八十九話 情報共有
「……どうだった?」
「ええ、滞りなく。連中が見ているのはクライヴとライゼルだけですからね。僕の顔を覚えている人なんて誰もいませんでしたよ。一応メガネは外していきましたが」
魔法競技会は三日前に迫っている。学院を包む熱気はいよいよ高まり、さながら沸騰寸前のナベのようだ。
ファイブオンファイブ無差別級の練習では相変わらず四対一の練習を中心にやっていて、俺の空中機動もだいぶ様になってきた。
だが今日はいわゆる作戦会議だ。
ネスラーさんが大胆にもメガネを外し、各寮のチームの練習場所に潜入して敵情視察を敢行してきたので、その情報を共有するためだ。
「さて、ではどの寮から話しましょうか」
「そうだな、まずはイヌワシ寮から聞かせてくれ。特にディアナ・オークスについてだ」
キースさんが答えた。
イヌワシ寮か。去年のファイブオンファイブでも想起発動の攻撃呪文で暴れたガトリング・モンスター、シャーロット・オークスとその妹、超火力な最大級の攻撃呪文を放つキャノン・モンスター、ディアナ・オークスの姉妹が脅威だ。
「わかりました。ではイヌワシ寮チームから話します。ご存知の通り、イヌワシ寮チームで脅威となるのはオークス姉妹であり、この二人が中核を担っています」
ネスラーさんがそう切り出した。
「基本的な戦い方はシャーロット・オークスが前に出て、ディアナ・オークスが後ろから最大級の攻撃呪文を放つ。後の三人はディアナの護衛。要するに我々ツバメ寮チームとほとんど同じと言っていい」
なるほど。
突撃役の姉貴と、後方から砲撃する妹の関係は、それぞれ俺とベルの役割と重なる。
「そして最大級の攻撃呪文ですが、破滅的な威力です。真正面から受けた場合、間違いなくライゼルともども消し飛ばされる」
「……そんなに?」
「俺が“フルティウス”で放った攻撃呪文の十倍は威力がありますね。なあベル?」
俺の言葉にすぐさま頷いたベルを見て、セシリーさんが「冗談でしょ」と呟いた。
「ですから、ディアナ・オークスの排除が最優先となります。まあ、クライヴ次第と言う他ありませんが」
「……頑張ります」
「姉の方はどうなんだ?」
「もちろん脅威です。妹と違って純粋に強い。去年のファイブオンファイブではライゼルが勝ちましたが、今年も同じ結果になるかどうかは分からない。クライヴにはディアナを排除した後、早急にシャーロットとの戦闘に移って欲しい」
わお、大忙しだ。
「なるほど。……では、次はオオタカ寮チームについて聞こうか」
「オオタカ寮チームは凄いですよ。レオミュールとミナ・ヘイズが機動力で翻弄してくるのは周知ですが、他の三人、つまりチームの全員が同様の戦術をとるようです」
マジ?全員アクロバット戦法なのか。
「我々はクライヴをのぞいて固まりますから、おそらく囲まれる。特に試合開始直後、ライゼルの円陣魔法が展開しきれていない時に囲まれた場合非常に厳しい」
「オオタカ寮も相性が悪いか。クライヴはどう使う?」
「とにかく数を減らして欲しいですね。散開する戦い方である以上陣もへったくれもない。引きつけるにしても一人が限界です。なので、最初はレオミュールやヘイズ以外の三人を倒してください」
「わかりました」
俺はネスラーさんの言葉に頷いた。
「よろしい。……さて、ドラゴン寮ですが。ウォルト・マクヴァティおよびヴィロウが前衛、アレン・マクヴァティ、ベルブック、そしてボーヴォラークが後衛を務めるようです。個々の能力もさることながら、ボーヴォラークの指揮による連携が見事です。何か尖ったものがある訳でなく、ただただ強い」
ふんふん。上級生が混じっててもボーヴォラークが頭なのか。
「やっぱりドラゴン寮は厳しそうね。これといった対策なんてないでしょ?」
「まあ、作戦はあります。まずクライヴが最初に突撃してライゼルが円陣魔法を展開する時間を稼ぐ。その後クライヴはヴィロウの足止めに専念してください。倒せとは言いません」
「……俺たちだけで他の四人を倒せるか?」
「ウォルト・マクヴァティは個人でも脅威ですが、二年生三人は緊密な連携があってこそ。個々の能力はクライヴやライゼルほどではない。ウォルトが遊撃に回ることは考えられますが、二年生三人が孤立したならそれは撃破の絶好の機会です」
「ええと、リオがヴィロウを足止めして、それでウォルト・マクヴァティが孤立したとしたら、僕はどちらを狙えばいいでしょうか?」
「二年生三人の方を狙ってください。ウォルト・マクヴァティは我々三人が抑えます。……そして、ヴィロウ以外の選手を撃破したのちに、残ったメンバーでクライヴに加勢します」
俺が一人で勝てる相手ではない、ってことか。
「その、セオドール・ヴィロウってどれくらい強いんですか?」
「そうですね。まず、攻撃呪文と防御呪文を想起発動できます」
は?
「そして、円陣魔法もライゼルほどではありませんがある程度扱えるようです」
おいおいおい。
「転移の魔法を扱えますから、機動力も極めて高い」
まじですか。
「やばくないすか」
「間違いなく学院生最強でしょう。真っ向勝負ではあなたでも勝てない。というか、実のところ我々は勝利を諦めていました。あなたが転移魔法についていける移動手段を獲得するまではね」
つまり、俺はワープしながらガトリング攻撃呪文を放って円陣魔法を展開して、防御も鉄壁な相手を追い回さなくちゃいけないのか。
「では、以上を踏まえて練習に移るとしましょう。本日は――」
俺たちは練習を終えて寮の部屋に戻ってきて、ベッドに倒れこんだ。
今日もヘトヘトだ。
「……楽な相手がいないな」
俺はベッドに横たわるベルに話しかけた。
「……正直、全敗もありえるよね」
全敗、か。
まあディアナに吹っ飛ばされて、マリーやミナさんに包囲されて、ボーヴォラークたちに押し負けることもあるだろう。
が、ディアナを速攻し、オオタカ寮の選手を各個撃破し、俺がヴィロウを足止めしてる間にベルがボーヴォラークたちを圧殺することだって考えられる。つまり。
「全勝だってありえるだろ」
「はは、いいことを言うね。……そうだね、負けが決まってる訳じゃない。リオ次第で全勝だってできる」
俺次第、か。
そういえば、ネスラーさんの作戦も、俺の動きについての言及がほとんどだった。まあ、ベルたちがやることは決まってるから、当たり前っちゃ当たり前なんだけど。こう、露骨にキーパーソン扱いされると流石に緊張する。
「おいおい、あんまプレッシャーかけないでくれ」
俺がそう言うと、ベルは「ごめんごめん」と笑った。
さて、実際どう戦ったもんかな。
アレンとルイス、オークス姉妹なんかとは決闘クラブでも戦ったが、ここ最近は戦ってないからな。上級生は全くの未知数だし、マリーも去年見て以来だ。
本番の戦いのことを考えているうちに、俺はいつの間にか眠っていた。




