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第29話:オーディエンス


『さあ……得点差は234点だ。森が近付くぜ?』


 おっさんの言葉と共に森が一気にこちらへと寄ってくる。


『りったん! まだ大丈夫だよ!』

『マジでごめん!』


 俺は光の壁の向こうにいる<ひめの>に向かって頭を下げた。くそ、俺ってばカッコ悪すぎる!


『信じてるから。りったん、浜辺でヒントメッセージ見た時のこと、覚えてる?』

『へ? いえーい見てる~? ってやつ?』

『そっちじゃない! 五十文字のやつ!』

『ああ、あれが?』

『りったん、あれ、一瞬で文字数が五十だって分かったよね?』

『え? ああ』

『あれ、数えたの?』

『いや、パッと見で大体の数が分かる。昔からそういうのは得意なんだよ』

『だったらそれと一緒だよ! 表示される光の数には限度がある。それの数とリズムの拍子を合わせればいいんだよ! ノーツは必ず曲と合うように調整されているから、それさえ分かればあとは動き次第だよ!』

『いや、それ、むちゃくちゃ難しくない!?』

『りったんなら出来る!』


 そう言って、<ひめの>が光の壁に手のひらを当てた。


『――そう言われたら……やるしかないじゃん!』


 俺も光の壁越しの<ひめの>の手に自分の手を合わせた。


 こんなところで、(つまづ)いている暇はねえ!


『次の曲、始めろよ!』

 

 もう、油断はしない。


()()()()。じゃあ、始めるぜ!』


 おっさんがそう言うと、再び曲が流れはじめた。


 ん? この曲知っているぞ。何度かダンス発表会で使われた、2000年代にクラブを中心に流行った古い曲だ。


 これなら、曲の展開もリズムも分かるぞ! あとは……<ひめの>に言われたようにノーツの数と拍子を合わせて……っ!


 俺は足を動かしていく。この曲で何度も踊っているから足が自然と動く。


『すごい、りったん! ここまでパーフェクトだよ!』


 <ひめの>に言葉を返したいところだが、集中を切らすわけにはいかない。


 そして曲の盛り上がりと共に、またあの光の洪水が襲ってくる。


 だが、油断はしない。ノーツ数もリズムも完璧に把握した――なら、あとは足で刻むだけだ。


『――凄い』


 そんな言葉が聞こえたような気がするが、俺は踊るのに夢中になっていた。無意識で必要ない上半身の動きまで入れて、俺は完璧なタイミングでタイルを踏んでいく。


 そして――


『フィニィィィィィィィッシュ!! マーベラスだハニー!!』

『……スコアはどうだ!?』


 表示を見ると――()()()()()


『まさか……()()()()()()()()()()()()()。人間で俺についてくるなんて、お前すげえじゃねえか』


 おっさんがNPCのくせにキラキラと汗を掻きながらそんなことを言いやがる。


『おい、同点の場合はどうなるんだよ?』

『条件は、()()()()()。勝ってはいないから再挑戦……と言いたいところだが』


 おっさんがそう言って、電光掲示板に――とある場所を映しだした。


 そこはアリーナのような会場で、様々な形のアバターが座って、あるいは宙に浮いて、前にある画面を見ながら盛り上がっていた。


 その画面内で――()()()()()()()


『彼らはダンドラの古参ファンでね。このイベントがあるからと特別会場を用意してもらったのさ。さあ、彼らオーディエンスにどっちがより良かったか聞いてみよう。結果は――言うまでもないな』


 画面に投票画面が表示される。


 そして……満場一致で俺へと票が入ったのが見えた。


『お前の勝ちだ――45番、盾野リッタ。ダンスの勝ち負けはスコアが決めるんじゃない……オーディエンスが決めるんだ。そうだろ? ダンスメイト』


 おっさんが白い歯を見せてウインクしてくるが、光の壁が解除された瞬間に抱き付いてきた<ひめの>のせいでそれどころではない!


『りったんすごい! ダンス凄かった!』

『お、おう! 実はちょっとだけ練習してて』

『私より上手だったよ! 師匠並に上手かった!』

『そ、そうかな?』


 俺は照れやらなんやらで顔が真っ赤になっていくのを感じた。


『ふ、青春だな。よし、500ポイントをやろう!』

『やった! ポイントゲットしたよ!』

『おう!』

『また、バトろうぜ……ダンスメイト』


 そう言って、おっさんがポリゴンの粒子となって消えていった。


 なんか知らんが、イベントクリアできて良かった……。


 で、次はどうすればいいんだ……?



***

・うおおおおおおおおお!!

・すげええええええ!!

・アフロも粋な演出しやがるぜ!

・りったん、ダンスガチですごくね!?

・ちょっと魅入ってしまった

・プロ?

・かもな。プロほどああいうダンスゲームはやりづらいって言うし

・↑慣れたら強いんだろうな。にしたってパーフェクトはすげえよ

・りったんに惚れてもうた

・↑遅えなw

・俺はとっくの昔からりったんガチ恋勢だぜ

・トゥンク……好きかも

・おい、感想もほどほどに次のメッセージ送れよ!

・そうだったそうだった

・武器と盾だな! それを装備して、この先の洞窟ルートだ!

・さて、()()()()()()()()()()……どうなるやら

***



 しばらくすると、俺達の目の前にメッセージが浮かび上がってくる。


【ポイントを交換せよ。退魔の剣と聖域の盾。その後広場にある洞窟へ進み、分かれ道でメッセージを待て】


 お、きたきた! ふむふむ、早速ポイントは交換するのか。


『早速やろう! どうもポイント交換はどこでも出来るみたいだね! メニュー表示に追加されてる』

『おおーほんとだ』


 俺は脳内で思考すると、視界の隅にメニューが表示される。これはこのVR空間アルタにダイブ中ならいつでも使えるコマンドが揃っており、ログアウトや転移などここから行う。


 今そこのメニューに、〝ポイント交換〟という項目が追加されていた。


 早速そこを開くと大量のアイテムが並んでおり、その横に交換に必要なポイントが表示されている。


『えっと……あ、あった! 退魔の剣! 300ポイントか~』

『盾もあったぞ。こっちは200ポイント。うわ、一気にポイントがなくなるね』

『でも、団員達はこれが必要と思ってるからだろうし、交換しよう』


 俺は<ひめの>の言葉に頷きながら、早速〝聖域の盾〟をポイントで交換。すると、俺の手元に繊細な装飾が施された盾が出現した。盾の中央部には、無色透明の玉が嵌まっている。これなんだろうか。


『これを装備しろってことかな?』

『だね』

『元々あった盾はしまっておこう』


 俺は持っている盾をデータにしてストレージにしまうと、〝聖域の盾〟を右手に持った。


『羽のように軽いな』

『この剣も軽いや。個人的にはクレイモアぐらいの大きさでもいいんだけど……まあロングソードの方が取り回しはいいか』


 <ひめの>がそんな事を言いながら、俺が腰に差している剣と同じぐらいの大きさの剣をブンブンと振った。


 なんというか、剣を振る姿が堂に入っている。<ひめの>はファンタジックな見た目だけにその剣がよく似合っていた。


『なんか慣れてるね』

『ファンタジー系のVRゲーム、結構やり込んでいたからね。得意な戦闘スタイルは短剣と杖を使った魔術剣士だけど、まあロングソードもそれなりには使えるよ』

『そ、そうか』


 うーむ、やっぱり意外だ。

 

 なんて思いながら俺と<ひめの>は広場の中を探すと、来た時にはなかった場所に、地下へと続く階段があった。


『これかな?』

『だろうね』

『じゃあ、行こう。多分、剣と盾を交換しろって言ってきたぐらいだから――モンスターがいるはず』

『まじかよ……俺どうしたらいいの?』

『――私に任せて。次は私が頑張る番だから! 背後は任せたよりったん! 盾で守ってくれるだけでいいから!』


 <ひめの>が力強くそう言うと、剣を構えつつ階段を降りていく。その背中が妙に頼もしいぜ……。


 階段を降りた先は暗く、確かに洞窟といった雰囲気だ。岩壁には、一定間隔で松明が掛かってあるおかげで暗くて見えないってことはないが、どこか不気味な雰囲気だ。


『りったん、見て。骨がいっぱい』


 <ひめの>が剣で差した先。そこの壁にもたれかかるように骸骨が座っている。右手にはなんか刃が曲がった剣を握っている。


 良く見れば、あちこちにそんな感じの骸骨が配置されている。


『ふむ……ま、とりあえず行こうか』


 <ひめの>がチラリとこちらを見て、何か思案気な表情を浮かべると、そのままズンズン進んでいく。


 度胸が凄い! 俺なら怖くて尻込みしてしまうところだ。


『お、おう!』


 自分を奮い立たせるように声を上げて、俺は足早に進む<ひめの>の後を必死についていく。


 骸骨ゾーンを通り過ぎて、俺がホッとしていると――背後で気配。カタカタという謎の音も聞こえてきたぞ!?


『い、今の何!?』


 俺は思わず振り返ると――あの骸骨達が一人で立ち上がっていた!

 

 その眼孔には青い炎が揺らめいている。


 いやあああああ骸骨が動いてるよおおおおおおお!!


次話はVSスケルトンです

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