王子の思惑
王子は他の男の子たちの様子が落ち着いたことを確認して、私のほうへ駆け寄ってきた。
「大丈夫だったかい?」
「はい、お気遣いいただきありがとうございます。怪我はございませんし、幸い馬車に代えのドレスもございますので、母と父へ報告して着替えてまいります。」
「そうか…」
ふむ、と少し悩んだ様子の王子は、後ろで待機していた側近に声をかけて私の手を引いた。
「皆さん、茶会中に申し訳ないが、私はツェティーリア様を案内してまいります。少しの間外しますが、楽しんでいってください」
「王子…?」
「さすがに、レディにその格好で外を歩かせるわけにはいかないだろう?私と一緒に控室へ。代えのドレスは、従者に持ってこさせるように側近に伝えたから大丈夫」
王子は私の手を引きながら、にこりと微笑んだ。
「お心遣い、感謝いたします。私のような者にそのようなご配慮を頂き、勿体なく存じます」
「配慮だなんて、そんな風に思わなくていい。私はダリア様がケーキの皿を傾けていたことに気が付いていて、それを阻止しなかったのだからね」
「!!…お気づきだったのですね」
「君には申し訳ないが、彼女の家はあまりいい噂がなくてね。陛下から直々にこの茶会で彼女の本性を探るようにと言われていたんだ。利用して悪かったと思っているよ」
「そんなことが…。でしたら、お役に立ててうれしいです」
汚れてしまったドレスはとても残念だが、王子が女王陛下から命令されていたことを達成する手伝いができたと思えば、素直に嬉しい。
「今回のドレスの代わりは、後日君の家に送らせてもらうよ」
「いえ。このドレスも、王子のお役に立てたのならばうれしいと思っているに違いありません」
「そうか。そう言ってもらえると、私も心苦しさが幾分か和らぐよ」
控室につくと、私のドレスは既に部屋に用意されていて、中にはメイドが数人待機していた。
「ゆっくり着替えてくるといい。僕は温室で皆さんと待っている」
そういって王子は来た道を戻っていった。私は待機していた王宮のメイドたちに着替えの手伝いをお願いしたが、しっかりお湯まで準備されていて、お風呂にも入ることになってしまったのだった。