女王陛下
ざわざわと人の声がたくさん響いているホールに入ると、一瞬で声がとまって私たちのほうに視線が集まった。
私の前にはお母様とディオールお父様、そして私たちとは別の馬車を使って先に王都についていた3人のお父様たちもいた。
5人がお辞儀をしてホールに入ると、今度は視線が私に集中する。
すごい数の人だ。さすがに楽しいお友達作りという目的が頭から抜けて、一瞬で緊張した。
でも私は公爵家の娘だ。すっと背筋を伸ばし、顔を上げて、にこりと微笑んだ。そしてドレスを少しつまんで深くお辞儀をした。
周りからはほう、とため息のような息が漏れたような声が響いた。
すぐに周りの声もざわざわと元の音量に戻った。私は無事にホールに入れたことに胸をなでおろしてお母様とお父様の後を追った。
「あれがグレベリン公爵家の娘か・・・」
「母親似の見事な銀色だな」
「でも瞳の色はディオール殿のものですな。見事な深緑・・・いや、深い蒼か。あの光によって変わる不思議な色の瞳はディオール殿のものだ」
「ということは、ベリーシア様とディオール殿のお子ということか」
すれ違いざまにちらちらとみられては、ひそひそと話をされる。
私に向けられる視線は全てがいいものというわけではない。悪意を持って向けられる視線は気にせず前だけを向きなさいとお母様はいつも言っている。
前を歩いているお母様やお父様たちも全く気にしていない様子だった。
「さぁ、ツェティーシア。ご挨拶をしましょうか」
立ち止まったお母様は、私を自分のところに招いて微笑んだ。
「女王陛下、こちらが私の娘ですわ」
「そなたに似て見事な銀色ですね。名は何というんですか?」
「はい、女王陛下。ツェティーシアと申します」
「ツェティーシア・・・とても良い名前ですね。私は貴女を歓迎します」
「ありがとうございます、女王陛下」
深くお辞儀をしてにこりと笑った。
「・・・あちらから庭園へ出ることができます。デビュタントはみなあちらで交流を深めていますから、ぜひ顔を出して」
「お心遣いに感謝します」
「えぇ。もう下がっていいわ。ベリーシア、貴女たちも楽しんでいってね」
「ありがとうございます、女王陛下」
私はお母様たちと下がった後、すぐに庭園へ向かった。お母様たちはホールで飲食をしながら交流を深めるようだった。