デビュタント
(リーリアside)
…お姉さまは完璧人間だ。
周囲の要望にはちゃんと応えるし、マナーも完璧。
いつ第一王子様と結婚の話が出てもおかしくないといわれているのだと、お母様たちがお話ししているのも聞いたことがある。
私はというと、この見た目で目立ちはするけどマナーもまだまだだし、お姉様と比べられてしまうに違いない。
今日のデビュタントパーティーが、嫌で嫌で仕方がなかった。
だから昨日は風邪を引くために冷たい水につかってみたり、お布団をかぶらないようにして寝たけれど、朝になったらディオールお父様が魔法でさっと治してしまった。
「はぁ…」
思わずため息が漏れてしまって、お母様が心配そうに私を見た。
「大丈夫、リーリア?まだ具合が悪いなら、ディオールをすぐに呼ぶけれど」
「いいえ、お母様。体調は問題ございません。私は…本日のパーティーが憂鬱で仕方ないのです」
そういうと、お母様は私の頬に手を添えて反対の手で頭をなでてくれた。
「心配しなくてもいいわ、リリィ。貴女が思っているよりもずっと、デビュタントたちは子どもなの。貴女はツェリを目標にしているようだけれど、あの子が大人びているだけ。きっとパーティーに参加したら驚くわよ」
私はお母様の言葉の意味があまりピンとこなかった。
でも、お母様は私に嘘はつかない。お母様を信じて、少しだけ勇気を出してみることにした。
(ツェティーリアside)
私はそわそわしていた。
リリィは可愛い。きっと同じ年の男の子に囲まれて困っているに違いないわ。
そして、きっと優しいからうまく断れないのだ。そこががまた可愛いところでもあるのだけれど。
私は小さい頃から処世術には長けていたと自分でも理解している。それは前世での経験と記憶があるから。
でも、経験も少ないまだ6歳のリリィはデビュタントという初めての会場にも関わらず、勇気を振り絞って頑張って立ち向かっているのだ。
そわそわしないはずがない。
時々…その年齢にそぐわない洞察力と、周りに愛される柔らかい雰囲気には驚かされることもたくさんあるけれど。
やはりまだ6歳。帰ってきたら頑張ったことをたくさん褒めて、おいしいお茶とお菓子でティータイムにしよう。
そんなことを考えながら、リリィが帰ってくるのを楽しみに待っていたのだった。