八十六話 スカイジョスト
「よう、クライヴ。早速始めよう」
俺が厩舎に行くと、もうルカさんが来ていた。
俺たちはそれぞれグリフォンを厩舎から連れてきた。
そういえば、こいつのことをなんて呼ぶかまだ考えてなかったな。
確か、名前をつけられるのを嫌がるんだったっけ。ルカさんは“相棒”と呼んでいるが、俺とこいつはまだそこまでの間柄じゃないしな。
うーん、相方、とかでいいかな?まあ、嫌がられたらなんか考えよう。
ルカさんもグリフォンを引いてやってきた。
何やら巨大な槍を抱えている。結構高身長なルカさんの背丈よりも長い槍だ。
「こいつが気になるか?これがスカイジョストで使う武器、“ピルム”だ。……持ってみろ」
俺はルカさんから一本、ピルム、とやらを受け取った。
長い。が、細いからかそんなに重くはない。
見た目は、馬に乗る騎士が持ってそうないわゆるランスに近いが、ところどころに羽のような薄い板がくっついている。
「これ、どう使うんですか?」
「簡単だ。まず、攻撃目標に意識を集中させる。それから≪ピルム ヴラ≫と呪文を唱える。これだけだ。――クライヴ。ボールでもなんでも良いから、何か魔法で空中に飛ばしてくれ」
ルカさんが俺にそう頼んだ。
俺は地面の土を拝借して大きめの泥団子を生成し、魔法で空中に浮かび上がらせた。
「よし。……≪ピルム ヴラ≫」
ルカさんがピルムを空中の泥団子に向けてそう唱えると、ピルムは柄だけを残して飛翔。
ちょっと狙いが左に逸れてるかな?と思ったらなんと途中で右に曲がり、泥団子のど真ん中をぶち抜いた。
「……追尾するんですか?」
「そうだ。まあ、限界はあるがな」
マジかよ、ミサイルじゃん。
「そして、一定時間飛翔したピルムは――見てみろ、こうして戻ってくる」
ルカさんが持っていた、柄だけのピルムの先に、フッと槍の本体が出現した。すげえ。
「スカイジョストはこいつを相手に当てる競技だ。相手が乗っているグリフォンに三回当てれば勝ち。が、騎手に当てれば一発で勝ちと認められる」
「……当たったらどうなるんですか?」
「心配するな。当たってもグリフォンや騎手がダメージを食らわないよう魔法がかけてある」
まあ、そりゃそうだろ、って話だが。それでも聞かずにはいられない。
「そういえば、魔法って使って良いんですか?」
「試合中は禁止だ。が、試合直前に各種感覚強化、身体強化の魔法を使用することが推奨されている。つまり、使えるんなら使えってことさ」
なるほど。
「他は、グリフォンから降りて地面に立ったら反則負け。それ以外は特に禁止事項もない。ピルムを落としたら拾いに行ったっていいぞ。拾えるんならな。――さて、話してばかりじゃしょうがない。始めるぞ、ピルムを持って飛ぼう」
俺とルカさんは、自分に感覚強化や、身体強化の魔法をかけてからグリフォンに乗り、空を飛んだ。
「――おい!この距離で聞こえるか?」
かなり遠くの方でこちらを向いてホバリングしているルカさんが叫んだ。
「大丈夫です!」
「よし!まずは好きなようにやってみろ!――いくぞ!」
ルカさんは言うが早いか、こちらにピルムを放ってきた!
俺は右に急旋回を指示した。が、相方のグリフォンは俺の指示を無視し、反時計回りの螺旋軌道でピルムを回避しながら前に飛んだ。
ちょっとちょっと、無視しないでくださいよ!
だが、同じくこっちに向かって飛んできたルカさんとお互いに向かい合う形になったので、俺もルカさんの方へピルムを放った。
すると、ルカさんも相方がやったように螺旋軌道の飛行で俺が放ったピルムを回避。俺とルカさんはそのまますれ違った。
俺は後ろを確認するが、すでにルカさんの姿が消えている。どこに行った!?
しかし、俺がルカさんを探しているうちに相方が仰角を上げて円を描いて上昇、背面飛行の状態で百八十度進行方向が逆転。
なんと前方に全く同じ姿勢のルカさんとグリフォンがいた!つか、ピルム飛んできてる!
相方は俺の指示を待つまでもなく、水平に体勢を戻しながらピルムを回避。その途中でルカさんとまたすれ違う。
そして、水平に戻った瞬間相方がものすごい勢いで羽ばたきながら前に叩きつけるように尻を振って急速反転し、俺の視界にこちらに背を向けているルカさんが見えた。
うわわ、後ろとってる!
「≪ピルム ヴラ≫!」
俺はすかさずピルムを放つが、ルカさんは急降下して回避。相方もルカさんを追いかけて急降下し、俺は再びルカさんの後ろをとった。
だが、ルカさんは右斜め上に旋回。そしてそれを相方が追う。
そのまま一回転した俺たちは続けて左に旋回。それから下、左斜め上、右斜め下と旋回するルカさんと、それを追う俺。これは、いわゆるドッグファイトというやつか?
今の所、俺の方がなんとなくルカさんの後ろにいる。
しかし、微妙に後ろを取りきれておらず、ピルムを放ってもそのまま旋回して回避される、という状況が続く。たぶん、向こうの方がちょっと旋回半径が小さいからだ。
右斜め下に旋回して下降した俺のちょっと上の方でルカさんが飛んでいる。
かなり近い!くそ、相方があと少し上を向いてくれれば絶好のポジションに――
突然、ルカさんが視界から消えた。いや、俺の視界の上の方へ消えていったような気がする。もしかして通り過ぎたか!?
相方が必死な様子で上に旋回しようとした。
だが、ちょっと上を向いたあたりで、俺は背中に何かが当たったような衝撃を感じた。
「――なかなか悪くなかったぞ、クライヴ。まあ、そいつに振り回されてたようだがな」
俺の後ろから飛んできたルカさんが、そう言いながら俺の横に並んで飛んだ。
えええ?いつの間に後ろを取られたんだ?相方は横を向き文句を言っているかのような様子でいなないている。
「そいつは戦いの飛び方ってやつに、お前よりか少しばかり詳しいからな。指示なんて聞いてくれやしないだろうさ。……もっとも、それじゃあ俺と相棒には勝てないけどな」
確かに、相方は俺の指示を全く聞かないというか、そもそも俺が指示を出す魔もなかったんだが、相方の飛び方は素人目に見ても効果的というか、常に攻めに回れていた。まあ、実のところは偽りの優勢だったんだろうが。
「今ので分かったと思うが、スカイジョストの基本の基本は相手のケツを取ることだ。それがほとんど全てと言っていい。だからああしてぐるぐる追い回すことになる」
ドッグファイトってやつだな。地球での戦闘機同士の戦いがだいたいそんな感じと聞いたことがあるが、それはこっちでも同じなのか。
「そのための動き、ってのはいろいろあるが、さっき俺がお前に食らわせた時はわざと速度を落としてお前に追い抜かせた。自分の後ろの方に相手がいる時は、とにかく相手より速度を落とすことだ。まあ、場合によってはむしろ相手にチャンスを与えちまうからな、攻撃を食らわないように意識する必要はあるが。……さて、もっとやろう。今はひたすら体で学ぶ時期だぜ」
ルカさんがそう言って、俺たちは再びスカイジョストの練習を始めた。
「キーッ!!」
「……あのー、そろそろ降ろしてくれませんかね」
あの後、練習の時間が終わるまでずっとルカさんと戦っていたが俺と相方は一回も勝てなかった。
なんというか、全体的に向こうの方が運動能力が高い。旋回戦になると絶対に負ける。
相方もそれが分かったのだろう。
相方とルカさんのグリフォンは兄弟だそうだ。兄弟に運動能力で負けてるのがよほど悔しいのか、相方は俺を乗っけたままぐるぐると飛び回っている。
結局、俺は相方が疲れるまでやけっぱちの飛行に付き合わされ、不機嫌な様子の相方を厩舎に戻した頃には19時を過ぎていた。
はあ。
現状、俺が相方に乗っているというより、相方に俺が乗せられている。
そしてたぶん、その方が強い。相方は俺が考えるより遥かに早く、そして理にかなった飛び方を考えることができる。
だけど、それじゃルカさんに勝てない。向こうは五年前からずっと飛んできているわけで、経験にしても、身体能力にしても向こうの方が上だろう。
まあ、そもそもルカさんに勝つ必要はあんまりないような気もするけど。同じ寮だし。……いやいや、負けを認めたらそこで成長が止まっちゃうぞ!
とにかく、ルカさんに勝つんだったら、既存の理とは何か別の理を考えないといけないか。そしてそれを相方に認めさせなくちゃならない。
俺はうんうん唸りながら寮に帰った。




