帰りの馬車
私が温室に戻るころには、既に3人は茶会を後にしていた。残っているのは王子を含めて7人だ。
「王子、皆さま、大変遅くなり申し訳ございません。改めまして、お騒がせしたことをお詫び申し上げます」
「君が頭を下げる必要はないよ、ツェティーリア様。さぁ、一緒にお茶を飲んで語ろう」
王子が自分の隣の席を進めてきたので、私は促されるままにそこに座り、側近がもってきたお茶を飲んだ。
「…美味しい」
思わず口からこぼれた言葉に、王子が微笑んだ。
「そうなんだ。彼女が入れる紅茶は美味しいだろう?私の自慢の側近だよ」
紅茶ではなく、紅茶を淹れた側近を褒める。その側近も、自慢げに胸を張って立っている。
素敵な主従関係だと思った。私もあのメイドたちと、こんな関係になりたい。
家に帰ったら、彼女たちにそう伝えよう。
学んだことが多かったこの茶会は、日暮れ近くなるまで続いた。
その後用事かある王子が茶会を閉会したので、私はホールにいるお母様たちのもとへ向かった。
「お母様、ファレオお父様!」
2人の後ろ姿がみえ、そう呼びかけると、お母様がパッと振り返って私を抱きしめた。
「ツェリ、大変だったわね。まさか私の娘に手を出してくるような者がいたなんて信じられないわ」
「お母様…少し、恥ずかしいのですが…」
「いいのよ、こんなときくらい!」
周りを見渡すとお父様たちと、見知らぬ顔も何人か立っていた。みんな優しそうな顔でこちらを見ている。
お母様もふわっと綺麗な笑顔をみせて、私の頭を撫でた。すると、後ろから男の人に声をかけられた。
「ツェティーリア様、先程は茶会で我が息子がお世話になりました。茶会は有意義な時間だったと申しております」
そういわれて、知らぬ顔の1人が自分の後ろから男の子をスッと近づけた。
先ほどの茶会のときに、騎士の息子だといっていた子だ。
「我が息子と、どうか仲良くしてくださいませ」
そのあとも同じようなやり取りが繰り返されて、すべての挨拶が終わるころには私もくたびれていた。
「ツェリ、そろそろお暇しましょうね」
「はい、お母様」
女王陛下に途中で退出する許しを得て、私たちは王宮を後にした。
たくさん話しかけられたことで、思った以上に疲れてしまったのか、私の体力は屋敷までもたなかった。
「私の膝に頭を預けて。まだ先は長いから、少し目を閉じてゆっくりなさい」
帰りの馬車は、お母様の膝枕で横になって帰ることになった。
馬車のほどよい揺れと、お母様のふわふわな膝枕で、私は深く眠りについたのだった。