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六十二話 竜の巣への旅

 作戦会議から三日経ち、俺とシェスフィはモンス・エルブスの方角、ヘルムトの町の北門に集合した。


「……会ったか?」


 俺がそう聞くと、シェスフィは一枚の紙切れを見せて来た。「逃げられると思うな」と書かれている。


「なるほど」


 俺たちは北門から町を出た。


「……結構早足だな」


 先導するシェスフィの歩行スピードはかなり高速だ。これでスタミナが持つのか?


「魔法使えばついてこれるでしょ?」


「いや、そういう――」


「これでもつい何ヶ月か前までは山に住んでいたのよ。普通の人間よりははるかに動けるわ」


 ああ、まあ、それはそうか。


 今、俺たちが歩いているところも結構標高が高いはずだが、まあ俺だって二週間くらい生活して慣れたからな。

 モンス・エルブスに登ったらどうなるかはわからないが。


「竜の巣、ってのはやっぱり頂上にあるのか?」


「いいえ。高さ自体ははっきり言ってそれほど高くないわ。山の中腹部にある、わたしがいた里とそんなに変わらない。行くのはそれほど難しくないのよ――ドラゴンさえいなければね」


 ほうほう。そこまでガチな登山をするわけじゃなくて、問題はドラゴンからいかに隠れるか、ってことなのか。


「竜の巣は、山にできた巨大な空洞よ。ちょうどチーズに空いてる穴のような感じにね。……で、そこに通じる細い洞窟があるの。そこを通れば数時間で着くわ」


 なるほど、それが近道というわけか。


 さて。

 まだ町を出て間も無いが、この辺は俺も冒険者協会で依頼を受けてよく来る場所だ。


 つまり、モンスターが出てくる。


 岩陰から、こげ茶の巨体がぬっと姿を現した。

 セープラグリズリーとかいう、この辺に出没するクマだ。


「剣抜いとけ」


「ええ」


 よくクマは人間を怖がる、みたいなことが言われるが、こいつは異常な攻撃性が恐れられるモンスターで、自分より小さい動くものにはなんでも襲いかかるらしい。

 

 クマは唸り声をあげながらこちらに豪快に突進してくる。

 こちらにものすごいスピードで迫る巨体にはたいそう運動エネルギーが大きいのだろうが、まあ、それでもワイバーンとかに比べたら大したことはない。


「≪エルケ(妨げよ) フルティティル(強く)≫!」


 俺が放った防御の呪文に激突して突進を止められたクマが、衝撃でグロッキーになったかふらついている。


「≪ウフェンデ(叩きつけよ) フルティティル(強く)≫!――」


 俺はふらついているクマに攻撃呪文を放ち、もう一発≪オテラー(反復せよ)≫の呪文でぶち込んだ。巨体がゆっくりと倒れ、そのままピクリとも動かなくなった。


「お疲れ様。さすがは魔法使い、モンスターの心配はしなくてよさそうね」


「そいつはどうも。……あんたはどんくらい戦えるんだ?」


「まあ、今のやつくらいなら倒せるわ。……あなたがやったほうがよほど早くて体力も消耗しないから、わたしの出る幕はないでしょうけどね」


 おお、倒せるのか。

 意外と強いな、山の民。剣一本でクマと真正面から戦えるくらいの実力があるのか。


 その後も俺たちは散発的なモンスターの襲撃を退けつつ早足で山を進み、空が赤くなってきた頃、野営の準備を始めた。

 モンスター、そしてたぶんこっそり付いて来てるであろうヴィンスの襲撃を警戒し、俺たちは交代して番をした。


 そして何事もなく平和に夜が明け、竜の巣への旅の二日目が始まった。

 この日はまあまあ大変だった。ほとんど垂直なゴツゴツとした岩壁の前に来ると、シェスフィが「これくらい行けるでしょ?ついてきて」と言ってスイスイと登り始めた。

 一応、俺も身体能力を魔法で強化しているし、グリップのきく学院シューズやグローブがあるので、シェスフィが足がかりにした場所や、掴んだ場所をマネして追いかけていけば簡単に登れた。

 そのあとも足を踏み外したら一気に数百メートルは落下するような、かなり細い道を進んだりした。幅が数十センチしかなくて、しかも遥か下がよく見えてしまうので割と怖かった。シェスフィは「ここ通んないとすっごい時間かかるわよ」と言いながら、特に怖がる様子もなく進んでいたが。

 ここでヴィンスに襲われたらヤバくないか?と思ったが、幸いにも襲撃はなかった。向こうも必死だったのかもしれない。


 恐怖の細道を乗り越え、またしばらく山を進み日が暮れて少し経った頃、俺たちは細い岩の裂け目の前にやってきた。


「ここが竜の巣へと通じる洞窟よ」


 ここがか。

 その裂け目は人が一人やっと通れるような細い隙間で、中は黒ペンで塗りつぶしたように真っ暗で何も見えない。


「入りましょう。今日はこの中で一晩休んで、明日竜の巣へ行くわ」


 俺たちは洞窟の中に入り、ちょっと広いスペースを見つけてそこで夜を明かした。


 そして、入り口の裂け目から光が差し込んできた。

 朝だ。


 俺たちは竜の巣へ向けて、洞窟を進んでいった。


「……まだヴィンスが来る気配はないわね、本当に来てるのかしら?」


 しばらく洞窟を進み、ちょっと休憩をしている時にシェスフィが言った。


「まあ、竜の巣に着くまでは手を出してこないんじゃないか?……もし、ヴィンスが来てないようだったらどうする?」


「帰るわ」


「断言したな」


「あなたにしても帰らざるを得ないわよ」


 ん?

 どういうことだ?


「ヴィンスは使い捨ての、ヘルムトかどこかまで転移するための道具を何か持ってきているはず。それを奪わないと竜の鱗を持って帰れない」


「別に転移なんかしなくても歩いて帰ればいいじゃないか」


「いいえ。ドラゴンはものすごーく自分のことが好きな生き物なの。だから、剥がれ落ちた自分の鱗でさえ大切にするし、無くなったらすぐに気づくわ。一瞬で長距離を逃げないとドラゴンに追い回される」


 なんだと。


「……なんでそんな重要なことを今更言うんだよ!?」


「だって転移用の道具なんて、使い捨てだって高くて買えたもんじゃないでしょ?ヴィンスが持ってくるのに頼るしかないわ」


 まあ、シェスフィの言う通り、遠く離れた所へと一瞬でワープする、転移ができる道具というのはどれもこれもムチャクチャ高い。まあ、ユニコーン馬車と同じく今の俺ではちょっと手が出ないようなものだ。


 にしても言えよとも思うが。

 くそ、こんなチームワークで大丈夫なのか?呉越同舟っつうのは現実には厳しいもんだ。


「じゃ、そろそろ行きましょうか。……竜の巣まではもうすぐよ」

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