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六十七話 竜の力

 ヴィンスの姿が異形と化した。

 こちらに構うことなく笑い続けている。どうやら自分が手に入れた力に夢中で、俺のことは完全に眼中にないらしい。


「≪ウフェンデ(叩きつけよ) フルティウス(より強く)≫!」


 俺は無防備なヴィンスに容赦無く強力な攻撃呪文をぶち込んだ、が――


「んん?」


「なっ!?」


 ヴィンスはちょっとのけぞっただけで、まるで意に介していない!嘘だろ、≪フルティウス(より強く)≫で通じないのかよ!?少なくともワイバーン並みの硬さがあるぞ、これ!


「へへ、そういやいたなあ!ガキぃ!ちょっくら遊んでみっか!――≪ウフェンデ(叩きつけよ)≫!」


 ヴィンスが適当に振った杖先から、ものすごい強力な攻撃呪文がギュイーンと唸りながら飛んできた!

 おいおいおい、ただの≪ウフェンデ(叩きつけよ)≫でこれかよ!俺が≪フルティウス(より強く)≫を唱えて撃つより強くないか!?


「はは、はーっ!!爽快だな、おい!お前の攻撃は通じねえ!こっちはカス攻撃でも当てりゃいい!今闇の魔法使ったらどうなるんだ、ええ!?――≪ウフェンデ(叩きつけよ) オブスカーレー(昏く)≫!!」


 黒い攻撃呪文が飛んでくる。さっきよりも何倍も大きくて、速くて、強い!


 俺はなんとか躱した。

 が、余波だけで少し体が痺れるぞ、これ!


「すげェーーーッ!!壁が消えちまったァ!もっと壊してェ、≪ウフェンデ(叩きつけよ) オブスカーレー(昏く)≫!」


 ヴィンスは闇の攻撃呪文を滅茶苦茶に乱射し始めた!

 俺は≪エルケ(妨げよ)≫で受け流しながらなんとか回避するが、くそ、これじゃあどうしようもない!


「≪エクア(水よ) フルエ(流れよ) メグネー(多く)≫!――≪フローゲー(凍てつけ)≫!!」


 化け物相手は凍結戦法に限る!

 俺は棒立ちで乱射するヴィンスに水をぶっかけて氷漬けにした。これでどうだ!?


「オオォォォォォーッ、≪オグニ(炎よ) エルデ(燃えよ)≫!」


 なぁ!?んな馬鹿な!


 ヴィンスはグッと力を込めてあっさり氷を粉砕、そして自分自身に炎の呪文を放って、細かい氷を溶かしてしまった。

 ちょ、凍結戦法もダメなの!?


「無駄無駄無駄ァ!今の俺は、最強だァ!!焼き尽くしてやる――≪オグニ(炎よ) エルデ(燃えよ) オブスカーレー(昏く)≫!!」


 俺の視界が真っ黒に染まる。

 ヴィンスが放った闇の炎は、それこそドラゴンの火炎を思い起こさせるような勢いだ。


「≪エルケ(妨げよ) フルティウス(より強く)≫!」


 俺は防御の呪文で一瞬だけ時間を稼ぎ、その隙になんとか闇の炎から逃れた。


 んもう。

 手がつけられないぞ、あとまだ俺が切ってないカードといえば――闇の魔法しかない。


「――≪ウフェンデ(叩きつけよ) オブスカーレー(昏く) フルティウス(より強く)≫!」


 俺は自身の渇望を呪文に乗せて、黒い攻撃呪文を放った。

 漆黒の槍がヴィンスに直撃する。


「ぬおおっ!?」


 ヴィンスは苦しそうに呻いてのけぞった。き、効いてるぞ!

 が、しかし。


「――ひひひひひィ!残念だなァ!こんくらいじゃあ、すぐに治っちまうよ!」


 ヴィンスの言葉通り、俺が与えた傷は瞬く間に再生してしまった。

 ああくそ、そういや吸収直後も再生してたな、こいつ!超火力超防御の上に再生能力とか反則だろマジ!


 だけど、傷つけられるんなら、根気よくぶち込んでいけば何かが起きるかもしれない!

 粉末ひとつまみであらゆる病気を治すようなもんとはいえ、吸収したのは古い鱗一つ分だけだ、まさかこんな超絶強化が永遠に続くわけじゃないだろう。


「≪ウフェンディーテ(叩け叩け叩け) オブスカーレー(昏く) フルティウス(より強く) ティル(三度)≫!」


 俺は複呪文で闇の攻撃呪文を放った。三発の攻撃呪文がヴィンスの胸をしたたかに打ちつける!


「ぐはぁ!――効くかァ!!」


 ヴィンスの傷口から煙が立ち上り、シュウシュウと音を立てながらどんどん再生していく。

 くそ、やっぱり再生されるか!


「だがくそ、お前もしぶてえなあ!それに、なかなか強力な闇の魔法を使うじゃねえか!分かるぞ、ガキ!お前の闇は欲望だ!お前は何かを求めている!異常にその何かを求めすぎてる変態野郎だ!そうじゃなきゃお前みてえなガキがこんな闇の魔法を撃てるか!」


 ヴィンスは俺にそういった。

 変態野郎、か。確かにそうかもしれないな。たかだか好きな飲み物なんかのために、竜の巣に飛び込む俺は変態なのかもしれない。

 さすがは欲望ソムリエ、人の欲望を見る目は確かか。


「このままじゃ埒があかねえ、もっとだ、もっと!鱗はまだ力を残してやがる!もっとよこせ!――≪スルベー(吸え) フルティティル(強く)≫!!」


 ヴィンスがさらに鱗から力を吸収した!

 おい、これ以上強化されたら流石にどうしようもないぞ!ドラゴンに頼るしかないか!?


 だが、何やら様子がおかしい。

 ヴィンスの体が大きくなった。筋肉が盛り上がり、歯、爪は鋭く尖り、全身の毛がみるみる伸びていった。

 完全にモンスターの見た目になったが、変化はそこで終わらない。ヴィンスの体はどんどん膨れ上がり、筋肉っつうかただのグロい肉塊になってきた。


「おおおおぉぉーーーーっ!?」

 

 肉塊はそのままヴィンスの十倍くらいの大きさにまで成長し、重さに耐えきれなくなったヴィンスが床に倒れこむ。

 さらに肉塊は成長を続け、完全にヴィンスの体が見えなくなったあたりで突如として破裂、肉片が周囲に四散した。


 うおおおお、グロいグロいグロい!

 俺はとっさに≪エルケ(妨げよ)≫の呪文を連発し、自分の方に飛んでくる肉片を防いだ。


 肉片の雨が病み、周囲にえげつない臭いが立ち込める。

 ヴィンスの方を見ると、だいたい元の大きさぐらいにしぼんだ、なんとか人型を保っている塊がべちょりと横たわっているだけだった。


 え?これ、もう死んでるというか、それどころじゃないよね?

 なんか、暴走して自爆したとか、そういう感じ?


 俺はとりあえず郵便局内を探索して竜の鱗を回収し、郵便局を出た。


「――当然の結果だ、欲深いこそ泥め。過ぎた力は身を滅ぼすなど、愚者でさえ得意げに語る陳腐な戒めではないか。……うむ。鱗はこれで全てだ。大儀であったぞ、少年」


 上からドラゴンの声が聞こえた。

 見上げると、すぐそこで羽ばたいてホバリングしている。そ、そういやすごい風だ。


「お疲れさま。……なんか臭くない?何があったの?」


 俺の方に近づいてきたシェスフィが、うっと呻いて鼻をつまんだ。


「ああ、まあ、色々あった。最終的にヴィンスは爆発した」


 シェスフィは困惑したような表情で「爆発?」と呟いた。


「では戻ろうではないか。少年よ、あの碑文が語ることを我に語れ」


 そう言ってドラゴンはその場に着陸した。当然、建物が何軒か潰れたが、まあ、コラテラルダメージ、ってやつだろう。


 俺たちはドラゴンの背中に乗り、再び絶叫フライトを堪能して竜の巣へと戻った。

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