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異世界転生してコーヒー無かったら普通世界の果てまで探しに行くよね?  作者: えびはら
学院編二年生の部:妖精の話し手
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九十二話 図書館大集合

 一年生のファイブオンファイブは、イヌワシ寮が全勝して優勝という結果に終わった。

 オオタカ寮、ツバメ寮、ドラゴン寮はお互いに結構いい戦いをしていたが、イヌワシ寮、つかディアナにどの寮のチームも蹴散らされていた。


 ツバメ寮チームは想起発動に対処できるやつが少なく一瞬で三人ほど薙ぎ払われてしまい、残りの二人も各個撃破された。

 そしてドラゴン寮チームは相変わらず個々の実力も連携も高水準だったものの、ディアナはうまく誘導して自分と残り四人でドラゴン寮チームの陣を挟み撃ちにした。

 全員がディアナばかりに注目していたドラゴン寮チームは突然後ろから猛烈な攻撃を食らって大慌て。そうして連携が乱れたところにディアナが突っ込んで陣を食い荒らし、ドラゴン寮チームは壊滅した。


「――どうでしたか!?」


 ファイブオンファイブの全試合を終えたディアナが観客席の俺たちの元へやってきた。

 いち早く応えた大臣との間でまたしてもボリューム対決が発生し、しばらくして大臣がお付きの人に引きずられてどこかへ行くまで俺たちは遠巻きに見守るしかなかった。


「行ったか。……いやあ、凄かったぞ。あんなに動けるようになっているとは思ってなかった」


「ふふふ、お姉ちゃんにシゴかれましたからね!」


 ディアナは胸を張って言った。

 初戦の時点ではまだ判断に迷うところだったが、今ならもう確信できる。こいつ、最大級の呪文を抜きにしても去年のオークスより強い。火力も立ち回りも上だ。たぶん一年前の俺だったら負けている。


「……ちゃんと相手は見ていた。近接戦の動きもいい。あとドラゴン寮との戦いは良かった。だけどツバメ寮の時はちょっと雑すぎ。優勢だからって油断しない」


 おおっと。姉からは手厳しい指摘。


「う、わかりました!」


「今日の夜にまた練習するからそのつもりで。それじゃ」


 オークスはそう言って立ち去っていった。


「はあー……」


 オークスの姿が消えてからしばらくして、ディアナがどでかいため息をついた。


「どうした」


「もー、すっかりお父さん化しちゃって。冬休みが終わってからずっとこうですよ」


「お父さん?確か軍の教官だっけ」


「ええ。……冬休みは冬休みで、それはもうキッツい休暇でしたが学院に戻ってきても続くとは思いませんでしたよ!」


 まっ、俺ん家も両親が闇の魔法対策委員会で、休暇中に俺と訓練してるし。親が現場で働いてる家はどこも一緒か。


 その後、俺たちは一緒に昼飯を食ったりして適当にふらふらして、午後に行われたスカイジョストの試合でルカさんが相手を瞬殺したのを見て一日目は終わった。


 そして二日目。

 昨日同様朝早くに行われたスカイジョストの第二試合に、俺はあっさり勝利し三回戦に進出を決めた。

 今日もこれから何もすることがない。

 ベルがキングスラウンドの大会に出るから行こうと思ったが、ベルから「ルール知らないの?なら絶対行かないほうがいいと思うよ、ははは」と言われたので一日暇になってしまった。


 となるともう、俺が向かうところは図書館しかない、ということで俺は図書館でぼーっとすることにした、のだが。


「こ、こんにちは」


 案の定先に来ていたマリーに挨拶を返す。

 そして。


「こんにちは!」


「どうも」


 途中で遭遇し、「ヒマだから」ということでついてきたオークス姉妹、そしてそして。


「ごきげんよう」


「……なぜぼくもここに連れてこられたんだ」


「全くだよ」


 同じく途中で遭遇し、「手持ち無沙汰でしてよ」ということでついてきたボーヴォラーク、はともかくとして。

 ボーヴォラークと一緒にいたアレン・マクヴァティ、さらにルイス・ベルブックまでもが何故かついてきて、つかボーヴォラークに連れてこられて、結果図書館の一角に七人も集まってしまった。

 んで、なぜぼくも、だって?


「俺が聞きたいんだが」


「あら、お気に召されなくて?」


「いや、そういうわけじゃないけど」


「まっ、いいじゃないですか!たくさん人がいて楽しいですよ」


 無邪気な口調でディアナが言うが、この面子で楽しくなるビジョンが見えない。


「……で、なんだ。本読むのか」


「質問の意味がわからないね、それ以外何をしろと言うんだい?」


 俺が誰に対してでもなく聞くと、アレンが心底馬鹿にしたような口調で応えた。ったく、相変わらずだな。


「ふふ、まだまだでしてよ。図書館でできることは本を読むことだけ――そんなものは固定観念にすぎませんわ、そうでしょう?クライヴ、レオミュール」


 すると、ボーヴォラークがいきなり変なことを言い出し、マリーは「えっ」と声を漏らした。


「いや、本読む以外にないだろ」


 俺が、たぶんマリーの代弁でもある、自分の率直な感想を口にするとボーヴォラークは固まった。「そうやってなんでも通ぶろうとするから痛い目にあうんだよ」とルイスが呟いた。


「なんですって――」


「おい、図書館では静かにしてくれ」


「そうだぞイザベル。あのディアナ・オークスだって静かにしているんだ」


 俺の言葉に便乗して、またしてもルイスが煽り立てた。

 こ、こいつ。あまり絡んだことないが相当いい性格してるな。しかもアレンはボーヴォラークに対して萎縮してるのに、ここまで好き勝手言うとは。


 ボーヴォラークは青筋を立てて震え、ディアナは「あの、ってなんですか。あの、って」とぷんすかしている。そしてルイスは、そんな二人の存在にまるで気づいていないかのようなすました表情で読書を始めた。


 姉貴の方は喧騒を完全に無視して本を読んでいる。一方マリーは本で顔を隠しながら様子を伺っているようだ。

 結果的に騒動のきっかけとなってしまったアレンは。明らかな焦りの表情を浮かべながら近くの本棚から本を手に取り、騒ぎから離脱しようとしていた。タイトルを拝見すると、『官能の技法』。本を開いてから少しして、アレンは本をそっと閉じて本棚に戻した。


 事態は何一つ解決していないが、場がとりあえず落ち着いたので、俺も近くのソファーに座り、読書に移ることにした。


 そして訪れる奇妙な静寂。

 全く知らない他人ではないものの別に仲良くもない、つかむしろライバルとか、敵だったりする面々が一同に介して読書をしている。

 これは読書に何か、人と人の絆を育む、うまいこと利用すれば世界平和に繋がるような何か特別な力がある、ということなのだろうか。

 んなわけ、ない。こんな固まっている必要など、全くないはずである。

 にも関わらず誰一人としてこの場を離脱しようという試みをしないのは、何故なのか。一体、この場になんの不可思議な引力が働いているというのか。


 あっという間だったような気もするし、異様に長かったような気もする、よくわからない感じで時間は過ぎ、正午の鐘がなった。

 昼時だ。しかし、誰も飯を食いに行かない。なんだ、この空気。


 俺はしばらく周りの出方を伺っていたが、「いやいやいや、何の遠慮だよっ。普通に飯食いに行きゃいいじゃん」という至極まっとうな思考が働き、本を閉じて立ち上がろうとした、その時。


「あっ、いたいた。昼食をまだ――え、なにこれ」


 我が親愛なる友人、ベルが現れた。


「よう」


 俺はまるで何でもないかのように、挨拶をした。


「や、やあ。……こ、これは?」


「読書をしておりますのよ、見て分からなくて?」


 ボーヴォラークが、明らかに気が立っているような声で言った。

 ベルは一瞬沈黙してから、「そうだね」とお茶を濁し、改めて俺に言った。


「えっと、昼食をまだ食べていないようなら、どこかで食べに行こうかと」


「お、んじゃそうしよう」


 俺は今度こそ本を閉じて立ち上がった。

 すると、ルイスがいち早く俺に追随して立ち上がり本を片付け始めた。そしてワンテンポ遅れてボーヴォラークが反応し、続いてアレンが立ち上がって片付けを始めた。さらに、こうしちゃいられない、とばかりにディアナも流れに乗り、オークスが気怠げな様子で妹に続く。


 おいおいおいおいおい。何が起きてる。


「……どうしたお前」


 図書館を出た俺とベルの隣で、さも「友達だけど」みたいな雰囲気でルイスが並んで歩いている。


「たまたまぼくもこっちに行こうとしてるだけだけど」


「そうか」


 後ろからは無言で五人がついてくる。結局マリーもついてきた。


 俺たちはしばらく歩いて寮に戻ってきた。が、ルイスを始め、相変わらず全員ついてきている。


「……ここツバメ寮だぞ」


「別に入っちゃいけない決まりはない。偶には他の寮のランチというものも試してみたくてね」


「そうか」


 寮では、朝食、昼食、夕食が出る。そのうち、朝食と昼食はいわゆるバイキング形式だ。

 トレイを手に取り、粛々と料理を盛る俺とベル、そしてルイス。ボーヴォラークら五人も俺たちの動きに続いた。


 そしてエントランスの一角で、テーブルを囲んで座る八人。

 俺、ベル、ボーヴォラークの三人で開いたあのお茶会を優に超える、とんでもないランチタイムが始まろうとしていた。

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