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異世界転生してコーヒー無かったら普通世界の果てまで探しに行くよね?  作者: えびはら
学院編二年生の部:妖精の話し手
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七十一話 ベルの異変

「こんばんは、ミスター・クラ――。待った!今のは無しにしてくれ」


 いつものように閉館ぎりぎりに図書館を出て、寮に帰った俺を出迎えたのは、やけに恭しく挨拶しようとして、途中でやめて変なポーズで固まっているベルだった。


「ど、どうした」


「ご心配には――ああもう!いや、その。夏休み中は、茶会や晩餐会が沢山あって。それで、ずっと目上の人と会話しており――していたから、変な癖がついてしまったんだ」


 な、なんだそりゃ。


「マナーの気にしすぎ症候群ってことか」


「ええ、その通りでござ――そうだよ!」


 ベルはまた思わず丁寧な言葉遣いになってしまいそうなのを訂正した。こりゃ重症だな。


「ボーヴォラークは特におかしい様子はなかったけどな。いや、やってることはおかしかったけど」


「彼女は生粋の貴族ですか――お気に留められないようでしたらこのままでもよろしいでしょうか?」


 ベルは大きくかぶりを振ってから、ついに諦めたのかそんなことを言い出した。


「いやいや、ここで矯正しないとキャラ変わっちゃうだろ」


「そうで――そう、だね。努力するよ」


「つか、ベルも大貴族なんじゃないのか」


「いえ。……まあ、そうなんだけど。精神性、というか。魂がさ、貴族なので――なんだよ、彼女は。……そういえば、何かしでかしたようだけど」


 おお。

 まだ怪しいが普通になってきたぞ。


「そうそう。部屋に書斎を作るんだってよ。アレンとかルイスとかに本運ばせてた」


「書斎?リオやレオミュールに対抗してるのか」


「らしいな。それで部屋に書斎作っちゃうのがあいつのすごいところだけど」


「だね。……ところで、リオは夏休みはどうだったんだい?僕はまあ、知っての通りだけど……」


 おっと、また夏休みの話だ。

 俺はまた竜の巣への冒険について話した。

 いい加減慣れてきたのか、なんかだいぶスムーズに語れるようになった。


「……とんでもない夏休みだね。ドラゴンに乗って、闇の魔法を使う盗賊を倒したって?」


「俺もここまでの事態になるとは思ってなかったわ、マジで」


 ベルも後遺症が残る程度には大変な夏休みを過ごしたようだが、やはり俺のようにアホみたいな夏休みを過ごしたやつはそうそういないか。


「しかしいいなぁ」


 ん?

 ベルが突然、ボソッと呟いた。


「リオがずっと魔大陸に興味があったなんて初めて聞いたけど……そうやって興味のあることに熱中できる、っていうのはさ。僕だって充実してないわけじゃないけど、好きに生きてるかって言われるとそうじゃないからね」


 ベルがちょっとアンニュイな感じの顔をして言った。

 お、おい。いきなり貴族生まれの闇を見せないでくれ。


「……まあでも、俺だって妖精と話せるようにならないといけないしな」


 そう。魔大陸や、一部の秘境と呼ばれるような土地では、魔力が意思を持っているから魔法が自由に使えないらしい。そんな状況でも魔法が使えるようになるためには、妖精と話せるようにならないといけないそうだが。


「フェアリー・トーカーだっけ?それのことも含めてだけど、確かに、魔大陸に行くって夢を叶えるのはなかなか大変そうだね」


 正確には、魔大陸に生えてるかもしれない植物から飲み物を作ることが夢だけどな。


 さて、もう結構遅い時間だ。

 適当なところで会話を切り上げて、俺たちは眠った。


「――それでは、今日の授業はここまでです。ありがとうございました!」


 始業式から三日後。

 入学式が昨日あって、俺は一年前のことを少し思い出した。

 今頃新入生は学院案内で各所を巡っていることだろう。ああ、図書館に行くのが待ち遠しくて仕方なかったな、あん時は。

 まあ、二年生に案内するようなところは特にないので、俺たちは普通に授業だ。

 今は三限目で、言語技能の授業だ。担当は昨年に引き続きエイラ・メイガン先生だ。

 その見目麗しさと優しさで特に男子から高い人気を誇る先生だが――司書さんから聞いた話によると、この人は妖精の言葉を理解できる、フェアリー・トーカーらしい。


「あのー、すいません。ちょっといいですか?」


 俺は教壇で荷物をまとめているメイガン先生に声をかけた。


「はい?なんでしょう」


「ええと。……先生は、フェアリー・トーカーなんですか?」


 俺がそう聞くと、メイガン先生の目つきが少しキリッとなった。


「……よく知ってますね?ええ、確かに、私はフェアリー・トーカーです」


 き、きたっ!


「その、単刀直入に聞くんですけど。フェアリー・トーカーになる方法とかってありますか?」


「フェアリー・トーカーになる方法、ですか?……うーん。ない、かな?」


 えええ。


「……あっ、ごめんね!つい身もふたもないことを言っちゃって……。その、私も偶然そうだったというか、なんていうのかを後で知ったので」


 うーん、先天的なものなのかなあ。

 でも、アンナの碑文では習得できるような口ぶりだったぞ。


「じゃあ、妖精と話す感覚、ってどんな感じなんですか?」


「うーん。それも、口ではうまく言えないんだけど……。そうだ、リオくんは今日の夜は空いてるかな?そんなにかからないと思うんだけど」


 今日の夜?

 まあ、別に大丈夫だ。


「大丈夫です」


「じゃあ、そうですね……。西の桟橋に、十九時に来てください。そこで妖精に語りかけて魔法を発動するところをお見せします。――妖精魔法、とでも言えばいいかしら?」


 おおお、妖精魔法。


「わっ、わかりました。ありがとうございました」


「それでは、今日の夜にまた会いましょう。残りの授業、頑張ってね!」


 俺はメイガン先生から激励の言葉を受け取って別れた。


 今日の十九時。島の西の桟橋か。

 妖精に語りかけて発動する、妖精魔法。魔大陸攻略の糸口だ。

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