修行の日々
お母様から戦争の話を聞いて、5年がたった。
最近では隣国は戦争の火種を起こす気配を隠そうともせず、国境では小さな諍いがたびたび起き、そのたびにお父様たちが国境に派遣されるという日が続いていた。
私はお父様たちとの修行の成果もあってか、剣も魔法にもその才能が認められて、いまでは王宮の魔法師と変わらない戦闘力と言われている。
「お姉さま…今日も騎士団の訓練場へ行かれるのですか」
「えぇ。リリィも文官見習いのお仕事大変でしょうけど、お互い頑張りましょうね」
リリィももう11歳になった。愛らしさはそのまま、より洗礼された美しさまで出てきて、社交界でも将来を楽しみにしているといった声をよく聞くようになった。
文官のマクレードお父様について仕事の手伝いをしていて、将来を有望視されている。
2人で家を維持する。そう誓ったのは、リリィのデビュタントの翌日のことだった。
硬い表情をしていた私を気遣って、リリィが私を支えると言ってくれたのだ。
「お姉さまは武を。私は学を。支えあえばきっと、このお家を維持することは可能です!」
デビュタントを迎えた翌日の、6歳の子供の言葉とは思えないほどしっかりした口調で。
でも不安なのか震えた唇を、手のひらを、ぎゅっと閉じて立っている妹に私も励まされた。
最初は魔法や剣の稽古の合間に、リリィと文官見習いの書類整理などを手伝っていた。
でもいつからかリリィのほうがずっと早く、丁寧に作業ができるようになっていて、私は執務はリリィのほうが向いているのだと悟った。
「リリィはマクレードお父様に似たのね。きっと将来有望な文官…いえ、外交官にもなれるかもしれないわ」
「お姉さまこそ、いまでは騎士団の隊長たちと張り合えるほど強くなったと聞きましたわ。魔法も、王宮魔法師に負けないほどだとか。」
「そんなことないわ。きっと私の背後にいるお父様たちに気遣っているのよ」
5年も経てばその役割はすっかり定着していて、私もリリィも登城しながらお互い見習いの立場でお仕事をするようになっていた。
「ではお姉さま、私はこちらで失礼します。また夕方に馬車でお会いしましょう」
「えぇ。またあとで」
何も知らない人が見れば、少女たちがお遊びで王宮内を歩き回ているように見えているだろう。
でも、私たちを知る人たちには私たちの才能を異様に思っている人が多いという。
お母様とお父様たちの子供だもの。期待されて当たり前だわ。
「…今日も頑張ろう」
そう呟いて、私は訓練場へと向かったのだった。