七十四話 キャノン・モンスター
突然俺に決闘をふっかけてきた女の子は、ディアナ・オークスと名乗った。
オークス。それに同じ髪の色。この子、オークスの妹か!なんというか、姉貴と全然違うな。
で、決闘だって?
「いいよ」
「やった!……それじゃあ、早速やりましょう!」
ディアナ・オークスはたたたっ、と走って距離をとった。
「……で、どのくらい強いんだ?」
俺は姉の方のオークスにそう聞いた。
まあ、去年のオークスを考えるに弱いってことはないだろうが、一年の差があるからな。
「手加減しなくて大丈夫。……あなたには遠く及ばないけど、面白いものが見れるはず」
面白いもの?
まあ、オークスの言葉を信じるなら、差はあるものの手加減無用で戦える程度の強さはあるってくらいか。
「くっ、姉の心無い評価!ですが、きっと見返してやりますとも……!」
ディアナ・オークスは俺に杖を向けながら言った。
向こうは準備万端らしいな。じゃあ始めるか。
俺たちは互いに礼をして、決闘を開始した。
俺は姉貴のように攻撃呪文を想起発動してくることを警戒し、牽制の攻撃を放ちながら後退するが、オークスからはあのガトリング攻撃呪文は飛んでこなかった。
代わりに、なにやら変な動き、例えるならヒーローが変身するときのような動きをしながら何かを声高に叫んでいる。
「――さあ穿て、紅き必殺のぉ!……≪ウフェンデ フルティッシムム≫!!」
は?
とっさに避けた俺のすぐ横を、ものすごく太い赤い光の奔流がぎゅおぉーん、と空気を震わせ駆け抜けた。この感じは、目の前で新幹線が通り過ぎる感覚に近い。
これは、“最上級”の呪文じゃないか!魔法を強化する系の呪文の中でも最強の効力を誇るものの一つ!
あのナゾのポーズと口上はともかく、少しでも掠ったら一発KOだぞ!?
「むっ。外しましたか。ならもう一度、翔べよ真紅の大や――」
「≪ウフェンデ フルティウス≫」
俺はもう一度発動しようとして、またしてもナゾポーズと口上をキメるオークスに攻撃呪文を放った。
すると。
「ふぎゃっ」
なぜか一切の回避行動をとらなかったオークスに呪文が直撃、安全バリアーが破壊されオークスはくの字になって吹き飛んだ。
「――このう、決めポーズをしている相手を攻撃するやつがありますか!」
吹き飛ばされて地に伏したオークスは勢いよく身を起こすと、俺にそう抗議した。いやいやいや。
「つか、あれはなんなんだ」
「決めポーズです!」
そ、そうか。
「……意味がないわけじゃない、あれには想起を補助する役割がある。ディアナはあれをやらないと最上級の呪文を発動できない」
姉貴の方がそう言った。なんだそりゃ。
確かに最上級の呪文をあの歳で普通に唱えられるとは思えないが。だからといって、あの謎の儀式をすれば発動できます、と言われてもな。
「そんなことできんのか」
「頭の中で視覚的に表現するか、別のやり方で表現するかの違い。――と父さんが言っていた」
へえ。
つまりは、想像じゃない想起、ってことか。
「ぬぬぬ、さすがはお姉ちゃんとしのぎを削る男!ですがこれからは毎週――」
「やあやあやあ!クライヴ君、そしてディアナ・オークス君!面白い戦いだった!最上級の攻撃呪文が見れるとは!」
うわ。
お付きの人たちとともに、ウィロス大臣のご登場だ。うるさいのが増えてしまったぞ。
「――挑ませてもらいますよ!あなたの戦いを丸裸にしてやります!」
「今年の決闘クラブからも目が離せんな!去年のルーキーが成長し!そして新しいルーキーが現れる!」
「……。いえ!毎週、などと言わず!今!今もう一回やりましょう!今度は想起発動も使う!」
「さて、姉君やライゼルくん!マクヴァティ君やベルブック君はどうしているかな!?それに!クライヴ君の全力も!見せてもらいたいものだ!」
あああああああああ!
二人で同時に喋るなあっ!しかもだんだん声大きくなってってるし!対抗してんじゃねーよ!
「大臣ッ!お時間ですッ!」
「なに!そうか!――では、また会おう!君たち!今年も活躍を楽しみにしているよ!」
ウィロス大臣はそう言い残して、いつものように引きずられていった。
はあ。思わずため息が漏れた。
「さあ!もう一度やりましょう!」
ああもう、こっちもいたか。
結局、今日の決闘クラブはディアナ・オークスとしか戦わなかった。ベルや、姉貴の方、そしてアレンなんかもたまにこっちに挑みたそうなそぶりを見せていたが、狂犬のように俺に挑み掛かるディアナ・オークスの様子に尻込みしてしまったらしい。
しかしまあ、さすがはオークスの妹といったところだ。
姉と同じく想起発動で攻撃呪文を乱射してきたし、俺の動きに慣れるのも早くて戦いを重ねるうちに最上級攻撃呪文、ディアナ砲の精度も上がっていった。ちゃんと全勝したけど。
「くっ、今週のクライヴチャレンジは失敗に終わりましたか。ではまた来週!」
ディアナ・オークスは俺に宣戦布告をすると、姉を置いてぴゅーっと帰っていった。
「……まあ、うるさいやつだけど。できれば付き合ってやって。戦いへの情熱は本物――刺激になるはず」
そう言ってシャーロット・オークスも帰っていった。
「……やれやれ。すごい妹さんだね、こっちにも流れ弾が飛んできたよ」
ベルは呆れ半分、愉快半分、といった様子だ。
「まあ、火力は姉貴以上じゃないか?ちょっと火力一辺倒な気もするけど」
「もしかしたらシャーロット・オークスも入学したての頃はあんな感じだったのかもね。……ところで、リオは来年の交換留学に参加するつもりはあるかい?」
……ん?
「え、なに、交換留学って」
「あれ、知らなかったか。いや、うちの学院は毎年三年生をオディガ=レムドレーラのレムドレーラ学院に留学させてるんだよ。リオも成績的にお誘いが来ると思うけど」




