エルフとわたし#27
明けまして。2023年ですね。
本年もミアをよろしくお願い致します。
「たまたま鳴っちゃっただけだからっ」
「やせ我慢をするな。減ってない腹がたまたま鳴る訳なかろう」
「でも、ミア無駄遣いはしたくないもん」
ご飯は隊員さんと同じ物を食べればタダなんだもん。買い食いはしたくない。
そしたらリデルが半目になって、はぁとため息をついた。
「アトラス、我が国の経済状況はどうなっている?」
「我が国は非常に豊かな農業大国として知られております。麦や野菜、それに果物など多くの農産物を近隣国家に輸出しておりまして、大陸屈指の経済力を誇っております」
アトラスさんが恭しくリデルに説明する。
「聞いたか?我が国は、そのよく鳴るがそれほど詰め込めぬミアの小さな腹を満たせぬほど困窮してはおらぬ。金を払わせようなどと思ってはおらぬ。ゆえに遠慮せず好きな物を頼むがいい」
「いいの?」
ミア達の会話を聞いていた皆を見渡せば、うんうんと頷いてくれる。
「じゃ、じゃあね、ぐるっと見てから決めるねっ!」
リデルの手をがしっと掴んで「リデルも行こっ」と誘う。
「私もか!?」
「リデル食べないの?」
「そうではないが、いつもはアトラスが用意してくれるのだ」
「自分で選ぶの楽しいよ?それに半分こすれば違うのがたくさん食べられるよ?」
「半分こ!?」
あ、王子様は半分ことかしちゃダメなのかな?
ちらっとアトラスさんを見れば、笑いを堪えるような顔をしている。
「も、問題ございません……」
「いいって!ね?行こ?」
「わかったから引っ張るなっ」
ぞろぞろと皆で屋台を巡る。
うふふ、みりあの時も夏祭りの夜店とか行ったことあるけど、お小遣いだとあんまり買えなかったんだよね。
夜店の食べ物は何であんなに高かったんだろう。
どうしよう、何を食べようかな?
「リデル何が好き?」
「私はこのような場所は初めてだから、わからぬ」
あちこちから美味しそうな匂いがする。
前を歩いてくるお姉さんは手に大きな丸い物を持ってる。
渦巻き状に焼かれたパンだ。
甘い匂いがする。
「あれ!ミアもあのパン食べたいっ」
背の高いシェファフルトさんが3件先のお店にあると教えてくれる。
アトラスさんが買ってきてくれた。
表面にお湯で薄めた蜂蜜が塗ってあってツヤツヤしてる。
齧ると少し固いタイプのパンだけど、胡桃が入ってて固さも美味しさの一部ってかんじ。
もぐもぐ齧りついてたら、渦巻きがほどけて紐みたいになった。
「あはは、紐になっちゃった。ここで千切るからリデルは真ん中の方ね」
適当なところで千切ってあげようとしたら「……そのままでよい」と手を差し出された。
「いいの?ミア齧ったあとだよ?」
「問題ない」
そういうので渡してあげたら、一口齧って「悪くはない」と言った。
リデルの“悪くない”はきっと“美味しい”だよね。
その証拠に全部食べきっちゃってるもん。
次は何にしようかな。
甘いのを食べたから、次はしょっぱいのがいいな。
パンの屋台から少し離れたところで、皆が木の器に入ってる何かを食べている。
スプーンで掬って食べてるところを見ると、スープかな?
行列ってほどじゃないけど、人気店みたい。
お客さんは皆ささっと食べて「今日も美味かったわ。ごっそさん」と声を掛けてから器を返してる。
「ね、ね、リデル、次はあれにしない?」
「ミアの耳がピクピクしておるなら、間違いはないであろうな。アトラス、次はあれを」
ミアの耳をニヤニヤと見ながらリデルがアトラスさんに頼んでくれる。
もぅっ!また勝手に動いてる!
思わずお耳をぎゅっと握った。
「ははは……子供のうちはそうやって耳が動いてしまうものだ」
「……みんな?」
「……ミアはちょっと動きすぎかもしれんな?」
「えっ!?」
そうなの!?
他の子はこんなにピコピコ動かないってこと!?
それじゃあ、エルフの国に行ってごはんの度にピコピコしてたら笑われちゃう!?
ショックを受けていたら、真面目な顔で「冗談だ」と言われた。
何でそんな冗談言うの!って怒ろうとしたらアトラスさんが「お待たせしました」とスープを持って来てくれた。
丼ぐらいある大きな木の器。
ちゃんとスプーンが2つ。
さすがアトラスさん。
中には澄んだスープに胡瓜の輪切りみたいな形の透明になるまで煮込まれた何かの野菜。
それに細かく刻まれたベーコンに、薬味のネギみたいに少しだけ乗せられた緑色のハーブ。
リデルが器を持っててくれて「先に毒味をいたせ」と、最初を譲ってくれた。
「ありがとうっ」
熱々のスープをふーふーしてから、ぱくり。
よく煮込まれた野菜は噛まなくても舌で押すだけで潰れる。
んと、なんだろ?この柔らかさは蕪か冬瓜に似てるかな。
柔らかい野菜にベーコンのお出汁のスープがたっぷり含まれている。ベーコンの薫製の香りとハーブのちょっとツンとした香りが後から口の中で広がる。あっさりだけど、物足りなくはない。毎日食べても飽きないタイプのスープだ。
「おいしっ!」きっとリデルも美味しいって思ってくれる!
「次はリデルねっ温かいうちが美味しいから食べて食べてっ」
今度はミアが器を持っててあげる。
リデルはもう一つのスプーンで一口分掬う。
あ、ミアが器を持ってると口までの距離が遠くて食べにくいかな。
少し屈んで器と距離を近づけてくれるけど、やっぱり食べにくそう。
まだ熱いよ、気をつけて。
パパやママがしてくれたように、リデルのスプーンにふーふーっと息を吹きかけて冷ましてあげる。
リデルは少しびっくりしたみたいだけど「火傷をしたら大変だからな。次も頼む」と言った。
思わずやっちゃったけど怒られなくてよかった。そうだよね、舌を火傷したらヒリヒリして次のごはんが美味しく食べられないもんね。
二人で交互にスープを食べてミアはもうお腹いっぱいになっちゃった。
リデルは用心深いのか残りが少なくなって、もうふーふーしなくていいのにミアにスプーンを近づけて「ほら、冷ませ」と言ってきた。
口の前にスプーンを差し出されると、ついぱくって自分が食べちゃいそうになって困っちゃった。
「悪くはないな」
リデルがぼそりと呟いた。
ミアちゃんは餌付け歴が長いのでw
パパもママもじぃじもあーんって口を開けるミアを見るのが大好きなので、なかなか卒業させてもらえません。




