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勇者撲滅15

ある日突然、ユージ様が、

「ラナ!俺の事は、ご主人様じゃなくってユージって呼び捨てで良いからね?」

そんな事を言われても言える訳がない。


「申し訳ございません。しかし、ご主人様に向かって呼び捨てなど恐れ多くて出来ません。

私は、ご主人様の奴隷ですので、その様なご命令はご勘弁くださいませ。」

そうハッキリと言った時のユージ様の顔を見て心が痛んだ。


悔しそうに・・・苦しそうに・・・申し訳なさそうな表情

何で?・・・奴隷の私の言葉にどうして・・・そんなに悲しそうなお顔になられるのですか?


ズキン・・・何故か分からないけど胸が物凄く痛んだ。

ズキン・・・なんだろう・・・胸が・・・心が痛む・・・

私は慌ててしまい咄嗟に余計な事を言ってしまいました。

奴隷の身で主の名を呼ぶなど・・・


「その・・・では・・・呼び捨てでは無くて・・・せ・・・せめて・・・ユージ様・・・ユージ様と呼ばせて下さい」

その時のユージ様の顔が忘れられなくなった。

パァ~ッと暗雲が晴れ渡るかの様な笑顔にドキッとしました。


間違いなく私を見ている。

間違いなく私を見て喜んでいる。

このお方は・・・私を・・・見てくれている・・・人として見てくれ下さっている・・・。

私の胸にトクンっと心臓の鼓動が高鳴った感覚が忘れられない。


「それで良いよ♪ じゃ~決まりね♪ ラナは、これからご主人様って言うのは禁止だからね♪」

そう言うユージ様の顔はいつか見た町を歩いていた女の子達と同じ様な笑顔だった。


それからも何かある度、私は驚かされた。


「ラナ♪毎日お風呂に入ってね♪」

ビックリした。

お城でも二日に一度しか入浴は許されなかった。


正確には、それだけ入れるなら逆に凄い厚待遇と言えた。

それなのにユージ様は、毎日入って良いと言う。

私が、そんな贅沢は・・・と言うと


「ふむ・・・ラナは真面目だね・・・じゃ~毎日入浴する事は命令ね!」

これには、本当に困った。

否、正確には、嬉しかったが・・・そんな事を言われてしまえば入らない訳にはいかない。



「ラナ♪買い物一緒に行こう♪」

これにも驚かされた。

主と一緒に買い出しなど・・・到底有り得ない。


「ラナ♪ 今日は俺が食事を作るから先にお風呂に入ってよ♪」

こんな事が許される訳がない。

主人より先にお風呂に入り、あまつさえ主人に食事を作らせるなど・・・


私の頭がついていけない。

こんなにも激しく動揺した事など生まれて初めてだった。

否、全ての出来事が、初めてと言っても過言じゃなかったかも知れない。


私は、夢でも見ているのだろうか?

そう思わずにはいられなかった。

現実感がない・・・。


ある時

「ラナの給金って金貨10枚だろう?ちょっと・・・少なすぎると思うんだよね・・・せめて・・・金貨20枚にしないか?」

突然、何を言い出すのかと思った。


何不自由のない生活をさせて頂いているにも拘わらずさらに給金を倍って・・・

金貨10枚でさえ十分すぎる金額なのに・・・

ユージ様との生活はパニックの連続だった。


私が戸惑ったり、驚いたりするとユージ様は嬉しそうに笑う。

そんなユージ様を見て気が付いた。

私って・・・こんなに感情があったんだ・・・と


暫くすると毎日同じ時間に返って来ていたユージ様が、不規則に戻って来る事が多くなっていった。

最初は、奴隷の私が心配する事ではないと言い聞かせていたけど・・・心配でしょうがない。


「寂しい・・・」

自分でも気が付かない自分の気持ちが口に出てしまいました。


ユージ様がいないと何故か落ち着かない。

夕方になるとソワソワしている自分に気が付いた。

どうやら私はおかしくなってしまったみたいだ・・・。


ある時ウッカリと・・・

「あの・・・ユージ様・・・その・・・今日は・・・遅くなりますか?」

卑しい奴隷の身で主人の行動を詮索するなど言語道断・・・なのに・・・


「あぁ~そうだよね・・・ゴメンね♪気が利かなくって・・・今日も遅いかな・・・これからは、遅くなる時には、必ずラナに報告する様にするからね♪」

そう言ってくれた。


「はい♪ ありがとうございます♪」

違う!本当なら余計な詮索をするなど、愚の骨頂でしょうが!


私は、申し訳なさとは別の感情に気が付いたけど何の感情なのか良く分からない。

ただ・・・笑っていた気がする。


それからは、遅くなる時は必ず教えてくれるようになった。

「その内、ラナをビックリさせてあげるからね♪」


そう言って外出されるが、以前の様に

今日は、どんな魔物を倒した・・・とか

これだけ稼げた・・・とか

ランクが上がった・・・とか


そんな・・・ユージ様のお話が聞きたい・・・。

そう願う自分の心に気が付き

自分を諫めた。


油断しちゃダメだ!

私は馬鹿だ!

ユージ様の優しさを・・・信じ過ぎたら・・・


あの表情・・・あの優しさ・・・その全てが・・・演技には見えない・・・。

でも・・・怖い・・・。

ユージ様を失いたくない・・・離れたくない・・・。


そして、私は、悶々とする日々を送っているとある時ユージ様が、

「ラナ♪久しぶりに一緒に買い物に行こう♪」

そう言われて私の心は躍った。


「はい♪ 嬉しいです♪」

嬉しい♪

ハッキリと理解した。

ユージ様との時間が幸福なのだと・・・。


「これが・・・幸福感・・・なの?」

生れて初めて感じる感覚・・・。


そして、ユージ様と買い物に行った帰り道、町を楽しそうに歩く女性達を見る私に向け何やら勘違いされたユージ様が私に向かって・・・

「ラナに指輪をプレゼントしたいんだけど・・・ダメかな?」

「お気持ちは、本当に嬉しいのですが、ユージ様には既に沢山の事をして頂いておりますので・・・お気持ちだけで充分です・・・。」


出来る限りユージ様を傷付けない様に

私は、全力で、断った。

許される訳がない・・・。

私などにプレゼントなど・・・


すると、一輪の小さな花を持って来て上手に輪っかを作ると私の指に嵌めてくれた。

「じゃ~これなら大丈夫でしょう?」


ドキッとした。

私を見てくれている。

無邪気な笑顔を私に向け・・・


「嬉しい・・・有難うございます♪」

当たり前の様に出た言葉にビックリした。

今・・・私・・・嬉しいって言ったの?

普通であれば、ただの草だ・・・嬉しいはずが無い・・・なのに本当に嬉しかった・・・。


自分の言葉に驚きしどろもどろしてしまった。

『一生大事にしよう♪ 家宝にするんだ♪』

本気でそう考える程、嬉しかったの・・・。


でも・・・まさか、これが、私の指のサイズを測る為の伏線だとは気が付きもしませんでした。


そして、ある日の事

「はぁ~・・・ユージ様・・・早く帰って来られないかなぁ~」

そんな事を考えながら料理を作っていた時の事・・・


「ウフ♪ この前は幸せだったなぁ~♪」

ユージ様に貸して欲しいと言われて今は外してある指輪が付いていた指を見て幸せそうに微笑む。



そして、この日の出来事からは、私の人生が大きく変わっていく。

有り得ない程の幸せ・・・有り得ない事の連続・・・

私の一生の宝物の記憶・・・。


ユージ様が、私にプレゼントと言って1カラット位のダイヤの指輪とネックレスを買って来てくれた。

この時の事は、驚き過ぎて正直何を喋ったのか良く覚えていない。

それ程、驚かされた日になった。


慌てて断る私の唇にユージ様の指が触れた。

心臓の鼓動が高鳴る・・・

『煩い・・・私の心臓・・・静まれ・・・』


この頃の私は、以前の髪形と違って髪をストレートに落とす事が多かった。

理由はシンプルだ。

お風呂上りをユージ様に見られてしまいその時ユージ様が言われた事・・・


「やっぱりラナは髪を下ろしても素敵だね♪ その髪型もとっても似合っているね♪」

馬鹿な女って思われるかも知れませんが・・・その・・・あの・・・う・・・嬉しかったんです・・・

理由なんかありません!ただ・・・ユージ様が喜ぶならって思ったのは事実ですけどね・・・。


私の手を持って指輪を付けて下さった時もドキッとしました。

その上、私の髪をかき上げて後ろから・・・ヒャァァ~恥ずかしい・・・。


ユージ様に触れられた部分が熱い・・・。

髪の先端まで神経があるのでは?と思う程敏感にユージ様の指の感覚が分かる。

もうドキドキしっぱなしでした。


恥ずかしさと嬉しさが入り交じった感情・・・

もう・・・訳が分からない・・・“幸福”・・・そんな二文字が頭を過りました。


鏡に映る私を見てユージ様が私を綺麗だと言ってくれるのは嬉しいのですが、そんな事をユージ様以外に今まで言われた事がありません。


私は、卑しい奴隷の身・・・自分では卑屈とは思っていなかった・・・けど・・・

それに・・・ユージ様の事は信用・・・信じようとしていますが・・・

ユージ様が嘘を言う訳がありませんので、信じたいのですが、私が綺麗だなど・・・自信がありません・・・。


そんな揺れ動く感情でいた時・・・ユージ様が突然、私の奴隷契約書を暖炉にくべて燃やしてしまいました。

何をされたのか・・・驚いたと共にその光景を呆然と見つめていると私の左手の甲にあった奴隷紋が消えて行くのを見て慌ててしまった事を覚えています。


「これで、君は奴隷ではなくなったわけだ・・・。」

そう、ユージ様が私に向けて話しかけて来た。


「そ・・・そんな・・・私が言う事を聞かないから用済みと言う事でしょうか? でしたラナラはもっと良い奴隷となるよう努力いたしますので、何卒ユージ様のお傍に置いては頂けないでしょうか!ユージ様!お願いです!」


これで、ユージ様との絆が切れてしまった・・・。

恐怖・・・このお方と・・・一緒にいられなくなるの・・・?


心が引き裂かれそうな絶望感・・・

一緒にいさせて星居・・・離れたくない・・・離れたくない・・・

そう思うと涙が溢れ出して止まりませんでした。



膝をついて必死にユージ様に懇願するとユージ様が不機嫌な顔になるのがハッキリと分かった。

いや・・・お願いです・・・わたしは・・・人間です・・・人間なんです・・・・

「ラナ!立つんだ!」


これで・・・終わりなの・・・

これで・・・このお方と二度と会えないの・・・

そう思うと悲しくて・・・寂しくて・・・ユージ様の足元から立ち上がる事が出来ず

「うぅぅぅぅ・・・ユージ様・・・何卒・・・何卒・・・」


こんなに泣いた事など・・・それ以前に泣いた記憶がない・・・。

私にも・・・感情が残っていたんだ・・・悲しいと人は・・・涙を流すんだ・・・。

怖い・・・何もかも失う事が・・・今・・・分かった・・・。

私は・・・・・幸せを感じていたんだ・・・。

知ってしまった・・・分かってしまった・・・嫌だ・・・この人から離れたくない・・・


そんな事を考えていたら

「馬鹿だな・・・俺がお前を話す訳がないだろうが!?」

そう言われて涙でグシャグシャの顔をユージ様に向けると優しい顔のユージ様がいた。


「へっ?・・・では・・・何故、奴隷の契約を・・・。」

「良いか?俺は、元からラナを奴隷として見ていないからな? 

確かにメイドとしては見ているけど・・・ラナは、一人の立派な人間だ!几帳面だし!料理は上手だし!掃除は丁寧で早いし!良く気が利くし!心が綺麗だし!性格が優しいし!意志が強いし!・・・・・」



私を・・・奴隷として見ていない?

私が・・・立派な人間?

この言葉も・・・いつもユージ様が褒めて下さっている事ばかりだ・・・嬉しい・・・。

でも・・・恥ずかしい・・・。


「まだまだあるぞ!いつも俺が知らない内に武器や防具を綺麗にしてくれている事も知っている!それに!」


ヒャァァ~そんな事・・・な・・・何で知っているのですか?

この人は・・・本当に・・・

そんなに褒められると・・・・恥ずかしい~



こちらも良ければ呼んでくださいね♪

■「新世界!俺のハチャメチャ放浪記! 記憶喪失の転生者」もアップしましたので宜しければご一読ください

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