エルフとわたし#37
「では私は部屋へ戻っていますね」
「うんっ、わかった!ピュイトありがとう」
うれしい気持ちのまま、ぎゅっとピュイトに足に抱きついた。
ピュイトはちょっと驚いた顔をしたけど、ミアの頭をくしゃっと撫でてお部屋を出ていった。
「ミアっ」
呼ばれて振り向くとリデルはさっきの負けたオセ◯をベッドへ持ち込んで、まだ考えている。
研究熱心!
ちょいちょいと手招きされたので、ベッドの端にちょこんと腰を下ろした。
リデルは片膝を立ててヘッドボードに凭れている。
「ミアはどこに置くか決めるのがずいぶん速かったが定石を覚えているのか?」
「じょうせき?」
「決まっている形の戦法のことだ」
「ミア、そんなの覚えてないよ?最後に多く取れるのはどこかなー?と考えただけだよ。それに今日はリデルとの勝負だったから負ける気がしなかった」
「なっ!」
「だってリデルは初めてやるんだもん。なのにミアが負けたらミアぽんこつすぎでしょ?」
「ま、まぁ、そうか……私は初めてだものな」
うんうんと、納得してる。
みりあのオセ◯の相手をしてくれた所長さんは将棋に囲碁にチェスにオセ◯、何でもござれだった。
「こうして皆と勝負してると、悩み事なんかをポツポツ話してくれたりね」と、いつの間にか得意になったと話してくれた。
もしかして知らないうちにオセ◯の“じょうせき”もみりあに教えてくれてたのかも。
「ここに置いちゃうと後で相手が置きやすいでしょ?だから、この場合はわざと置かない方がいいよ?」
「なるほど!こっちはこれでいいか?」
「そっちはそれでいいと思う」
二人でコマをくるりくるりと引っくり返す。
リデル、すごく楽しそう。
オセ◯そんなに気に入ってくれたんだ。
お店で売るなんて予想外のことが起こってビックリしたけど、やっぱりやってよかった!
お店で売り出すなんて言い出したアトラスさんもピュイトと話している時の顔とは違ってまたにこにことリデルを見ている。
「そろそろおしまいにするか。紙は畳めば良いとして……」
色んなパターンを実践してたらだいぶ時間がたっていた。
リデルは白黒豆を集めてキョロキョロして、書き物机に避難させていたミアのキャンディの缶に目を留めた。
「アトラス、ミアと私のキャンディを持て」
「はい、ただいま」
さっと動いてアトラスさんはミアのとリデルのキャンディの缶を持ってきてくれる。
リデル、キャンディ食べるの?
ミアはもう今日の分と明日の分二個食べちゃったから食べられないよ?
リデルはミアの缶を開けて中身を見て、にやっとした。
そしたら、ひょいってレモン味のを摘まんでぱくっと口の中に放り込んだ。
「あっ!」
それ、ミアの!!!
何で自分のを食べないの!?
って怒ろうとしたら、リデルは自分の缶を開けて中身をゴロゴロっと全部ミアの缶へ入れてしまった。
「ふぇ?」
「クリーン」
空になった自分の缶にクリーンをかけると白黒豆をそこへカラカラと入れて、折り畳んだ紙も入れた。
そしてキャンディがいっぱいになった缶から、また一つ摘まむと驚いて開きっぱなしだったミアの口に押し込んだ。
「自分のを食べられたと思った時のミアの顔……!」
キャンディをミアの口に入れながら、プッと吹き出すとリデルは耐えきれなくなったのか体を二つ折りにして大笑いした。
「驚いただけだもん!」
「わ、笑いすぎて……く、苦しい……」
目尻に涙を浮かばせてリデルはなかなか笑うのを止めない。
もうっ!もっとちゃんと怒りたいのに口の中のキャンディがじわっと溶けて甘くって美味しくって上手に怒れない。
入れられたのはレモン味。
甘くってほんのり酸っぱい。
ぷぅっと膨れてリデルの笑いやむのを待ってたら「そういえば、このゲームには名前はあるのですか?」とアトラスさんが聞いてきた。
しまった。
それはピュイトと打ち合わせしてなかった。
“オセ◯”はダメだよね?
だって、ミアもなんで“オセ◯”なのかって聞かれたら答えられないし。
「まだ決めてないよ?」
「そうですか……ミア様は何と呼んでいたのです?」
「えっ!?えっとね……」
えっと、えっと
“白黒”?
“パンダ”?
“ゴマ塩”!?
どれもダメーーーっ!
えっと、えっと、これは白黒のコマをくるっとひっくり返すゲームで……
「……!くるり!」
「“クルリ”ですか?」
「そう!ピュイトとゲームする時は“くるり”ってミアは呼んでたっ!」
「なるほど……“クルリ”ですか」
“クルリ”“クルリ”と何度が小さな声で繰り返して「どのようなゲームかわかりやすく呼びやすいですし、よろしいかもしれません!それで登録致しましょう!」と、うんうんと納得してくれた。
地球の“オセ◯”を考えた人、ごめんなさい。
こっちでは“オセ◯”は“クルリ”になっちゃいました……。




