勇者撲滅31
新年あけましておめでとうございます。
今年も全力で取り組んでまいりますので応援お願い致します。
俺達は身支度を済ませると港町セントポートの教会へと足を運んだ。
セントハイムでもそうだったのだが、ラナは、意外と信心深い。
昔、戦争が起こった時に教会にお世話になったからだそうだが・・・
そして、どの町に言っても教会に行くと孤児がいる。
前もそうだったが、ラナは教会に行くと必ず寄付をする。
ラナがいつも通り寄付をしている姿を見て昔の事を思い出していた。
最初にそれを知った時は、正直驚いた。
当時は、金貨10枚の給金なのにその大半を寄付していた。
衝撃だった。
自分の人生よりも他人の為に尽くそうとするラナが眩しかった。
俺に出来るだろうか?
ラナに話を聞くと
「偽善です・・・。
私は誰かの役に立っているんだ・・・
そう感じさせて頂くためだけにやっている事です。」
出会ったばかりのラナは、そう言っていたけど・・・俺はそうは思わない。
偽善にも限度がある。
万が一偽善だったとしても・・・もし自分が死ぬまで貫き通す事が出来るのであれば、それは、本物の善行なのではないだろうか・・・。
例え偽善だったとしても見て見ぬふりをしている人間に比べれば何と尊い行動なのだろうか・・・。
前世で例えるなら・・・自分の給料が手取りで20万円の人が、偽善の為に毎月18万円もの大金を寄付できるだろうか?
答えは、否だ!
少なからず人は欲望がある。
本能的に欲するものであったり、虚栄心から来るものであったり、嫉妬から来るものやストレスから来るものなど様々だ・・・。
この行動を見た時にラナが自分の未来を放棄していると分かった。
出会った当時は、どんなに聞いてもラナは決して自分の事を教えてくれなかった。
そもそもラナは弱音を決して吐かない。
俺が前世で様々な国を渡り歩いていた時に良く見た人達に似ている。
言葉通り夢も希望もない・・・否、少なからず彼等には夢はあった。
毎日、俺に向けられるラナの笑顔を見るのが辛かった。
この子は、どんなに辛い人生を送ってきたのだろうか・・・。
俺は知っている・・・
俺が見ていない時のラナの目を・・・
生きる喜びを失った・・・否、そんな事さえも生温い絶望の目・・・
転生してきたばかりの頃の俺は、この先、どうしたら良いかで悩んでいたが、そんなラナの姿を見続けた事で、前世で我武者羅に仕事をした理由を思い出させてくれた。
馬鹿だ・・・俺は・・・
この世界はもう・・・異世界ではない・・・自分が生きていく世界なんだ!
何の為に知識を身に付けたんだ・・・
俺は、まだまだだ・・・。
自分に力と知識、富と行動力があれば、沢山の人達を救える。
そう思ったからこそ社畜となって人の何倍も何十倍も努力したんだろうが!
それからの俺は、目の前の人から救おうと我武者羅に頑張る事を誓った。
異世界だからこその“力”・・・前世とは違う力も身に付けなければならない!
自分の職業に絶望仕掛けていた時、マイとミレイに救ってもらった。
またしても、周りの人に助けられた。
俺は、まだまだだ・・・。
俺は・・・弱い・・・。
俺なんかよりも苦しんでいる人が俺を助けてくれようと必死になってくれる。
だからこそ・・・だからこそ俺は強くならなければならない!
この世界を変えられるほどに・・・
そんな事を思い出していたらどうやらラナの用事が終わったようだ。
「お待たせいたしましたユージ様♪」
・・・綺麗な笑顔をする様になったな・・・
俺の目に映るラナの笑顔・・・以前の様な悲しみが潜んでいる笑顔ではない
俺は、この子の心を救えたのだろうか?
「いや・・・ラナは本当に尊敬出来る女性だね♪」
カァァァ~っと赤く染まる頬を手で押さえながら
「そ・・・そんな事は・・・それなら!ユージ様の方こそ尊敬できるお方ですよ?」
そんなラナの頭をクシャクシャっと撫でた。
嬉しそうに目を細めているラナを見た時・・・
『もしかして・・・俺は・・・ラナに惚れ始めているのかもしれないな・・・』
そんな考えがフッと頭を過った。
こんな事を言ってしまうと引かれてしまうかも知れないけど・・・
俺には愛情と言うものが良く分からない・・・。
「これは、ワールド男爵様!お待ち申し上げておりました。」
そう言って巨大船にラナと入って行く。
船室に入って荷物を置くと二人で甲板に上がって去り行く港を見送った。
地球で言う豪華客船の様な船。
レストランや劇場、プールや社交場などラナと2人で艦内を隈なく回った。
ワクワクしている自分もいるが、船に乗ったせいか先程から昔の事を何故か思い出す・・・
5歳位までは、幸せだった・・・
だが・・・それから先の人生は、世界を見るまで無味無臭の人生だったんだと思う。
幼少の頃に親父もお袋も・・・兄弟も・・・
思い出すだけで心が締め付けられるが・・・
俺が保育園の時の話だ・・・
いつも時間ギリギリで迎えに来てくれた両親がいつまで経っても迎えに来てくれない。
毎日最後まで残っていた友達たちも一人・・・また一人と帰っていく。
子供ながらに不安になっていると一人の保育士の先生が優しく声を掛けてくれた事を覚えている。
20時を過ぎても誰も迎えに来てくれない・・・
保育園の先生方も両親に連絡を取ってくれていたのだろう・・・慌ただしく動いている事を子供ながらに感じた。
そして、警察の人達が迎えに来た事で、俺の家族が殺された事を告げられた。
その意味を理解するのに何か月かかったんだろうか・・・否、今でも分かっていないのかも知れない。
その後、叔父に引き取られてから何を食べても味がしない。
俺の大好きだった親父は、かなりのお金を残していたようだが、愚かな俺は叔父の言葉を信じるしかなかった。
「お前を育てるのにいくらかかっていると思っているんだ!」
「本当に自分勝手な行動ばかりしやがって! 誰のお陰で生活できると思ってやがる!」
「高校なんぞいかずに働け!」
親父の物を我が物顔で使う叔父を見て文句を言っては殴られた。
お袋の物を当たり前の様に使う叔母を見て文句を言えば食事を抜かれた。
当時5歳の頃から家を出るまで10年以上もこんな生活が続いた。
この叔父を見た事で、人間の二面性に敏感になったのかも知れない。
他人面が凄く良い・・・。人によって自分を演じる事が出来る人種・・・そんな人間が嫌いになった。
幼少の頃からそんな人間を見ると虫唾が走った。
小学校の時も中学校の時も両親がいないってだけで周りの同級生は俺を馬鹿にした。
尊敬する両親を馬鹿にされれば怒るのは当然。
だから荒れた。
俺が何をした! 自分より凄いものに嫉妬して常に自分より弱い者を見つけては自分を高みに見せようとする愚かな生き物・・・殆ど全ての人間が同じだと思った。
だからこそ、一日も早く家を出たかった。
小学生の頃から叔父達に内緒でバイトをさせて貰った。
小銭を貯めていずれ出て行く為に・・・
中学生の頃になると不思議と女達からも人気があったと思う。
高校生になった時には、もっと声を掛けられるようになった。
叔父の家に戻ると必ず嫌みを言われるのが嫌で、殆ど夜のバイトに明け暮れた。
年を誤魔化して働いたからか実際は年上の女性から、毎日の様に声を掛けられた。
けど・・・憐れみから来る同情や俺の強さだけに惚れる者
金回りの良くなった俺の金目当ての女性。
何故か俺に同調するかのように不幸話を自慢げに話す女性達・・・。
価値観が合わない。
魅力を感じない。
付き合っても何も感じなかった
人肌が恋しくて何人もの女性と付き合ったけど・・・虚しいだけだった。
誰といても熟睡した事が無い。
誰といても心が穏やかになった事が無い。
常に気が張っている・・・。
綺麗・・・美人・・・可愛いとは思う。
だが、それだけだ。
付き合って直ぐに“違うと”本能が語り掛けて来た。
そんな女性が泣こうが喚こうが俺の心には届かない。
俺は愛情と言う感情が抜け落ちてしまったんだと思った。
無暗に優しくしてくる人間は、必ず何かを企んでいる。
そんな奴らが良く近づいてくる。
だから人の優しさを疑うようになった。
日本じゃダメだ・・・世界に行こう!
俺の知らない世界を見に行こう!
そして・・・出来れば愛情と言うものを理解したい・・・。
そう思ったからこそ我慢して高校を受験してバイトに明け暮れた。
18歳になれば大半の事に責任が持てる・・・18歳になる迄・・・
そうして、高校を卒業する迄の間に1000万円以上の大金を貯める事が出来た。
海外に出て最初は、有名どころを回ったけど日本と大して差がないと思った。
当然、お金は大事に使わないといけないので、移動の大半が自転車だ。
寝床はテント。自炊は当たり前。
最初の頃は、何度死ぬと思った事か・・・。
寝込みを襲われたり
移動中に襲われたり・・・
そして、世界の厳しさを理解していった。
そして、自分が甘ったれていた事に気が付く事が出来た。
俺は、まだまだだ
俺はまだ幸せな方なんだと理解する事になった。
世界の国々の中には、こんなにも苦しんでいる人達がいたのか・・・。
衝撃的だった。
それからは、貧困に苦しむ国や文明が遅れている国を回って行った。
否、日本に比べれば半分以上の国が苦しんでいると言っても過言じゃないかもしれない。
世界に出て1年以上が過ぎ去った時、今まで厳しいと思っていた国さえも楽園だったと思えるような国々を回る事になった。
本当に全てが自給自足の日々・・・またしても死ぬかと思った。
水を飲む事さえ難しい国や24時間気を抜けない国・・・
高熱が出ようが大怪我をしようが病院などない。
動けない程の状態であっても食べる為には動き続けなければならない。
本当に自然のままであるこの場所は弱った者から先に死んでいく。
こんな過酷な環境でも人間の生命力は凄いと思った。
1年以上が過ぎた時どんな場所でも生き抜く力が身に付いていた。
そして、こんな過酷な場所に住んでいる人達の笑顔が魅力的だった。
知らない内に自分も陽気に笑えるようになっていた。
自分の心が徐々に人間らしさを取り戻していくような感じがした。
しかし、その後に人種差別や奴隷、さらにはテロと言う現実を直視する事となった。
巻き込まれて死んでいった俺の初めての友達たち。
そして、俺は内乱に巻き込まれて戦争を体験する事になった。
無慈悲にも一瞬で奪われていく命。
最初から何もなかったと言われたような気がした。
泣き崩れる親や子供を見ると心が痛んだ。
彼等が何を悪い事をしたというんだ!
だけど・・・力のない俺が一人で叫んだところで何も変える事が出来ない現実。
俺は・・・無力だ・・・。
今まで感じた事が無い感情が芽生えた。
それからも戦争に混じっては悩む日々が続いた。
人が人を殺す。
感情が壊れていた俺は、最初の頃から吐く事は無かったが、周りの友人たちは、人を殺す度にゲェ~っと毎日吐き続けていた。
これが、当たり前の反応なのだろう・・・。
命って何なのだろうか・・・。
貧しく過酷な環境の中でも幸せそうに生きていた人達を無残にも殺す人間。
ハッキリ言って凶暴な肉食獣達よりも凶悪。
感情がある動物たちよりも無慈悲な人間。
動物たちであっても無慈悲に同族を殺したりはしない。
こんな事が、許されて言い訳がない!
俺は・・・まだまだだ・・・。
力を・・・知識を・・・身に付けなければ・・・。
そして、日本に帰った俺は、長い海外生活で出来た人脈を頼りに一つの会社に勤める事になった。
最初は、仕事以外にも学ぶ時間が取れそうだと思ったのだが、気が付くと重要な業務の殆どを任されるようになってしまった。
最初の頃は、馬鹿臭いと思った事も多かったが、様々な業務に携われた事で、凄まじい勢いで学ぶ事が出来た。だからこそ自分の成長を実感した。
読者の皆様には感謝しかありません。
2か月毎にため込んだ小説を一気にアップするので何かとご迷惑をおかけする事もあるかと思いますが、ご容赦ください。
今年も皆様におかれましては今まで以上に幸せが訪れる良い年となりますように。




