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救出



「そ、その女は我が家の下人で、脱走を図ったのだ!」


「脱走……」


 私の前に立つ白い衣の男性は、へえ、と軽く流す。

 その間にも私を抱え起こした男性は、私の左手を取って、月明りにかざす。


「この傷、ほんの少し魔力が残っている」


 ――え?



「左手を魔法で貫かれている。酷い怪我だ。お前は――解読者(かいどくしゃ)か?」




 尋ねられて、恐る恐る頷く。

 私の首の上下を見て、彼は声を上げた。



「解読者が下人であるはずがない。この戦乱の世、解読者はどのような身分の者でも引く手あまただ。丁重に迎えられるはず」



「……だよね。君たちはどこの家のもの? ()()にいるなら、分家のどこかかな?」


「そんなの関係ねえ! いいからその女を渡せ!」


「残念だけど、僕には大いに関係あるんだよねえ。彼女から事情を聞きたいなあ」


「はあ⁉ そんなことてめえには関係な――」



「――レダト」




 その瞬間、私の前に立つ白い衣の男性から、無数の金の矢が放たれる。

 私を追ってきた男性たちの至近距離をかすめて飛んでいき、彼らはへたりと座り込んだ。




「分家が怪しい動きをしているなら、面倒だけどお仕置きをしなきゃ」




「ま、まさか貴方様は――!」



 震える声で男性の一人が叫ぶ。

 え? 彼らの動揺が伝播してきて、急激に不安になった。

 そんな私を見透かしたように、傍にいてくれた男性が、私の背を二、三度軽く叩く。

 その軽い衝撃で、息が吸えるようになる。

 彼は、私の背に手を添えたまま、冷たい声で言い放った。



「お前たちの主に伝えろ。この女は、柳瀬家で預かる。何か申し開きがあるのなら、いつでも柳瀬家が聞く、とな」



 それを聞いた男性たちは、慌てたようにその場から逃げ出す。

 あとには私と助けてくれた男性二人が残された。

 私の背に触れている男性が、私に向き直る。


「おい、お前は解読者だと言ったな。回復魔法を持っているか?」


「い、いえ。持っていません」


「ほんと、酷い怪我だね。持っていたら詠唱してあげたんだけど、仕方ないね。とりあえずここから近いから蒼威(あおい)の家に行こうか。蒼威の家なら誰か持ってるでしょ」


 私の前に立っていてくれた白い衣の男性が、しゃがみこんで私の怪我の具合を覗き込む。


「仕方がない。事情も聞きたいしな」


 背に触れていた男性は、どうやら蒼威、と言う名前らしい。


「じゃあ、蒼威の家に行こう。立てる?」


 私の右手を軽く握り、立ち上がらせようとしてくれるけれど、全く足に力が入らない。


「無理みたいだね。蒼威、背負ってあげて」


「なぜ俺が。和冴(かずさ)が背負え」


 私の前に立ちはだかっていた人の名前。和冴、と聞いて、胸の奥がざわめく。どこかでその名前を聞いたような気がするけれど、頭がうまく働かない。

 そのうちに、蒼威さんが私を背負って歩き出す。


「すみません……」


「別に構わん」


 ぶっきらぼうに答えて、蒼威さんはそのまま黙り込む。



「そういえば、解読者なら【箱】を持っているよね? どこかに落としてない?」



 和冴さんが私を覗き込む。

 【箱】?


「箱……、ですか? 持っていないので大丈夫です」


 答えると同時に、蒼威さんが足を止めた。


「解読者なのに箱を持たないなんて、どういうことだ?」


 ピリッとした緊張感が夜の闇の中に張り巡らされた。


「え……? おかしいことですか?」


 戸惑う私に、和冴さんは朗らかに笑う。


「おかしくはないけど、珍しいね。ないならないでいいよ」


「和冴」


「事情はあとで聞こう。襲われたり怪我をしたりで、今はきっと混乱してるんだよ」


 蒼威さんはしばらく黙ったあと、ふたたび歩き出した。



「おい、名前だけ言え」



「は、はい。澄です。雉子間(きじま)澄」



「澄、か」



 ぽつりと私の名前を呟いて、そのまま黙り込む。


 しばらく無言が続く。


 広い背から心地よい体温が伝わってきて、目を閉じる。

 こんな風に背負われたのは、幼い頃以来だ。お父様に背負われて、秋が深まる野山を見て回った。

 もう二度と戻れない、遠い日々。


 あの頃はただ、幸せで――。




いつもありがとうございます!☆も泣いて喜びます。

なにより、読んでいただけまして、とても励みになります。


このお話は、2022年2月25日にメディアワークス文庫様から発売される、『天詠花譚 不滅の花をきみに捧ぐ』の姉妹編となります。花譚は、明治時代のお話です。

そちらもどうぞよろしくお願いします!


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