はじまりの日
「あぁ、ツェリ様・・・本当にお綺麗になられましたね」
「ありがとう、ミーナ」
私はついに、社交界デビューの日を迎えた。
うまれたそのときからずっと支えてくれた3人、そしてこの1年たくさんのことを教えてくれた2人。
私は本当に人に恵まれている。優しいお母様やお父様たちだってそうだ。
みんなに励まされて私は馬車に乗り込んだ。内装もふかふかでお尻が痛くなることもない。
「行ってまいります」
「「「「いってらっしゃいませ、ツェティーリア様!!」」」」
お母様とディオールお父様と私。3人で宮殿までの道のりを楽しく過ごした。
グレベリン公爵領は宮殿のある王都まで遠くない。私の想像していた長旅は、楽しい会話のおかげであっという間だった。
「ツェリ、緊張はしている?」
「いいえ、お母様。今までお屋敷の外へ出たことがありませんでしたから、たくさんお友達を作りたくてわくわくしていますわ」
その言葉にお父様が大きなため息をついた。
「ツェリは凄いな。俺が社交界デビューしたときなんか、緊張で一歩も動けなかったぞ。そういうところはお母様似だな」
「そうでしたか。お父様でも緊張なさったのですね。とても意外ですわ」
「あら、ディオール。私もデビューは緊張していましたわ。だから同類を見つけたとおもって貴方に声をかけたのよ?」
そう。お母様とディオールお父様は同じ年齢だ。だから社交界デビューのときに仲良くなり、そのまま婚約することになったらしい。
お母様は「権力者をたぶらかす魔性の女」などと言われていたらしいが、実際は権力もない子どものころに知り合った気が合う人と結婚し、その人たちがそれぞれ権力をもつほどのし上がっていっただけなのだ。
「お母様とお父様の出会いのお話は素敵ですわ。私もそんな方と出会えるかしら」
「あぁ、きっと出会えるさ」
「そうね。今日はたくさんの方とお話をして、交流を深めていらっしゃい」
「ありがとうございます、お母様、お父様」
話を終えるとちょうど宮殿の前について御者が扉を開いてくれた。まずお父様がお母様をエスコートして先にでて、そのあとに私をそっと抱きかかえて降ろしてくれた。
「お父様、私自分で降りれますのよ」
「デビュー前の娘の最後の抱っこだからな。今だけは格好をつけさせてくれ」
ウインクをしたお父様は、私がどきどきするくらい格好良かった。
私はこんな素敵なお父様以上の男性と出会うことはできるのだろうか。