八十二話 踊らない会議
冬休みが明けて始業式が終わり、俺たちは寮に戻ってきた。
“賢者の塗り油”生産の外部委託はうまくいったらしく、俺たちも生産から解放されて一安心といったところだ。
しかし、最後の最後で新たな爆弾が投げ込まれた。
“ファイブオンファイブ無差別級”の開催。
無差別級、が意味するところは学年不問、ってことだ。
戦闘系競技は普通、学年の間で実力に大きな開きがあるから各学年ごとに行われる。
それが学年不問になるということは。
「よし。ではクライヴとライゼルの競技の話に移ろう」
俺たちは去年と同じように、上級生に呼び出され、会議室っぽいところに来ていた。
「ファイブオンファイブ無差別級は確定、あと一つをどうするかだね」
「戦闘系――というか戦闘能力を分析されるような競技は避けたいところですね。ライゼルも魔法陣ダンジョンアドベンチャーにはできれば出てもらいたくない」
「クイズ王は出場するだけ無駄だ、これから五年はレオミュールの時代だし」
「去年の反省を活かしましょうよ、私たちはクライヴとライゼルの得意なことなんて知らないんだから、本人に任せればいいじゃない。というか、ファイブオンファイブ無差別級に出すことを勝手に決めちゃったけど大丈夫?」
去年のグダグダっぷりを思い出していた俺は、今年はどんだけ長引くことやら、と半分楽しみにしていたが、早々にこちらに聞いてきた。人は成長するってことか。
「俺は大丈夫です。最初から出るつもりでした」
「僕も出ます」
どうやらベルも出るつもりだったようだ。
「じゃあ確定だ。んじゃ、残りの競技を決めちゃってくれ」
さて、と。
残りの競技か。俺は手元のパンフレットをめくり、競技一覧を読んだ。
うーん、戦闘能力がバレるようなのはダメなんだよな。だったら何ができるんだ、って話だが。
「じゃあ、僕はキングスラウンドに出ます」
ベルがそう言った。
キングスラウンドはボードゲームの一種で、チェスに近いような感じだ。確かにそういうの得意な気がするな、ベルは。
魔法を使う競技じゃないが、それを言ったらクイズ王だってそうだ。
「わかった。……クライヴはどうする?」
俺は特にそういうのが得意、とかもない。くっそー、コーヒードリップ対決とかあればなー。
そんなことを考えながら競技一覧を流し読みする俺の目に、ある名前が目に入った。
“スカイジョスト”。
ジョストは馬に乗って一騎討ちする競技だが、このスカイジョストはグリフォンに乗って空を飛びながら、魔法で飛翔する投槍を相手に当てる競技だそうだ。
これなら俺自身がどれくらい強いかはわからないし、そして俺にはドラゴンに乗った経験がある。なにより楽しそう。
「じゃ、スカイジョストにします」
「スカイジョスト!また面白いのを選んだな!よしわかった、それで決まりだ!」
ふう、今年はサクッと終わりそうだな。
「……さて、じゃあ残りのファイブオンファイブ無差別級の出場者はどうする」
って、まだ決まってなかったんかーい。
「適当に数合わせの上級生三人でいいんじゃないか?クライヴとライゼルの邪魔さえしなければいい」
「それにあまり集中させすぎても他の戦闘系競技が壊滅しますからね」
「でも戦力にならないようだと流石にきついと思うけど?他の寮はちゃんと戦えるやつを揃えてくるでしょ、実質二対五で戦うことになっちゃうわ」
「ならセシリー、君が出ろ。去年のデュエルは三回戦まで進んだんだろう?それに練習でクライヴとも戦ったはずだ」
「いいけど、もう一つは?」
「デュエルでいいだろ。分析されて何が困る」
「言ってくれるわね、その通りだけど。わかったわ、私も出る。じゃあ後二人は?」
一人は上級生のセシリーさんが出ることになった。
去年の会議でヒステリーを起こしてたり、何回かデュエルの練習で戦ったことがあるから覚えてる。バトルロイヤルの説明をしてくれたのもこの人だ。
「僕が出ましょうか?一対一の戦いでは正直話になりませんが、サポートに徹すればそれなりに活躍できる自信はありますよ」
去年はこの会議に出席してなかった気がする、秀才キャラっぽい雰囲気の眼鏡の男の人が提案した。
「いいだろう。ならネスラー、君にも出てもらおう。後一人は俺でいいか?」
ちょっといかつい感じの上級生が言った。確かキースさんだっけ?去年の会議もこの人が仕切ってたな、そういえば。
「……戦力が集中しすぎでは?」
「構わん。バトルロイヤルはどうせ優勝できん。セシリー抜きではファイブオンファイブも戦えない。六年の戦闘系は捨てる。最後にクライヴとライゼルに花を持たせてもらうさ。……よし、ではこれにて解散だ!ご苦労だった」
キースさんはそう言って会議は終わった。
ちょっとちょっと、あんま期待しすぎないでくださいよ。
そして競技会二週間前になり、全授業が二十分短縮される練習期間が始まった。
情報によると、他の寮の無差別級の出場者も知った顔が揃っているようだ。
オオタカ寮はマリーと、製薬チームの一人、マリーが連れてきたダンス師匠ミナ・ヘイズさんを主軸としたチームだそうだ。戦ってみたいとは思っていたが、こんなに早く対戦が実現するとは。
オオタカ寮もそれほど戦力が充実してるわけではないらしく、怖いのはこの二人くらいらしい。
どういう戦い方をしてくるだろう?マリーもミナさんも大きく動くスタイルだから陣形もクソもない。下手したら全員ぴょんぴょんするってことも考えられる。それはちょっと見てみたいな。
イヌワシ寮はというと、名が知れ渡っているのはシャーロットとディアナのオークス姉妹だけで、他三人は仲間との連携がうまい上級生を集めてきたとのこと。
まあ、やりたいことは想像がつく。ディアナ・オークスは今回の無差別級で唯一の一年生だそうだが、破壊力は最強クラスだろう。アホみたいなパワーを誇るディアナの必殺技、最大級の攻撃呪文の欠点である謎ポーズと口上による隙の大きさはチーム戦ならある程度カバーできる。多分遠くから好き放題ぶっ放してくるはずだ。早急に仕留めたいが、姉貴もいるからな。
ドラゴン寮チームの要注意選手は全員だそうだ。下馬評ではダントツの優勝候補らしい。
まず、アレン、ルイス、ボーヴォラークの二年トリオは出場するようだ。それ自体はふーん、って感じで、むしろ三人全員出場したことの方が驚きだ。ドラゴン寮にはこの三人より強い上級生もたくさんいるイメージだったが。
問題は残りの二人で、一人は五年生のウォルト・マクヴァティ。つまり、アレンの兄貴だ。今でさえ結構強いアレンの五年生バージョンと考えると割と恐ろしいものがある。
そしてもう一人はセオドール・ヴィロウとかいう六年生だ。
ベルに聞いてみたところやっぱり貴族で、軍人の家系らしい。この時点で強そうな気配しかしないが、キースさんやセシリーさんによると「六年生最強の男」だそうだ。それってつまり、学院最強ってことでは?
んで、ツバメ寮チームは俺とベルが出る。
作戦は、円陣魔法で圧殺。まあ、当たり前だ。とにかくベルが自由に動けるようにしてやる必要がある。俺含め他の四人はベルの護衛だ。
無差別級はそんな感じのお祭り騒ぎなわけだが、俺にはスカイジョストもある。
俺は今、グリフォンの厩舎にきていた。
そこかしこから甲高いいななきが聞こえてくる。鷲の頭に、栗色の毛で覆われた獅子の胴。そして大きい翼。グリフォンのいななきだ。
上空を見ると、すでに小さな影がいくつか飛び回っている。
「――それでは、スカイジョストに参加する選手は集まってください!まだグリフォンに騎乗した経験のない方はこちらに!」
若そうなお兄さんが号令をかけた。制服を着ていないから生徒ではないようだ。ここの飼育員か何かか?
俺はお兄さんの指示に従ってグリフォンに騎乗した経験のないグループの方に行った。
「はい、ではこれからあなたたちにグリフォンの乗り方を指導します。ついてきてください」
さて。
いよいよグリフォンに騎乗か。ちょっと興奮してきたな。




