温室の茶会
庭園にはたくさんの子どもがいた。
今年のデビュタントはこんなに多かったのかとおもったが、よく考えてみれば貴族が一堂に会しているのでこれが普通なのだろう。
パッと見た感じでは、ある程度のグループで分かれているように見えた。
おそらくあちらは男爵や子爵の娘たち、こっちは伯爵の娘や息子たち。ばらけてはいるものの家格が順守されていることは明白だった。
家格が低いものは、家格が高いものに気軽に声をかけてはならない。暗黙の了解といってもいいこのしきたりのようなものは、子どもでも破ることはできない。
私は庭園の奥にある温室へと向かった。公爵や侯爵といったごく一部の貴族は防犯も兼ねて基本的に温室にあるティーテーブルを使うことになっている。
「お初にお目にかかります、皆様。ツェティーリア・フォン・グレベリンでございます。どうぞよろしくお願いいたします」
挨拶を済ませて顔を上げると、そこには10人の子どもがいた。そのなかでも女の子は私を含めて2人だけだった。
きっと今まで女の子1人で、周りの男の子にちやほやされていたに違いない。私をみて少し顔をしかめていた。
「初めまして、ツェティーシア様。私は騎士の息子で・・・」
「私は魔法師の息子で・・・」
9人の男の子がわっと集まってきて、一度に喋るので誰が何を話しているのか全くわからなかった。しかし、それもある一言で静まり返ることになる。
「皆さん、はじめまして。今日はよくおいでくださいました」
招く側の挨拶、しかもまだ子どもの声。想像できる人物はたったひとりしかいない。
今年社交界デビューすると噂はされていたが、まさか本当に現れるとはおもっていなかった。この国の第一王子のレオナルド王子だ。
婚約話が殺到するため、社交界デビューが済むまでは王族といえど年齢は伏せられていたのだ。
突然のレオナルド王子の登場に私の周りにいた男の子たちは硬直し、先程私に敵意むき出しの目を向けていた女の子は目をキラキラと輝かせていた。
「大勢でひとりの女性を囲んでしまっては困ってしまわれますよ」
そういって王子は私を男の子の壁から引き出してくれた。
「ありがとうございます、レオナルド様。お初にお目にかかります、ツェティーリア・フォン・グレベリンでございます」
「挨拶をありがとう、ツェティーリア様。来て早々災難だったね」
「いえ。私のような者にお手をお貸しくださいまして、ありがとうございます」
先程の女の子は拳を握りしめて小さく震えて、怒りを内側に一生懸命抑えているような様子だった。
「こちらこそ。君とは仲良くできそうだ」
ようやくレオナルド王子の顔を見上げると、そこには王妃様に似た綺麗な顔があった。
「その瞳・・・君はベリーシア様とディオール様の?」
「はい。母と父をご存じなのですか」
「ディオール様は私の魔法の家庭教師をしている。ベリーシア様は私の母と仲が良いからよく茶会をして顔を合わせているよ」
「そうでしたか。申し訳ありません、私は存じ上げませんでした」
「いや、いいんだ。私のことは王族以外の人間には基本的に公表されていないからね。君のご両親が秘密を順守してくれている証拠だ」
そういってレオナルド王子はにこりと笑った。
完全に2人の世界のようになっているが、私の後ろにはレオナルド王子に挨拶をしたくてうずうずしている9人の子どもたちが待っていた。
「では、他の皆さまとも挨拶をさせていただこうかな」
レオナルド王子もようやく気が付いたのか、私に断りを入れてみんなに挨拶をしに向かった。