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異世界転生してコーヒー無かったら普通世界の果てまで探しに行くよね?  作者: えびはら
学院編二年生の部:妖精の話し手
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八十七話 一撃離脱戦法

「よーし、いいか?まず、旋回戦に持ち込まれたらお前の兄貴には絶対に負ける。それは認めてくれるか?」


 スカイジョストの練習日。

 俺は一足先に厩舎に来て、相方に俺の考えをなんとか伝えようとしていた。

 といっても、人間の言葉をそれほど理解しているわけではないから、ジェスチャーや想起(イメージ)が頼りだ。


 俺は、相方を示す緑色の矢印と、相方の兄貴であるルカさんのグリフォンを示す赤い矢印がぐるぐると互いを追いかけ、最終的に緑の矢印が赤い矢印に後ろを取られる映像を想像する。


 相方は静かに俺を見つめている。

 続けろ、という意思表示と受け取った俺は話を先に進めた。


「ありがとう。……ならどうするか?そりゃもう、旋回戦を避けるしかない。つまり、向かい合った状態でお互い近づいて、一回攻撃したらそのまま通り過ぎる」


 赤い矢印とすれ違い、そのまま距離を取る緑の矢印のイメージ。要は、一撃離脱戦法とか、そういうやつだ。

 相方は相変わらず静かな様子だ。どうやら一応認めてはくれたらしい。


「よし。とりあえずやってみよう。……言っとくけど、負けても文句言うなよ!通じるかどうかなんてわからないんだから」


 俺はそう予防線を張った。

 そしてほどなくしてルカさんがやってきた。


「ようクライヴ。――何かイタズラを思いついたって顔だな。いいぜ、それでこそだ。かかってきな」


 俺とルカさんは素早く準備を終えて、早速試合を始めた。


 普通に負けた。

 いや、開始直後、一回目は離脱に成功した。

 しかし二回目、上方を飛ぶルカさんに下から接近して攻撃し、そこから離脱しようとしたところ、すぐに旋回したルカさんにあっさり追いつかれて後ろを取られてピルムを当てられた。


「なるほど、一撃離脱か。確かに、旋回戦で勝てないならそうするしかない」


 俺のそばへルカさんがやってきてそう言った。

 やっぱり、一撃離脱戦法なんてのはお見通しだったか。


「一撃離脱は速度が命だ。お前はさっき、上にいる俺に攻撃しようとして上昇した。つまり、そこで速度が死んだ。俺はお前の攻撃をやり過ごしながら下降して、十分に加速してからノロノロ飛んでるお前に容易く追いついたというわけさ」


 な、なるほど。


「もう一度一撃離脱で戦ってみろ。今度は攻撃から離脱までの間になるべく上昇しないように意識するんだ」


 俺はルカさんのアドバイスを受けて再び戦った。


 攻撃から離脱までなるべく上昇しない、つまり上から下へ動け、ということだ。

 考えてみれば当然で、下から上へ上昇しようとすれば重力が邪魔をする。だけど、上から下へ下降するなら、重力はむしろ加速を助ける。


 ルカさんの上方左斜め後ろの位置につけた俺は、そこから急降下してルカさんに攻撃、ルカさんを通り過ぎて右斜め下へと抜けたが、回避したルカさんにすぐに追いつかれて攻撃を食らった。


「相手も高い所を飛んでるときに前へ抜けても逃げ切れない時があるぞ。特に俺とお前の場合、相棒の方が加速が速いからな」


 その後も三回、四回、と戦ったが、やはり追い越したときに離脱し切れずに攻撃を食らうパターンで負けた。

 相手の位置と速度をよく見て、厳しそうなら攻撃を諦めることも大事、とアドバイスを受けた。


 そして練習を重ねていくうちに、俺の一撃離脱は着実に洗練されていった。

 離脱が上手くいくかいかないかの判断ができるようになったし、効率よく高度を稼げるようになってきた。

 相変わらず俺は相方に乗せてもらっているような状態だが、俺はそれでいいと思うようになった。戦闘機に乗っているならともかく、相方は生き物だ。しかも賢くて、意地っ張り。一から十まで指示してやる必要はないし、嫌がられる。

 俺が大まかな攻撃プランを指示し、実際の飛行は相方に丸投げする。最初のうちこそ勝手に飛行する相方に戸惑うことも多かったが、ずっと飛んでいるうちに飛び方が分かるようになってきた。

 然るべきタイミングでピルムを放てるようになったし、相方に飛行を任せているはずなのに自分で考えて飛んでいるかのような感覚になることもあった。


 というわけでいい感じに息が合ってきて一試合がどんどん長引いていったのだが、それでも俺は勝つどころか一度もピルムを当ててすらいなかった。

 なんというか、ルカさんの方は俺がどこにいるのかを常に把握しているらしいのだが、一方で俺はルカさんを見失うことが多々あり、ルカさんを探しているうちに攻撃を食らう事態が多発した。


「言っておくがお前はいい動きしてるぞ、クライヴ。よく考えて飛べてるし、あいつともかなり息が合ってる。それでも俺に勝てないのは、悪いが経験の差、ってやつだ」


 練習を終え、厩舎にグリフォンを戻した俺はルカさんと話していた。


「なんというか、俺がどう動くかとか、そういうのが全部見透かされてる気がします」


「まあ、そういうこった。一応、ちょいと種明かしをすると、俺はそれまでの戦いの推移、そして相手の動き――どこを見てるのかとか、そういうのを総合的に判断して先を考えている」


 相手がどこを見てるのか、か。

 いくら視力を魔法で強化してるからっつったって、よくそんなのわかるな。それに、その情報をもとに先々のことを考えるのも一瞬だ。

 たぶん、そういうことが出来るようになるのは、才能次第でスタートラインの違いはあるだろうが。最終的に慣れなんだろう。


「自分で言うのもなんだが、俺は学院最強のグリフォン騎手だからな。一年や二年の時には流石に何回か当てられたことはあるが、三年になってから試合でピルムを食らったことはない。――お前の目の前にいるやつは、そういうやつだぜ」


 ルカさんはさらりと言ってのけた。


 学院最強のグリフォン騎手。

 ちょっと上手く飛べるようになって初めて理解させられた。

 ルカさんがどれほど高いところにいるのか。どんなに高く昇ってみても、それがまるで見えないことに。

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