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異世界転生してコーヒー無かったら普通世界の果てまで探しに行くよね?  作者: えびはら
学院編一年生の部:隠された封印
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九話 決闘騒ぎ

「……アレンか。やあ」


 ベルハルトは見るからに嫌そうな顔をしている。


 アレン。こいつの名前はアレンというのか。

 いきなりベルハルトに絡んできたとんでもないやつだ。その性格は似ても似つかないが、しかしどこか近いものを感じさせる。


「学院の生徒なら“決闘”をしなくちゃ。そんなおままごとじゃなくてね」


 そう言うと、アレンはベルハルトに杖を向け、ぺこりと頭を下げた。

 何をする気だ?


「アレン、まさか――」


「――≪ウフェンデ(叩きつけよ)≫!」


「≪エルケ(妨げよ)≫!」


 アレン、とやらがいきなり危険な呪文をぶっぱなしてきたので、俺はとっさに防御の呪文を唱えた。


「危ねえな、いきなりなんだよ」


「ふーん、そっちのやつは少しはできるじゃないか。なあ、ベルハルト!守られるなんて情けないな!」


 うわあ。

 嫌味なやつ!


「“若草色のツバメ寮”なんかに入れられたのが運のツキだったな。僕は“紺色のドラゴン寮”――優秀な魔法使いはみんなそうさ」


 おお。所属寮まで持ち出してきた。

 寮の間での差別、確執なんてのもあるのか。つくづく学校ってのは社会の縮図だ。


「先生が見ていないところで決闘は禁止されて――」


「いい子ちゃんめ!だけどみんな勝手にやってるし、先生も見て見ぬフリだ。僕はもう十五回はやってるぞ。昨日なんて三年生に勝った!」


 ええと。

 こいつはあれか、ベルハルトをライバル視してる感じか。

 どこで因縁つけられたんだか知らないが、災難なこった。

 馬鹿正直に付き合うのもアホらしいが、こういうのはこっちが引いたらしつこく付きまとってくるしな。


 俺は周囲を取り囲んでいる生徒たちをちらっと見た。

 誰か、この状況を仲裁してくれるような良識ある模範生は――ダメだ、完全に決闘をやる空気になっている。事態がヒートアップするのを期待している。

 こうなったら、しょうがない。まぁいい機会だと思えばいい。


「おいおいおい。いきなり割り込んでおいて決闘の押し付けってのは、ちょっと品がないんじゃないか?こっちの話にも耳を貸す余裕が欲しいもんだ」


「何だって?逃げるのはなしだぞ」


「んなこたぁしねえ。ただ、先に俺にもやらせてくれ、ってだけだ。――正直さっきの攻撃呪文を受けてビビってるけどな」


「ふうん?まあいい、その勇気に免じて付き合ってやろう。だけど、あんまりすぐにやられないでくれよ。僕をがっかりさせないでくれ」


 よーし、乗ってきた。

 最後に弱気な一言を加えるだけでこれだ、ちょろいもんだぜ。


「まあ、頑張るよ。……えっと。お互いに杖を向けて、相手に一礼して始め、で良かったよな?」


 決闘のルールは、前に母さんに教えてもらったことがあったので知っていた。まあ、「闇の魔法使いは殺す時に礼なんてしない」と言って、あまり決闘そのものはやらなかったが。


「ああ。それでいい。じゃあ、始めよう」


 俺とアレンは十歩ちょっとくらいの距離をとって、お互いに杖を向けた。


 そして一礼。


「≪ウフェンデ(叩きつけよ)≫!」


「≪エルケ(妨げよ)≫!」


 そらきた。


「さっきからワンパターンなんだよ、≪エクア(水よ) フルエ(流れよ) テムクァム(あたかも) リオ(獅子のように)≫!」


 俺はライオンの形をした水流を放った。せっかくだからベルハルトと遊んでいたのと同じようにやってみよう。

 ガチで戦ってもし怒られたら嫌だしね。遊んでました、と言い訳するための逃げ道だ。


「――くそ!ふざけてるのか!?」


 顔面に水ライオンのパンチを食らってずぶ濡れになったアレンが叫んだ。


「まあな!――ワンツーだ!喰らえ!」


 もう一発顔面に食らわせてやった。まあダメージはない。せいぜい咳き込むくらいだろう。


「この!――≪ディレー(かき消えよ)≫!」


 おっと。“打ち消し呪文”か。

 アレンの呪文によって水ライオンは消されたが、次のやつを出せばいい。


「俺たちの寮をバカにしたな?≪フィルム(鉄よ) フォルメーレ(形成せよ) トロア(三匹の) ヒランディネス(ツバメを) ティ(己を用いて) イト(そして) ヴラ(飛べ)≫」


 お次は鉄製のツバメだ。三匹放って突撃させる。


「≪ディレー(かき消えよ)≫!ああ、くそ!いい加減にしろ!」


 アレンは鉄のツバメにつきまとわれ、蚊を追い払うかのように杖を振り回している。

 悪いな、隙だらけだ。


「≪エウラ(風よ) フレ(吹け)≫!」


 俺は突風を放つ呪文を唱えた。

 完全に俺から意識が逸れていたアレンはもろに食らって吹き飛んだ。


 俺はそのままツバメを操ってアレンの杖を奪った。


「まあこんなもんか」


 喝采が沸き起こった。ついでに小銭が飛んできた。


「……返せ、僕の杖だぞ!」


 跳ねるようにして起き上がったアレンが叫んだ。


「あいよ。……ついでに乾かしてやる。≪ソッケー(乾け)≫」


 杖を返すと同時に、ずぶ濡れになっていたアレンを乾かした。

 やはりこうして施しを受けるのは恥ずかしいのか、アレンは顔を真っ赤にしている。


 遠くから鐘の音が聞こえてきた。ちょうど正午のようだ。


「ベルハルト、飯食いに行こうぜ、飯。動いたら腹減った」


「……ああ。その、ありがとう」


「どういたしまして」


 俺たちは自然に割れた人だかりを通って演習場を出て、昼飯を食いに行った。

 そのあともベルハルトとつるんでいたが特に何もなく、午後は平和に過ぎていった。

呪文は某言語をちょっといじっただけです。


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