羽根をもがれた天使と聖女になりそこねた令嬢の話
日の差さない地下の一室に閉じ込められて、もうすぐ4年になる。たぶん。時々記憶が飛ぶから、正確には分からない。もしかしたらまだ2年かもしれないし10年かもしれない。
揺れる炎の灯りしかない中で裁縫をする。指は曲がっているし腕も痛いから、なかなか進まない。でも構わないのだ。ただの時間潰しだから。
何かをしていないと、どうしてこんなことになったのかとそればかり考えてしまう。
私は貧しい子爵家の娘だった。父は平民の金貸しに多額の借金があり、いよいよ首の回らなくなった父は私を金貸しに差し出そうとした。
そんな時に偶然出会ったのが、王太子のティエリーだった。私の境遇に同情した彼は私財で父の借金を返済し、私を友人として迎えてくれた。
私は何がなんでも彼がほしいと思った。全力をかけて落としにかかり、王子はあっさり私に恋してくれた。
問題は良識ある国王夫妻をどう丸め込むかだ。
そう考えているときに、天使が現れた。そして、私の根性が気に入ったから手を貸そうと言ったのだ。
美しくて傲慢な天使。
奴が現れてからの私は天下無双だった。
あぁ、私の素晴らしく栄光に満ちた日々。私は人生に勝ったのだと確信していた。
けれどそれは一瞬にして終わった。
全能の天使だと思っていたのに、彼に借りた魅了の力も、彼自身の幻惑の力も限りがあった。しかも天使ですらなかった。
天使のふりをした悪魔。
それが奴の正体だった。エクソシストに破れた悪魔は何処かに去り、私は悪魔憑きとしてこの修道院に隔離された。
それでも最初のうちは窓のある普通の房を与えられていたのだ。普段は普通の生活ができるから。
時々ヘドロを吐き、暴れ、奇行に走ったけれどその度にエクソシストが来て悪魔を祓ってくれた。
だけれどあまりに悪魔憑きが治らないものだから、一年ほどたった頃、私は見捨てられたのだ。
聖堂の主祭壇の真下に、ここが最も神に近い部屋だからと閉じ込められた。多少は神の力が届いているのか、ここに来てからなぜかヘドロは吐かなくなった。
だけれど定期的に悪魔憑きになって暴れているようだ。気づくと体のあちこちにケガをしているので、暴れたことを知るのだ。
もうエクソシストを呼んでもらえないし、食事や水などを運んで貰えるのは3日に1回。しかもやって来るのは、恐らく私と意志疎通ができないように、盲目かつ失聴の修道女だ。
よく気が狂わないでいられると思う。だけどその答えは簡単。私には目標があるからだ。
◇◇
扉がガタガタと音を立てる。おかしい。まだ食事がくる日ではない。日が差さなくとも、聞こえてくる鐘の音や讃美歌で日時を把握できるのだ。
不思議に思い見ているとやがてそれは開き、ひとりの男がふらふらと入ってきた。
ここは女子修道院。男などいない。私のためにエクソシストを呼んだのだろうか。それにしては様子がおかしい。
おぼつかない足取りの男は顔をあげると、私を見て驚いたようだった。私も驚く。それは私を騙した悪魔だった。
「おあつらえむきに、ベッドがあるのか」と悪魔は言ってそちらへ向かい、倒れこんだ。「借りる」
荒い息づかいが聞こえる。苦しそうだ。またエクソシストにやられたのだろうか。いい気味だ。私が誰だかにも気がついていないようだし。
「ワインはあるか?」と悪魔。
ある。だけれど奴に渡す分はない。
「おい !返事をしろ。あるのかないのか」
相変わらずこいつは傲慢らしい。
「人の部屋に押し入って来ながら、失礼な態度ね」
久しぶりに他人相手に喋ったせいか、声がガサガサだ。
「貴様、病人のようだな。ならばさっさとワインを寄越せ。回復したら礼として治してやろう」
「悪魔にやるワインなんてないわ」
「私は悪魔ではない!天使だ」
「嘘つき。エクソシストに負けたくせに」
そう言うと悪魔は頭を上げ、私を見た。
「……お前、王太子を奪おうとした女か?」
「そう。あなたに騙されたバカな娘よ、悪魔」
悪魔は頭を下ろし、吐息した。
「悪魔でないと言っている。悪魔ならばこんな修道院の最奥部になど来れない」
「また嘘を。悪魔が来れないのなら、私が悪魔憑きの状態になるはずがないじゃない」
悪魔──以前、マルムエルと名乗ったそいつはまた頭を上げて私を見た。
「お前に悪魔は憑いていないし、奴らはここには来れない。ヘドロは吐かないのではないか?」
「……この地下に来てからは」
「だろう」マルムエルはまた頭を下げた。「お前がトランス状態で暴れるのならば、それは心因性のものだ。あのボヌムスムほどの悪魔ならば、主祭壇の真下でも多少は耐えられるかもしれんが、それでも余程のことがなければ入りたくないはずだ。だから私はここに……」
マルムエルはまた大きく息をついた。
「ワインはないのか。悪魔にかなりやられた」
燭台を持ち近寄って見下ろすと確かに彼の服はぼろぼろで、破れ目から見える肌はたった今、火で炙られたかのようになっていた。
「……ないわ」
「そうか。まあベッドがあっただけ……」
マルムエルの声は細くなり途切れた。
寝たのだか気を失ったのだか、それとも死んだのだか。
燭台を床に置く。
そっと枕の下に手を差し込み、それを取り出した。
この地下室に閉じ込められたときに、エクソシストからもらった短剣。聖水で清められ、悪魔を滅ぼす術がかかっている。
いつかこの悪魔が再び私の目の前に現れたら、この手で殺す。
そう決め、それだけを望みにして日の差さない地下で生きてきた。
柄を両手で握りしめるとためらうことなく、悪魔の心臓に突き立てた。
悪魔の体がビクンと跳ねる。
だけど奴は目を開き
「何をしている」と口を聞いた。
やはり4年も前の聖水は効かないのだろうか。
「私は悪魔ではないと言っているのに、分からない奴だ」
だけどそう言うマルムエルの声は、さっきよりも辛そうだった。
それでも自分で胸に刺さった剣を抜き、血の一滴もついていないそれを自分の背の下に隠した。
「休ませろ。次に邪魔をしたら容赦しないからな」
そうしてマルムエルは再び目を閉じた。
私を不幸のどん底に突き落とす原因になった悪魔を滅ぼすことに、失敗したらしい。奴が目覚めるまでに次の手段を考えなければならない。
だけれど血を流さない悪魔に、エクソシストでもない私が勝てる手立てはあるだろうか。
それにもしかしたら、本当に悪魔ではないかもしれないような気もしてきた。
そして私の奇行は悪魔のせいではないというのは、どういうことなのだ……。
途方に暮れて、人間離れしたマルムエルの美貌を見つめることしか出来なかった。
◇◇
食事などを運ぶ係が彼女で良かったと、初めて思った。ベッドに横たわるマルムエルは寝息も立てずに死体のようで、おかげで彼女に気づかれることはなかった。
彼が眠っていたのは3週間で、その間、当然飲まず食わずだ。どうやって生命を維持しているのだろうか。そもそも命ある生き物なのかも分からない。
主祭壇の下であるここにわざわざ来たことを考えると、上から降り注いでいるらしき神の加護を受けて生きているのだろうか。
私の中では奴に対する嫌悪と怒りと疑問がぐちゃぐちゃだった。
だけど当のマルムエルは目を覚ますとのんきに伸びをして、
「よく寝た」
なんて言ってスッキリしている。不思議なことに、ぼろぼろだった服も仕立てたばかりのようになっている。
火のついていない燭台を手にすると素早く歩みより、奴の脳天めがけて振り落とす。が、それが到達するより早く、私の体が吹っ飛び壁に激突した。
息がつまり、目の前が見えなくなる。身体は床に転がって激痛で動かせない。
「悪魔ではないと言っているのに、愚かな女よ。それが恩人にすることか」
「お……恩人?」ゲホゲホと咳が出る。「恨みはあっても、あんたなんかに恩はないっ!」
「泡沫の夢が見られたではないか。私が現れなければお前なぞ王太子を誘惑する毒婦と断じられて、牢屋送りだったぞ」
「嘘よ!みんな私を気に入ってくれていた!」
笑顔を向けられ讃えられ優しくされたもの。
「私が授けた魅了の力のおかげだろうが」
「嘘!あなたなんて私の兄のふりも通用しない程度の力じゃない!エクソシストにも負けたし」
ふと、気配を感じた。と思った瞬間、足蹴にされ床を転がる。悪魔が私の顔を見下ろしているようだ。
「いいか、私は負けてない。あの場の人間を巻き込まないために撤退しただけだ」
「口ではなんとも言える!どのみち死にかけてここに逃げて来たのでしょう?3週間も寝てたくせに!」
「3週間……?」
戸惑いを含んだ声だった。這いずってマルムエルから少しでも離れる。
「……私はそんなに眠っていたのか?」不安そうな声。
「そうよ!」
「3時間ではなくてか?」
「3週間!嘘だと思うなら、外で暦を見てきなさいよ!」
「3週間……」
奴はふらふらとベッドに戻り、ドスンと座り込んだ。
「神の加護の元で、3週間?くそっ」
そして頭を抱える。どうやら本当に参っているようだ。これは付け入るチャンスではないだろうか。
「……人のベッドを3週間も占領したのよ。少しくらい説明しなさいよ。場合によっては悪魔じゃないって信じて上げてもいいわよ」
マルムエルはちらりと私を見た。
「ならばワインを出せ。あるのだろう?」
「どうしてそんなにワインを飲みたがるの?」
「あれは我々天使の力となる」
本当だろうか。
だけれど私がワインを与えられているのはエクソシストが、それが悪魔憑きの血を清める飲み物だと言ったからだ。
痛む体に鞭打って立ち上がり、棚に置かれたビンからそれをコップにうつしてマルムエルに渡す。と、彼はそれを一息に飲んだ。
「悪魔ならワインは飲めないのね」
「いや、飲む。あいつらは酒池肉林が大好きだからな」
「なら、どうやって悪魔と天使を見分けるのよ」
「光輪」
「あなたはなかったわよね。やっぱり悪魔なんだ!」
「私のは神が持っている」
「どうして。というか、そもそもなんでここに来たの。天使なら天国に、悪魔なら地獄に行けばいいじゃない。また私を騙しに来たわけ?」
「うるさい」
マルムエルは虫を払うかのように私の顔の前で手を振った。その動きにつられて視線がそれ、ふとベッドシーツについた二つの大きなシミが目に入った。マルムエルの影かと思ったけど、違う。
手を伸ばし触れると、ぬるりとした。指先がどす黒い。
「……血?」
どこから、と何気なくマルムエルの背を見ると、両肩甲骨のあたりにシミがあるようだった。
「なにこれ。ケガをしているの?」
「お前には関係ない」
「ベッドを貸して、貴重なワインもあげたのに?ここは清潔なシーツをもらえるのも、ひと月に1回なのよ」
マルムエルはため息をついた。
◇◇
彼の話では、マルムエルは本当に天使で趣味は悪魔狩り。私に声をかけたのも、そのためだったという。確かに、いずれ王太子の婚約者が悪魔憑きになるだろうからその時は自分の手足となって動け、と言われていた。
けど、あまり本気にはしていなかった。というか聞いてなかった。浮かれていてそれどころではなかったからだ。
一方で神からは、悪魔狩りの手段が悪辣すぎると注意を受け、警告として光輪を取り上げられていたそうだ。だけどマルムエルは気にしなかった。退治した悪魔の数は他の天使との差を大きくつけて、ナンバーワン。実績を上げているのだから、神が自分に罰を与えるはずがないとたかをくくっていたらしい。
ところが。私と手を組んだ悪魔狩りに失敗したあと、彼をやりこめた悪魔を退治しようとしたところで、神の怒りが爆発。人間を巻き込みすぎている、と。
そうして神は彼の羽根をもぎりとり、地上に堕とした。
マルムエルはそれでもめげなかった。空を飛べなくなったし、羽根のあったところからは微量の血が流れ続けていたけれど、天使の力は変わっていなかったからだ。
多少は用心深くなったものの趣味の悪魔狩りを楽しみながら、神の怒りが解けることを待つことにした。
だけれど二年が過ぎたころから、力が弱くなり、ダメージも受けやすく、また傷の治りも悪いような気がし始めた。三年も経つと、それが気のせいではないと確信するようになった。
「恐らく天界から長く離れているせいだ。羽根の傷痕からも力が流れ出ているのかもしれない」
マルムエルは神妙な表情だった。そんな顔は初めて見る。彼は常に傲慢だった。
「羽根をもぎ取られて、どれほどになるの?」
「5年」
「それなら園遊会のすぐ後ってこと?」
そうだとうなずく天使。
「誰か助けてくれる仲間は?」
「地上に堕とされたら、みな離れていった」
「じゃあずっと一人なの?」
「悪魔狩りに集中できて、ちょうど良い」
その言葉が本心なのか強がりなのか、口調と表情からは分からない。けれど後者のような気がした。
「ここへ来たのは?あの傷は悪魔にやられたの?」
「……昔ならあんな攻撃で傷つくことなどなかったのに。情けない」
「挙げ句に回復のために3時間寝たつもりが3週間だったのね」
「……」
マルムエルの美しい顔が翳っているように見えた。
「このままだと、あなたはどうなるの?」
「さあな」
「まず、悪魔狩りはやめることね」
私はこいつを自分の手で仕留めることを希望に生きてきたのに、どうしてアドバイスなんてしているのだろう。
自分でもよく分からなくて、傲慢な天使の顔を見る。
……揺れる炎の灯りしかないから確かではないけれど、記憶の中の彼よりやつれているように思える。
「私がやめたところで、悪魔のほうが私を放っておかない。散々奴らを殺したからな」
「なるほど。それはそうね。ならばずっとここに隠れているの?それはやめてよね。石の床で寝るのはもう嫌だもの」
マルムエルは不思議そうに私を見た。
「何故ここを出ていかない」
「出られないの」
「鍵はかかっていない」
「悪魔憑きは出られないように、エクソシストが術を施しているのよ」
「そんなものはかはかっていないぞ。お前に悪魔も憑いていない。出られない、というのもお前の心因性によるものだな。奇行もそうだ」
「……嘘よ」
「行って扉を開いてみろ。できるぞ」
そんなバカな。私だってこの部屋から出たくて、何度も何度も扉を開けようとしたのだ。だけどそれは、わずかにさえ動くことはなかった。
恐る恐る、近寄る。そっとノブを握りしめる。
「何の問題もないぞ」と天使。「押してみろ」
バクバク鳴る心臓。久しぶりに口からヘドロが出そうな感触だ。けれど……。
思いきって押すと、扉は軽々と開いた。
「開いたわ……」
「だから心因性だと言っただろうが。まあ、原因はあの一件だな。企みが惨めに失敗したことを、悪魔憑きのせいだったからと思いこみたかったのだろう」
「だってヘドロを吐いたわ」
「それは悪魔の仕業だけど、憑かなくてもできる」
「暴れまわったのも?」
「少なくとも、この地下室に来てからのことは悪魔のせいではない。こんな穴蔵みたいな所にいれば、気も狂う」
自分の手を見た。トランス状態で暴れまわり指の骨が折れるのはよくあることで、治療は自分でしなければならなかったから、きちんと治らずに曲がってしまっている。爪がない指も多い。腕、足も真っ直ぐでない。顔をかきむしることもあるから、そこも酷い有り様のはずだ。……もう5年も見ていないから、どんな状態なのかは分からないけど。
「ミミ。こっちに来い」
トスン、と心臓にナイフを突き立てられたかのような痛みが走った。
私の名前はミミだった。それを最後に呼ばれたのはいつだったかな?もう思い出すこともできない。
「どうした、来い」
重ねられた言葉にフラフラとベッドに腰かけた天使に近寄る。すると彼は私の額に向けて手をかざした。また吹き飛ばされると身構えたけれど、私は光で包まれて身体の奥から温かいものが湧き上がるのが感じられた。
やがて光は消えて、マルムエルは手を下ろすと疲れた、と呟いてベッドに横になった。
自分の手を見る。指は真っ直ぐで爪は全部揃っている。骨折の後遺症で消えることがなかった痛みもない。
「治してくれたの?」
「……まあな。好きに出てくといい。これでやり直せるだろう。寝床とワインの礼だ」
天使の声は気だるい。
「あなたは?」
「もう少し休んでから出ていく。もっと私に相応しい、大きくて聖遺物があるような教会に行く」
ということは、それだけ辛いのか。
天使は寝返りをうち、背を向けた。
「早く行け」
「……私、あなたをこの手で滅ぼすことを生き甲斐にして、ここまで踏ん張ってきたの。あなたに相応しい教会まで案内してあげるわよ。それで以前のようなあなたに戻ったところで本懐をとげるわ」
案内もなにも、天使ならばそのくらい把握しているだろう。
だけど私は自分の手できっちり落とし前をつけたいし、そのためにはこんな弱った姿でいられたら困る。
「あなたのことは、絶対に許さないから」
天使の背のふたつのシミに、そっと触れる。心臓にはない血が、5年も流れ続ける傷痕。どんな仕組みなのかは分からないけど、神というのは随分と酷い罰を与えるものだ。私ならば一撃で済ますのに。
「……ミミ?」
「何?」
「お前、何をした?」
「何って何?」
傷が、と言ってマルムエルは身体を起こした。いそいそと服を脱ぐ。
「ちょっと!」
慌てて顔を背ける。が。
「おい、確認してくれ。傷はどうなっている」
仕方なしに天使の背を見る。肩甲骨にふたつのただれた傷痕。
「傷があるわね。ふたつ」
そう言いながら手の甲で触れて、あれと首をかしげる。
「乾いている。血が出ていない」自分の手の指先には血がついているのに。「どうして?」
マルムエルが向き直った。下から私を見上げている。
「分からない。だが、ミミ、お前のおかげなのは確かだ」
「え、なんで?私はあなたを許さないし、この手で仕留めると決めているのに」
「どうしてだろうな」マルムエルは立ち上がって、伸び上がった。「うむ、調子も良い」
「何で!?」
「さあな。よし、お前に教会まで案内をさせてやろう。天使を導くのだ。ありがたいだろう?」
「輪っかも羽根もないくせに、天使だなんて図々しい悪魔ね」
ほら、とマルムエルは私から取り上げた短剣を差し出した。
「これは返してやろう。せいぜい頑張って私を仕留めてみろ」
「余裕ね。私を騙してこんな惨めな5年を送らせた恨み、絶対に晴らしてみせるから覚悟しなさいよ」
二人で扉に向かい天使が先に部屋を出て、私に手を差しのべた。その手を取ろうとして、振り返り4年も過ごした穴蔵を一瞥する。
ここから持ち出したいものなんて、悪魔を倒す剣を除けば何もない。
マルムエルに向き直ってにんまりと笑うとその手を取り、一歩を踏み出し地下室を出た。