したりはしなかった。むしろ「女神様から預かったパパとママの大事な子供だよ」って話してくれた。顔が似てる似てないなら誤魔化しもきくけど、耳がこんなに違うならいつかは血の繋がりがないって、わかっちゃうもんね。
お耳ね、ピクピクって動くんだよ。不思議なんだけど自分では動かそうと思ってないのに動いちゃってて、パパがミアのお耳ピクピクを見て喜んでたりする。
不思議なのはもうひとつ、“ミア”として目覚めたら、心も赤ちゃんになっちゃってるみたい。大きい音にびっくりして泣いちゃったり、危ないから触っちゃダメって言われても何度も手を伸ばしちゃったり。“みりあ“と”ミア”の境目がどんどんなくなっている気がしてる。これがセラスティア様が言ってた「魂が馴染む」なのかな?
外でカタリ、コトリと木桶を置く音がした。ママが帰ってきた!よいしょっと身体を起こすと同時に扉が開いてママがおうちに入ってくる。
「あら、とうとうベッドに上れるようになったのね」
ミアいい子で待っていられたよ。
両手を伸ばして抱っこのおねだり。
すぐにぎゅーってしてくれる。
「まぁま」
甘えてお顔を胸にすりすりする。ママの抱っこはとっても安心する。
「さみしくなっちゃった?でも、ママお外で洗濯物を干さなくちゃいけないの。ミアもお外で遊びましょう?」
「おしょと」
あ、お耳がピクピクしちゃった。
もちろんお外行くよ!おうちの中は飽きちゃったよ。床に下ろしてもらってフェルトの靴を履こうとしたら、「お外のはこっち」と、底だけが革のフェルトの靴に代えられた。
手を繋いでもらってお外にでると、眩しくて目がチカチカした。
色々な緑。青い空。土のにおい。
山が見える。右にも左にも前にも後ろにも山。電線もコンクリートもアスファルトも見えない。
家の周りには自然を生かした、だけど少しの手を加えた庭がある。
まずは林檎の樹!ママの手をぱっと離して、一目散に駆けてゆく。玄関を出てほぼ正面に、元々ここに何十年も前から生えてますが何か?みたいな佇まいで林檎の樹がどーんとある。ミアの林檎の樹だ。樹齢2年とは思えない貫禄。赤い実がたくさんついているのが見える。みりあの記憶にある林檎の木とは少し違う気がするけれど、そもそも林檎の木をじっくり見たことがないからわからなかった。
目の前の樹は、枝を横へと伸ばしている。有名なCMの無名の木みたいだ。あそこまで大きくはないけど。
腕を広げてぎゅーっと抱きつく。日差しで温められていたからか、ほかほかとしていた。ほかほかを堪能したら、ミアの今日のお仕事。スカートの裾を持って、前へ引っ張る。そして林檎の樹に話しかけるのだ。
「りんごくらしゃい」すると、あらビックリ、林檎がスカートへ落ちてくる。パパとママとミアの分で3つ。
「ありあとーごじゃましゅ」ちゃんとお礼も言うよ。施設の職員さんも卒業したお兄さんもお姉さんも皆口を酸っぱくして「お礼は大事、きちんと言いなさい」って教えてくれたもの。
もらった林檎を玄関の側にある、大きめの石の上にのせておく。この石は上が平らで、座ったりちょっと物を置いたりできる便利なやつだ。
「いいこでまっちぇちぇね」